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AIを越えるのか「OI」オルガノイド・インテリジェンス
コグニション1.0、の・ようなもの

2023.06.09

Updated by Masahiko Hara on June 9, 2023, 14:08 pm JST

「アンドロイド」というと、携帯のOSを思い浮かべる人は、生まれながらにしてタッチパネルのある世の中を普通とする世代です。その一つか二つか前の世代は、ブレードランナー(1982)や、その昔のメトロポリス(1927)の映画に登場する「人造人間」すなわち、andro=人、-oid=のようなもの、を思い出します。

-oidという接尾語は、英語のhumanに付ければ「ヒューマノイド」となります。要は、鉄人28号やガンダムのようなロボットというよりは、より人間の形に近い、鉄腕アトムのようなロボットから「-oid」という接尾語が使われる、という感じだと思います。

ちなみに「サイボーグ」はというと、これは「改造人間」なので、cybernetic=人工的な、organism=生命体、となり、基本は生き物で、そこに人工的な臓器や構造を埋め込む形になります。

ここで表題の「オルガノイド」の登場です。organism=生命体、ないしはorgan=臓器、の-oid=のようなもの、ということになります。

「オルガノイド」が何であるかは、既に多くの説明があるので(例えば、https://organoid.riken.jp)そちらを参照して頂ければと思いますが、イメージ的にいうと、種(たね)となる細胞を培養して、自然界の自己組織化から、様々な環境下で、cmスケールのマリモのような立体構造にまで成長させて、何かに使いましょう、という、この10年で急成長した新しい研究分野となります。

ところが、ここでその「オルガノイド」を利用した新しいバイオコンピューティング、チップないしはディッシュの上で、自然「知能」の発現を試みる「オルガノイド・インテリジェンス = OI」研究が注目されています。

DNAの二重螺旋構造を提唱したワトソン、クリック両博士や、ゲノムプロジェクトを先導し、後に沖縄科学技術大学院大学の初代理事長になったブレナ博士など、20名近くのノーベル賞受賞者を輩出する英国ケンブリッジのMRC分子生物学研究所のランカスター博士らは、その「オルガノイド」を小さな脳に見立てて、環境を制御して「入力と出力」を施すことによって、その成長、学習、そして情報処理能力を調べようとしています。これはMRCに限らず、世界中の研究者が、我先にと「OI」の可能性を追求して、ノーベル賞狙いの熾烈なレースが繰り広げられています

ところで、「の・ようなもの」(1981)は、森田芳光監督による映画で秋吉久美子さんが印象的でした。
「オルガノイド・インテリジェンス = OI」はAIを越えるのか、については、それらの研究者に任せておけば良いでしょう。しかし、この「オルガノイド」生命体、の・ようなもの、に対して、研究者が「入力と出力」といっているうちは、粘菌アメーバの「入力と出力」の・ようなもの、なので、まだ良いのですが、これを研究者の誰かが「知覚と造形」の・ようなもの、と言い出したら、私は少しどころか、とてつもなく焦ることになります。

実は、この「OI」に対する「入力と出力」と「知覚と造形」の境界には、AIを乗り越えるヒントが隠されているように思われるのです。「入力と出力」を「知覚と造形」にすることにより、人工「知能」から自然「知能」ではなく、自然「知性」の・ようなもの、へと展開されれば、ノーベル賞どころか、インダストリー何点ゼロという「産業革命」を繰り返す時代が終わり、コグニション1.0とでも言うべき「認識革命」の時代が始まる可能性があります。

これは「チューリングがいなかったら」「ノイマンがいなかったら」という議論をすることなく、ハードとソフトを組み合わせるという暗黙の了解の「産業革命」時代が終わり、石器時代、縄文時代、弥生時代などの変遷以上のインパクトをもたらす、人類最後とも言えそうな、認識と知性を凌駕する「認識革命」的な時代の扉を開けることになるかもしれません。

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原 正彦(はら・まさひこ)

ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー。1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、83年修士修了、88年工学博士。81年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。85年4月から理化学研究所の高分子化学研究室研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能、揺律機能などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。2003年4月から東京工業大学教授。現在はアーヘン工科大学シニア・フェロー、東京工業大学特別研究員、熊本大学大学院先導機構客員教授、ロンドン芸術大学客員研究員を務める。