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美少女以外のヒロインは可能か? 宮崎駿の答えを読み解く

2023.08.29

Updated by WirelessWire News編集部 on August 29, 2023, 13:19 pm JST

若くて可愛いだけのヒロインにはうんざり

映画「ハウルの動く城」(2004)で、宮崎駿は「美少女以外のヒロインは可能か?」という問題に正面から取り組んだ。この作品では、ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台に、国家の戦争に駆り出される魔法使いたちの物語が描かれる。

主人公は、呪いによって90歳のおばあさんに姿を変えられたソフィー。従来の宮崎の作品のヒロインは美少女が定番であったが、今回は成熟した高齢女性がスクリーンの中でイキイキと動き出す。スタジオジブリ内の打ち合わせで、ある女性スタッフが「従来の若くて可愛いだけのヒロインにはうんざり。最後まで老婆のままでいい」という意見が出たことが、このヒロイン像に影響を与えている(叶精二『宮崎駿全書』フィルムアート社、2006年)。

プロデューサーの鈴木敏夫によれば、宮崎は製作初期には「本格的な恋愛映画」を目指していた(鈴木敏夫『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』、文春新書、2019年)。高齢女性の恋愛をアニメーション作品で描くという難題に挑戦していると言えるだろう。

ところが、実際に作品を観てみると、いわく言い難い。映画の公開後には批判も頻出し、主人公の女の子が可愛くない、ストーリーがわかりにくい、宮崎の作品のパターンの焼き直しである、脚本にほころびがある等の酷評が出た(叶、前掲書、2006年)。批評家の杉田俊介は、この作品は失敗作であると言い切っている(杉田俊介『宮崎駿論 神々と子どもたちの物語』NHKブックス、2014年)。

たしかに「ハウルの動く城」は、これまでの宮崎作品の単純明快なエンターテイメント路線とは一線を画し、まるで詩のような映像構成になっている。つまり、作品理解を観客の感性に委ねているのだ(叶、前掲書、2006年)。よく言えば芸術的で、悪く言えばわかりにくい。

そもそも、主人公のソフィーは呪いによって90歳の老婆になったあと、なぜか容姿が若返ったり、年取ったりする。もちろん、魔法の力だと言えばそれまでだが、ハウルとのラブロマンスの場面は、若返った容姿であることが多く、ジェンダーの視点から見れば、結局は美男美女の恋物語と言えなくもない。

しかし、そうは切り捨てられない魅力がこの作品にはある。今回は二点に絞り、その魅力を描き出してみたい。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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