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人はDXで進化できるのか。巷にあふれる「進化」の誤解

2023.10.26

Updated by WirelessWire News編集部 on October 26, 2023, 06:36 am JST

「ピカチュウに変態した!」と言えなくて

「進化」というとポケモンのピチューがピカチュウに変化することを「進化」と表現しているように、なんらかの形態や性質が変わり、機能が向上することを指すように誤解されている。

ピカチュウへの「進化」は「進化」ではなく生物学的には「変態」に近い。しかし、お茶の間では「ピカチュウに変態した!」とはなかなか大声では叫べないため、止むを得ずこのような表現になっているものと推察している。このアニメのもたらす力は良くも悪くも絶大で、「進化」という用語の誤用に関しては、大変悪い方向の力を発揮してしまっている。

長い時間をかけて環境の変化に適応したアリの社会。それは人間の倫理観とはまったくあわない

アリで考えてみよう。

僕が研究している「農業をする」アリである菌食アリは、6500万年前にこの地球上に出現したと考えられている。この時期というのはゴンドワナと呼ばれる超大陸から、大規模な地殻変動の影響で南アメリカ大陸が分離し、ユカタン半島近辺にこれまでの地球の歴史上三番目の規模の隕石が衝突した(俗にいうジャイアントインパクトを引き起こした)時期である。

このような大きな環境変動が生じた時期に、菌食アリは出現した。大型の恐竜が絶滅するなどいわゆる「白亜紀大絶滅」にあたり、様々な生物種の絶滅と新たな種の出現という特殊な現象が起きた時期である。そのような大変革期から、最も分化した特徴を持つハキリアリが出現するまで実に数千万年の時間が経過している。つまり、進化を考える上で時間というのはこれくらいのスケールになるのだ。

長い時間をかけて環境の変化に応答し、生物間で相互作用する中で、アリたちは時に人間の想像力を遥かに超えた形態や機能、社会構造に至っている。これは人間が考える良し悪しの倫理的規範とは全く合わない。

例えば、ナベブタアリという中南米に生息するアリは、メジャーワーカーの頭がお皿のような形に変化し、それで巣の入り口を塞ぐ「扉役」として存在している。彼女らは一生ドア役。もし、彼女らを排除してしまったら、外敵が巣に侵入してくることが実験から明らかになっている。

ボリビアやペルーに生息する「Camponotus mirabilis」というオオアリの仲間は、狭い竹の隙間に適応して、顔も胸部も腹部もものすごく細長くなっている。ボルネオなどの東南アジアに生息するハンミョウアリ「Myrmoteras」は細長い大顎がなんと270°も開く。この大顎はトラップジョーと呼ばれ、高速で閉じトビムシなど素早く逃げる昆虫類を専門に狩ることに適応した形質だ。

東南アジアに生息するヨコヅナアリのメジャーワーカーとマイナーワーカーのサイズ差は実に550倍。これは人間に換算すると同じ姉妹でありながら、ザトウクジラくらいの大きさになる。一つ屋根の下に、ここまでサイズが違う家族がいて、果たして人間ならそれを受容できるだろうか?

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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