• 執筆者一覧Contributors
  • メルマガ登録Newsletter
通信がサービスに溶け込む時代へ、「ミリ波」「スライシング」「API」を核にソニーとエリクソンが示すDXの姿

通信がサービスに溶け込む時代へ、「ミリ波」「スライシング」「API」を核にソニーとエリクソンが示すDXの姿

Updated by 岩元 直久 on October 6, 2025, 06:29 am JST

岩元 直久 Naohisa Iwamoto

WirelessWire News編集長。日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。ITジャーナリスト、フリーランスライターとしても雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。

「通信をどのように活用するか、通信をスマートフォン事業以外でも活用する方向で取り組みを進めている」。こう語るのはソニー クリエイティブインキュベーション部門 事業インキュベーション1部 統括部長の木山陽介氏。エリクソン・ジャパンが開催した年次イベントの「エリクソン・フォーラム 2025」での一コマだ。

エリクソン・フォーラム 2025で議論を交わすソニーの木山陽介氏(左)とエリクソン・ジャパンの鹿島 毅氏(右)

写真、映像のソリューションでミリ波活用が具体化へ

ソニーが見るソリューションの1つが、リアルタイムの写真のアップロードだと木山氏は語る。報道各社などが速報記事などで写真をアップロードする際に、Xperiaベースでミリ波に対応した5G無線トランスミッター「PDT-FP1」を利用するソリューションである。「2025年2月に北米のスポーツイベントで、ミリ波が潤沢にある状況で利用した。ミリ波はSub-6よりも10倍以上高速なスループットを実現でき、2日間に2500枚、約40GBの写真がミリ波でアップロードされた。一瞬も逃したくない撮影者は、3mほど先にLANケーブルが来ていてもトランスミッターをつけて送信することがわかった」(木山氏)。これにはエリクソン・ジャパン CTOの鹿島 毅氏も「モバイルとは動けることに価値があることを示す事例」と相づちを打った。

木山氏が紹介したもう1つのソリューションが映像配信。ヨットレースのSail GPが7月に英国ポーツマスで実施された際に、トランスミッターと低遅延のエンコーダーを使って映像のライブ送信をミリ波により実施した。木山氏は、「ケーブルレスで動き回りながら4Kカメラによるライブ映像の配信が可能だった。通信が途切れてはいけない信頼性と、有線のカメラと同期するための低遅延の性能が求められ、これらをクリアできた」と語る。ファイル伝送でもライブ配信にしても、アップリンクの性能が求められるようになり、ミリ波が貢献していく世界を示したものだ。

スライシングやネットワークAPIが価値を創出

木山氏はさらに、「ミリ波の活用に加えて、スライシングの商用化に注目している」と語る。鹿島氏は「スライシングはネットワークの使い方を変えていく。差別化された接続(Differentiated connectivity)を提供することで、ユーザーの多様な要望に対応できるようになる」と5G SA(Standalone)で提供が可能になるスライシングの新しい価値を語る。さらにネットワークの機能をAPIとして提供するネットワークAPIを組み合わせることにより、無線ネットワークの活用の幅が拡張されるのだ。

木山氏は、「ネットワークAPIにより、ソニーのサービスにネットワークが溶け込む時代が来る。ネットワークAPIによって、特定の場所や時間に必要な帯域をソニーのサービスとともに確保し、クリエーティブ制作に活用できるようになる」と今後を見据える。ソニーグループにはミュージック、ピクチャーズ、ゲームなど多様なコンテンツをもった企業があり、ネットワークAPIや、今後の6Gの低遅延性能などを生かしたモバイルによる新しい価値の提供に視野を広げている。

鹿島氏は、「ネットワークAPIをグローバルで使うとき、各国の個別事業者の取り組みではなく、グローバルなAPIとしてアグリゲーションした取り組みが必要だろう。エリクソンと世界の通信事業者が出資する合弁企業のAdunaが、グローバルな共通ネットワークAPIの提供を具体化している」と語る。映像伝送の視点では、警察や消防などのパブリックセイフティから鉄道の運行、自動運転まで、多様な用途で価値を生み出すことを指摘し、「5Gの産業への拡張に期待している。ソニーとのパートナーシップも含めて日本からユースケースを生み出し続けていきたい」(鹿島氏)と語る。

アップリンクと低遅延の性能向上がDXの価値提供を支える

フォーラムで、エリクソン・ジャパン 代表取締役社長 ソフトバンクグループ事業担当 ジャワッド・マンスール氏は、「5Gが国のGDPに影響を及ぼすことがわかった。2023年には、5Gのブロードバンド普及率が10%上昇することで、GDPが2.29%増加した」と語る。5Gが経済成長とDXの原動力になるとの指摘だ。新しい価値提供を支えるフル5G規格の5G SAは、「まだ広がりは限定的だが、すでに世界の通信事業者の55%が5G SAを採用している。日本でもKDDIがサービスを開始し、今後の利用拡大が期待される。5G SAにより、新しいサービスを効率よく展開できるようになる」(マンスール氏)。

エリクソン・ジャパン社長のジャワッド・マンスール氏

日本の状況についてエリクソン・ジャパン 代表取締役社長 戦略事業担当の野崎 哲氏は、「世界で2023年から2030年の間に、トラフィックは3.1倍増加すると見込まれる。日本はどうかというと、2025年から2030年に2倍~2.4倍の伸びが推定される。これには今後のAIのトラフィックの伸びは加算されていない。さらにトラフィックへの対応が必要」と指摘する。

特にこれから重要になっていくのが「アップリンクと低遅延」と野崎氏は語る。「ビデオ会議では約4Mbpsが平均的に要求され、現状では7割程度がこのスループットを実現できている。すなわち3割ほどはスムーズなビデオ会議ができない。通常のモバイルブロードバンドに比べて、AIアプリによるアップリンクのトラフィックは2.6倍に上るとも言われ、アップリンクのキャパシティを高めないといけない。そのようにデータ量が増える中で、10ミリ秒といった低遅延性を確保する必要がある」(野崎氏)。こうした状況に応えるようにエリクソンでは、Massive MIMO対応のアンテナの小型化・軽量化・広帯域化と同時に、日本市場に適した新製品の提供を進めている。さらに日本の大学との共同研究や、首都圏に300名規模の研究開発拠点の設置を進めていることも語った。

エリクソン・ジャパン社長の野崎 哲氏

鹿島氏は、「特に産業向けでは、DXやIX(インダストリアルトランスフォーメーション)の実現にモバイルの重要性が高まる。クラウドの活用、AIの浸透と連携しながら、日本がどのようにネットワークをしっかり作っていくかが今後の課題であり、DXが進みやすい環境を提供していきたい」と語る。5Gの性能向上やスライシング、ネットワークAPIなどの仕組みにより、ソニーが得意とするエンターテインメント領域から、幅広い産業までを含めたDXに、新しい価値を提供していくことになる。

Tags