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次世代インフラの強靭性を支えるワット・ビット連携、分散とシグナル設計がカギに

次世代インフラの強靭性を支えるワット・ビット連携、分散とシグナル設計がカギに

January 26, 2026

岩元 直久 Naohisa Iwamoto

WirelessWire News編集長。日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。ITジャーナリスト、フリーランスライターとしても雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。

日本の産業や地域にワット(電力)とビット(情報)を束ねて価値をもたらすにはどうしたらいいか。「ワット・ビット・コネクトフォーラム」(主催、総務省・経済産業省、2026年1月13日に開催)の第2セッション「強靱なワット・ビット連携を構成する技術・サービスの展望」では幅広い議論が交わされた。モデレーターを務めたのはビットメディア代表取締役社長でMESH-X代表取締役の高野雅晴氏。パネリストには、電源開発(J-POWER)執行役員の小泉真吾氏、東京大学 執行役・副学長の田浦健次朗氏、ソフトバンク執行役員 次世代技術開発本部 本部長の丹波廣寅氏、九州電力 情報通信本部 ICT事業推進グループの矢野恒氏が登壇した。

議論の入口で高野氏は、ワット・ビット連携を「具体化していかないといけない段階に来ている」と語りかけた。議論のテーマとしては「強靭性の定義」「技術スタックの共通層」「シグナル設計」「事業化と制度」「地理的配置と技術特性」を挙げた。高野氏は、「かつてのワット・ビット連携は、電力が余っている場所でビットコインのマイニングをするといいといった論調だった。しかし現在は、AIの学習・推論の電力確保に話題が移ってきている。米国ではメガクラウドだけでなくスタートアップも生成AIのエネルギー問題に取り組むようになっている中で、日本はどうしたらいいか」と問いかけた。

エネルギー側の視点では、電源開発の小泉氏が脱炭素電源を核にしたAIデータセンターの取り組みについて語った。電力の問題として、AIやデータセンターなどにより需要が右肩上がりになる一方で、晴天のゴールデンウィーク中には複数エリアで再生可能エネルギーの出力抑制が発生するなど、電力には「余る瞬間」と「足りない瞬間」が併存する。一方で電力料金はデータセンターのコストの3~4割ほどを占め、電力が制約条件になりつつある。小泉氏は、「都市部が需要の中心で低遅延が求められるAIの推論と、時間の自由度が比較的高いAIの学習を分離したい。推論は都市部のデータセンターで行う一方、学習は電源に余裕がある地域側に学習特化型のデータセンターを分散配置しAPN(オールフォトニクスネットワーク)で結ぶ構成を検討している」と語る。同社は太陽光発電だけでなく、洋上風力発電や水力発電など、日本各地に分散する電源を持つ。ワット・ビット連携の思想を、電源配置とAIデータセンターの分散配置によりインフラ構成そのものを再設計する提案である。

学術情報基盤の構築、運用を行う立場から東京大学の田浦氏は、大学・研究機関のスーパーコンピューターなどの計算資源がもともと分散連携で発展してきたことを説明する。「分散連携する学術情報基盤は、ワット・ビット連携のワークロードシフトと相性がいい」(田浦氏)ためだ。ここで田浦氏は、広域ワークロードシフトの実証実験について説明した。「東大と北大の間で、AI推論タスクを電力価格が安価な地域へワークロードシフトするもの。JEPX(日本卸電力取引所)の東京と北海道の価格をリアルタイムで参照し、価格が安い地域でタスクを実行可能であることを実証した」。また、東大キャンパス内の電力消費可視化を進め、ビットを活用したワットの最適制御や、ワットを踏まえたビット処理の適地へのシフトなどの取り組みも進めている。今後は、「ワークロードシフト連携大学の拡大や、富士通との産学クラウド間の連携を進めているように、実証と社会実装を進めていく」(田浦氏)と意気込みを語った。

ソフトバンクの丹波氏は、AIインフラの視点から地域格差をなくしたデジタルインフラの構築について説明した。丹波氏は「生成AIは、推論からエージェントへ、さらにフィジカルAIへと進化しつつある。言語やセンサーによる入力をAIが処理してロボットや工作機械といった現場の機器をリアルタイムに動かす世界では、低遅延と信頼性が不可欠になる。推論の対象も要件も変わってくる」と指摘する。東京・大阪にデータセンターやネットワークが集中している現状から、必要な場所に小さな拠点を分散配置し、計算能力や遅延、電力の供給や価格などの状況に応じて処理をシフトする方向に変わるとの見方だ。「ソフトバンクの中だけなら、データセンターのシフトは可能。しかし、複数の事業者をまたいで最適化するには公共性・中立性のあるアグリゲーターが必要ではないか」と問題提起し、ワット・ビット連携には技術だけでなく利害が異なる主体をどう束ねるかのガバナンスの設計が重要になると指摘した。

ワット・ビット連携を実践している立場からは、九州電力の矢野氏が説明した。「九州では、再エネと電力需要のミスマッチを背景に、九州版ワット・ビット連携を発表している。太陽光などの再生可能エネルギーは、発電する場所に需要が少なく、電源が不安定であることが課題。それならば発電する場所に需要を作ればいい。九州なら条件が揃っている」(矢野氏)。マイクロデータセンターを組み合わせた分散型データセンターを構築し、あたかも1つのデータセンターのような処理を可能にする構想だ。分散化にはプロトコルやI/Oの遅延などの課題もあるが、これらを解消することで、「データと電力を動かすより、計算を動かす方が効率的」(矢野氏)との考え方でワット・ビット連携の実践を進めている。

議論を通じて、強靭なワット・ビット連携を実装する上でいくつかの課題が浮き彫りになった。1つはデータセンター間のワークロードシフトをするためのシグナルをどう設計するか。電力市場の価格情報や系統情報、変動する電源の予測などをシグナルとして活用する必要性が語られた。データセンターの連携に関しては、全体の最適化をどのようにアグリゲーションするかが課題になる。中立的な機構などが制御する形や、市場の行動原理による「神の見えざる手」に委ねる形などが考えられ、今後の実用化までに検討が求められる。またITの領域ではGAFAMに勝負を挑むことが難しい日本であっても、OT(運用技術)の領域でミリ秒のワークロードシフトが可能になれば勝機は残されているという視点もあった。高野氏は「ワットとビットの二刀流で日本を活性化させていきたい」と今後のワット・ビット連携の価値創造に期待を寄せた。

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