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久野 愛 a_hisano

東京大学大学院情報学環准教授。東京大学教養学部卒業、デラウエア大学歴史学研究科修了(PhD,歴史学)。ハーバードビジネススクールにてポスドク研究員、京都大学大学院経済学研究科にて講師を務めたのち、2021年4月より現職。専門は、感覚・感情史、ビジネスヒストリー、技術史。『Visualizing Taste: How Business Changed the Look of What You Eat』(ハーバード大学出版局,2019年)でハグリー・プライズおよび日本アメリカ学会清水博賞受賞。近著に『視覚化する味覚-食を彩る資本主義』(岩波新書、2021年)。

自らの感覚世界すらも、資本主義システムの下で成り立っている

ここで重要なのは、私たちの体験や世界を作り出しているようにみえる様々な人・モノ・技術などは対等に並んでいるわけではないということだ。人と人との関係、多くの人が無自覚のうちに社会に浸透するAIなど、そこにはアンバランスな力関係が見えないところに存在していることも多い。同時に、こうして作られる感覚体験や感覚世界、身体は、資本主義システムの下で成り立っており、AI技術の開発を含めて、それらが構築される過程は概して政治的であるということも忘れてはならないだろう。

2025.08.18

無批判に誰かの「おいしい」を受け入れ続けることは、限定された感覚体験の再生産にしかならない

様々な商品や生活空間において、消費者の五感を恣意的に刺激し、商品の使用感を向上させたり購買意欲をかき立てたりすることは常套手段となっている。つまり現代の商品開発やマーケティングにおいて、感覚刺激は重要な要素となっているのだ。

2025.06.28

人は、経済的/社会的/文化的要因の中で消費者になる

今日、私たちの生活のほぼあらゆる場所・活動が、何らかの消費と切り離せなくなっており、自分が「消費者」たることに何の疑問も持たないことが多いかもしれない。だが、消費者であるとはどういうことなのか、消費の歴史を紐解くことで、消費を通した自分と社会との関係の見方が少し変わるかもしれない。

2025.06.06

「賢明な消費」ははたして存在するか

大量生産、大量消費、技術の発達に下支えされた消費資本主義の発展が、全体主義的な管理社会へとつながるという議論は、当時の時代の産物として理解する必要がある。ただこうした議論は、現代の消費社会を考えるための一つの道標として、有用な視座を与えてもくれる。

2025.05.20

オンラインショッピングは、近代の豊かな消費生活を壊すものだといえるのか

日本における近代消費社会の勃興を考える上で無視できないのがデパート(百貨店)である。三越や白木屋、高島屋、大丸など、今日の大手デパートの多くは、江戸時代に呉服店として創業した。これら老舗呉服店は、1900年代から1910年代にかけて経営方針を大幅に変更し、欧米のデパートに倣って、呉服のみならず輸入品も含めた多種多様の商品を取り扱うようになった。後に店名から呉服店という称号も外し、名実ともに「デパート」として生まれ変わったのである。

2025.04.28

ヴァーチャル世界が拡大する今日に、共感覚的な体験は作れるか

確かに視覚に訴えるメディアが発達した消費社会の台頭により、視覚の質的変化がもたらされたのは事実である。だがそれは同時に、匂いや音など他の感覚の変化も伴うものだった。つまり、宮沢賢治が描き出したように、都市の風景をはじめ周辺環境は五感を通して感じとるものなのだ。

2025.04.10

「感覚」はすべての学問の土台でなければならない

もし過去の豊かな五感経験が失われつつあるのだとしたら、逆に現代社会だからこそ生まれた新しい感覚というものもあるかもしれない。五感を通して見えてくるもの 、社会の変化やその中で紡ぎ出される人々の関係や生き方は、より一層複雑化する世界の中で、社会のあり方を考えるヒントを与えてくれるのではないだろうか。

2025.03.13