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2010年夏モデル発表会総まとめ-ケータイ3社のビジョンはどこに?

2010.05.24

Updated by WirelessWire News編集部 on May 24, 2010, 10:30 am JST

5月17日、18日、携帯電話事業者の大手3社が相次いで2010年夏モデルの新製品発表会を開催した。近年は携帯電話の大規模な新作発表は、秋に発表の「冬・春モデル」と初夏に発表の「夏モデル」の年2回に絞られてきた。今回の発表はそのうちの1回に当たり、各社とも自社の目指す先を示す重要な場であったわけだ。

ここでは、各社の発表から注目に値するトピックを紹介し、そこから浮き上がってくる各社のビジョンを見ていこう。

スマートフォン本格攻勢を宣言したドコモ

▼NTTドコモは「ドコモ スマートフォン」シリーズを新設し意気込みを見せる
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今回の発表会でNTTドコモは、スマートフォンに本腰を入れることを改めて表明した(関連記事:ドコモの夏モデル、スマートフォンの拡充とコラボモデルなどのバリエーションで勝負)。

その意気込みは、山田隆持社長がプレゼンの冒頭に「スマートフォンの充実」を掲げたことからもうかがい知れる。具体的には、4月に発売したXperiaに加え、夏モデルとしてスマートブックタイプのAndroid端末「LYNX」と薄型スライド式のWindows Mobile端末「dynapocket」、BlackBerry端末の「BlackBerry Bold 9700」の3機種をラインアップした。さらに、一般ケータイの「iモード」に対応するスマートフォン用のサービス「spモード」を提供することもアナウンスした。spモードには、iモードのアドレスを使えるメールサービスや、コンテンツ料金を電話料金と一緒に支払える課金機能などが用意される。端末、サービスの両面からスマートフォン需要を支えようということだ。

スマートフォンへのシフトを感じさせる部分はほかにもある。1つが「ドコモ スマートフォン」という端末カテゴリーの新設。これまで、ドコモは「STYLE」「PRIME」「SMART」「PRO」「らくらくホン」の5シリーズに製品をカテゴライズしていた。Xperiaより前のスマートフォンは、「PRO」シリーズに分類されていたのだが、今後はXperia、LYNX、dynapocket、BlackBerryなどをドコモ スマートフォンと総称する。何をスマートフォンと定義するかはさておき、「スマートフォン」を前面に押し出す戦略だ。もう1つが、スマートフォンを選ぶ利用者が情報を得たり実機に触れられる「ドコモ スマートフォンラウンジ」を2010年夏に東京・丸の内に開設することをアナウンスしたこと。スマートフォンを"選ぶ"ユーザーが、限られた先進的なユーザーからより一般層に広がることを見越した施策だと言える。

宣言としては力強いものがあったが、夏モデルでアナウンスした製品はどうかというと、やや心もとない。LYNXとdynapocketは、それぞれKDDIがすでに発表している「IS01」「IS02」の姉妹モデル。まったく同じではないとはいえ、スマートフォンを使おうとする顧客をドコモに力強く引き寄せるには独自性に欠ける。現状は販売好調なXperiaを補うラインアップ構成といった意味合いが強いのだろう。スマートフォンを充実させると言って3機種も発表しながら、その席上で「秋にはサムスン製のGalaxy SをベースにしたAndroid端末を発売する」と早々にアナウンスした今回の発表会は、ラインアップの充実が途上であることを自ら物語っているとも言える。ドコモは、2010年度に国内スマートフォン市場が300万台規模になり、そのうち100万台を取りたいという。強力なiPhoneを敵に回しながらシェアを確保するには、より魅力ある端末をラインアップすることが必要不可欠と言える。

ほかにも、他社になかった新製品として、フルハイビジョン録画に対応した一般ケータイや、DLNA機能を備えた端末などをアナウンスしている。ケータイでフルハイビジョンの動画を撮影し、このデータをDLNAによりパソコンやメディアサーバーなどとやり取りしてパソコンやテレビの大画面で試聴するといった使い方ができるようになる。これまでケータイは、パソコンなどの他の情報機器と情報を交換する際にはmicroSDカードを抜き挿しするといった物理的な手間がかかることが多かった。ケータイがDLNAに対応することで、写真や動画などといったコンテンツが、PCやメディアサーバーとネットワークを介してシームレスにつながるようになる。これは、ケータイと他の機器の間にあった1つの情報の壁がなくなる予兆なのかもしれない。

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ネットのコンテンツが目玉のソフトバンク

▼ツイッターは日本の利用率が米国を上回ったことを説明する孫社長
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ソフトバンクモバイルの発表は、ツイッターに焦点を合わせることで新規性をアピールしていた(関連記事:ソフトバンク、一般ケータイ全機種でツイッターに対応し"コミュニケーション革命"へ)。発表会の冒頭で、「今日の最大にして唯一のテーマはツイッター」と宣言した孫正義社長は、最後まで「#softbank」に寄せられた総ツイート数を気にしていた。孫社長自身が惚れ込んでいるツイッターを利用できるようにすることで、スマートフォン以外の一般ケータイの存在価値を維持する作戦である。

コンセプトは、ケータイを買って箱を開けるとすぐにツイッターが使えることだ。ツイッターをしようと思っていたけれども家のパソコンは自由に使えないといった若年ユーザーはもとより、いままでツイッターに触れたことがなかったユーザー層にも手軽にツイッターを始めてもらえる。ツイッターの面白さが、今をリアルタイムに共有することにあると考えると、パソコンよりもケータイのほうがツイッターのツールとしてふさわしいとも言える。スマートフォンだけでなく、一般ケータイにも手軽で使いやすいツイッターのツールを搭載することで、確かにその利用は広がりそうだ。

携帯電話のサービスやアプリケーションは、通信速度やパケット料金、画面のサイズなどの制約があることから、インターネットとは異なる発展を遂げてきた。それが、世界の携帯電話を通話だけのものから優れた情報端末へと変身させた原動力であったと同時に、日本のケータイが「ガラパゴス」と揶揄(やゆ)される一因にもなっていた。

今回、ソフトバンクモバイルがツイッターをケータイのコンテンツとして前面に押し出したことは、ケータイが独自の世界の唯一の神器から、開かれた世界の1つのツールに変化しつつあることを表している。ツイッターはもともと最大140文字しかないコミュニケーションツールで、コンテンツのレベルでは何の変換もなくそのままケータイで利用できる。インターネットのコンテンツに制限を加えたりり独自の機能を加えることで利便性を高めてきたケータイの世界が、ツイッターではインターネットとイコールになったわけだ。ケータイの新コンテンツとしてインターネット発のコンテンツがメインで取り上げられたことは、今後の携帯電話の進む方向を見る上で重要な事項と考えるべきだろう。

このほかにも、Wi-Fi機能を備えた端末やスマートフォン的にタッチ液晶で操作できる端末も増えた。Wi-Fi端末でユーザーがWi-Fi経由でデータ通信をした場合、パケット料金収入などの携帯電話事業としての収益にはつながらない。ツイッターがいくらケータイで利用されても、ソフトバンクモバイルの利益に直結するビジネスモデルは見えていない。いずれも「ケータイという端末」からいかに便利にインターネットの世界につながれるかを追求して、インターネットでビジネスを展開する構図だと言える。孫社長は発表会で「われわれは電話会社になるつもりはない」と改めて力説した。3社の中で、もっとも既存の携帯電話ビジネスを遠目に見ているのがソフトバンクモバイルだと感じた発表会だった。

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新プラットフォームに期待したいKDDI

▼キーパッド交換や新プラットフォームでユーザー満足度が高まるか?
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両社の前日に発表会を開催したKDDI。auケータイの夏モデルの目玉は「全機種防水」だった(関連記事:KDDIが夏モデル発表、全機種防水などユーザビリティにこだわり)。確かにケータイはあらぬところで水没させてしまうことも少なくないし、これから水遊びをする季節になると、防水機能はあるとありがたい。これまでのラインアップでは、防水を選ぶか、その他の機能やデザインを選ぶか--といったトレードオフに悩むことが多かった。この端末にも防水機能があればいいのにと感じたことのある人は少なくないだろう。その意味では、auの夏モデルはユーザーの目線に立ったものだと言える。誰が使うか分からないコストのかかる新機能を搭載するよりは、全部の端末を防水にすれば必ず役に立つ人がいる。

あまり目立たないかもしれないが、高速なCPUに対応した新しいプラットフォームの採用には期待したい。1GHz駆動のCPU「Snapdragon」に、これまでのKCP+のプラットフォームを移植した「KCP 3.0」である。東芝の「REGZA Phone T004」とソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの「BRAVIA Phone S004」の2機種が対象機種だ。発表会場で実機を手にして、そのスムーズな動きに感嘆した。携帯電話の操作にありがちな"一呼吸の間"がなく動作するのだ。Webサイトへの接続も、スクロールも、文字の入力も、まさに打てば響く使い勝手。応答がいいだけで、こんなにも携帯電話が使いやすくなるのかと改めて感じるほどだった。KCP 3.0に対応した機種は、まだ夏モデルでは前述の2機種だけだ。これまでKDDIでは、KCP、KCP+と共通プラットフォーム化を進めてきたのだが、最初のモデルでこんなにも使いやすく出来上がっていたのは初めてとの印象を得た。KCP 3.0も共通プラットフォームであり、今後は確実に対応機種が拡大する。auユーザーは、これからはサクサクと動くケータイを選ぶ権利が得られるようになりそうだ。当たり前かもしれないが、有難いことだ

このほかにも、ユーザーのキーの打ち方により選べるキーパッドを搭載した機種や、一般ケータイを無線LAN対応にするmicroSDカードなど、面白いものはあった。さらにエリアの充実を掲げ、ゴルフ場やショッピングセンターなどでのエリア充実を図るとともに、フェムトセルの無償貸し出しといった施策もアナウンスした。ユーザーの満足度を高めるというポリシーから見ると、一定の効果を発揮する施策がいくつもあるように感じた。

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しかし、この1週間を振り返ってみると、総じてKDDIの印象は希薄になってしまう。律儀にユーザーの声を拾って、満足度を向上させる施策を講じていることはよく分かるが、今後へのビジョンをあまり感じない。ソフトバンクモバイルの孫社長の言葉を借りれば、いかにも「電話会社」な施策と見受けられるのだ。

スマートフォンを売りさばくのがいいのか、携帯電話をインターネット端末として総合的なビジネスで利益を上げればいいのか、電話会社としてユーザーの満足度を向上させるのがいいのか。その答えはすぐには出てこない。ただし、発表会の勢いを通じて、毎月の携帯電話契約の純増数の順位が脳裏に浮かんだことも確かであった。

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