往時の「植民地」争奪戦のように、欧州のテレコム各社はアジア、アフリカ、中南米で激しい戦いを演じているが、ブラジルでまた動きがあった。
ブラジルで携帯電話事業者シェアNo.1のビボ・パルチシパソンエス(Vivo Participacoes)の経営権(60%)を保有しているブラジルセル(Brazilcel)は、スペインのテレフォニカ(Telefonica)と、同じイベリア半島のポルトガル最大の電話会社、ポルトガル・テレコム(Portugal Telecom)のジョイントベンチャーである。テレフォニカはポルトガル・テレコムに対し、同社の持ち分を71億5000万ユーロ(1ユーロ111.65円換算で約7983億円)で買い取ると申し出ていたのだが、先週末にポルトガル政府がこの取引に反対したことを受け、申し出を取り下げた。
テレフォニカからポルトガル・テレコムへの提示価格は、6月1日に57億ユーロから65億ユーロに、さらに7月1日には71億 5000万ユーロにと、二度に渡って引き上げられていた。6月30日にリスボンで開催されたポルトガル・テレコムの株主総会では、74%の株主がテレフォニカ提案を受け入れていたのだが、政府から横やりが入った。ポルトガル政府は、政府保有のポルトガル・テレコム株(拒否権付き株式、いわゆる黄金株)の権利を初めて行使し、テレフォニカへの売却に対して拒否権を発動したのだ。これに対して欧州連合の最高裁判所に当たる司法裁判所は7月8日に黄金株活用を不当とする判断を示しており、行方が注目されていた。
テレフォニカの買い取り断念を受けてポルトガル・テレコム株は先週末比で0.387ユーロ安の7.66ユーロまで下げている。テレフォニカ株もマドリード市場で0.4%安となったが、高額となった買い取り価格を支払わないことを決めたテレフォニカ株にとっては、上げの材料になると見るアナリストもいるとのこと。
テレフォニカの自国スペインでの売上は第1四半期に3.9%下落しているが、ブラジルを含む中南米での売上は逆に4.2%増加している。ポルトガル・テレコムについても自国のワイヤレス事業での売上が6.5%も落ちているのに、ブラジルのワイヤレス事業は26%も増加している。
ブラジルの携帯電話事業者のシェアNo.2のクラロ(Claro)はメキシコのアメリカ・モビル(America Movil)傘下で、No.3のTIMはテレコム・イタリア(Telecom Italia)の傘下だ。各国のキャリアが、自国の成熟市場から世界の新興市場での覇権争いに戦場を移している。その中で、7月20日になってシェアNo.4である地元資本のOi(ポルトガル語の挨拶。英語の"Hi"に当たる)がポルトガル・テレコムとブラジルセル株の売買交渉に入ったと地元紙が報じ、ポルトガル・テレコムが否定するという動きもあった。
南アフリカで開催されたサッカーのワールドカップでは決勝トーナメント1回戦でスペインがポルトガルを1対0で下しているが、ブラジル市場を巡る戦いで、どちらが勝ったと言えるのかまだ予断を許さない状況のようだ。
【参照情報】
・Telefonica to Explore Ending Brazil Joint Venture - WSJ.com
・Telefonica pulls out of Vivo bid - BBC
・ポルトガル・テレコム:株価急落、テレフォニカへの資産売却不成立で - Bloomberg.co.jp
・PT denies has deal to buy stake in Brazil's Oi - Reuters
・中南米編(3)対照的な中南米の二大市場、ブラジルとメキシコ
・世界情報通信事情(総務省)
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