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欧州編(3)VodafoneのLTE/4G戦略

2010.08.05

Updated by Mayumi Tanimoto on August 5, 2010, 15:00 pm UTC

○契約者数では、欧州No.1の携帯電話キャリアであるVodafone(ボーダフォン)は、LTE/4Gサービスをグローバル戦略の重要な要素と位置づけており、ライバルであるOrange(T-Mobileとの合弁)やMovistar/O2の一歩先を行くアクションを取っている。

○具体的なアクションは、スケールメリットを得るためのグループ内での規格統一、他キャリアまで含めたインフラの統合、ベンダー各社を巻き込んだ綿密な技術試験など多岐にわたる。2010年には、ドイツでVodafoneグループとしては初のLTEサービス開始を予定している。

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(cc) Image by Martin Pettitt

1. グループ企業内での同一規格適用によるグローバル戦略との連携

2007年には、Vodafoneが45%の株式を所有するアメリカのVerizon Wireless(ベライゾン ワイヤレス)と共同で、4Gサービスでは同一規格を使用することを発表している。同一規格を適用することで、エンドユーザーが海外ローミング等で感じる不便を解消して顧客基盤を拡大し、インフラを共同利用して経営資源の効率化を図ることが目的である。

VodafoneはGSM標準の元で、HSPA(High Speed Packet Access)を使用して3Gサービスを提供してきたが、Verizon WirelessはCDMA標準の元で、CDMA EV-DO(Evolution Data Optimized)を使用して3Gサービスを提供してきた。

4Gサービスでは、同一規格を適用することで、Vodafoneグループの重要課題の一つであった国による規格の違いが解決される。

2. 欧州規模でのインフラ統合による経営資源の合理化

4Gサービス提供にあたり、Vodafoneは他のキャリアとインフラ一部を統合することで、経営資源の効率化を図っている。2009年3月には、4Gサービスの開始に向けて、スペインのTelefonica(テレフォニカ)と共同で、ドイツ、スペイン、アイルランド、およびイギリスの2Gおよび3G通信インフラの統合を実施した。

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3. 綿密な技術検証による失敗の回避

Vodafoneは、4Gサービス向けの電波帯域を確保する前に、他のベンダーと共に、技術検証を実施している。

綿密な技術検証を実施するのには理由がある。Vodafoneには、3Gサービスの苦い思い出があるのだ。十分な技術検証を実施する前に、巨額の費用をかけて帯域を確保してしまったため、サービス開始後に問題が発生し、帯域が十分利用されなかったのである。VodafoneのR&Dディレクターであるマイケル・ウォーカー教授は「3Gの技術には失望した」と語っている

そこで、LTE/4Gサービスの展開に当たっては、3Gでの失敗の教訓を元に、ベンダー各社と協力して綿密な技術検証を実施している。

2007年からは、子会社であるアメリカのVerizon Wirelessと共にLTEの試験計画を作成し、フランスのAlcatel-Lucent(アルカテルルーセント)、スウェーデンのEricsson(エリクソン)、米Motorola(モトローラ)、フィンランドのNokia(ノキア)とドイツのSiemens(シーメンズ)の合弁会社Nokia Siemens Networks(ノキア シーメンス ネットワークス)、カナダのNortel Networks(ノーテルネットワークス)と共に、LTE/4Gの技術試験を開始している。

また、2009年2月からは、中国のHuawei Technologies(ファーウエイ・テクノロジーズ)が提供するLTE対応機器の試験を実施している。

VodafoneとHuawei Technologiesのパートナーシップ調印式は、イギリスの首相であった労働党党首のゴードン・ブラウン氏が立会い、ダウニング街10番地(イギリスの首相官邸)で実施された。LTE/4Gサービスの展開に当たっての提携は、単なる「企業対企業」の提携ではなく、国も全面的にバックアップする体制となっている模様である。

なお、このように、イギリスでは、政府が通信事業者の提携や、通信事業者の海外進出を閣僚や首相が支える例が少なくない。民間企業の海外進出は重要国家戦略であるので、首相や閣僚自らが海外投資及び貿易に関するミッションを組織し、トップセールスマンとして、企業と一緒に売り込みに行くのである。

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(cc) Image by Ben Sutherland

このミッションには王室も深く関わっている。イギリス王室第二番目の王子であるヨーク公爵アンドルー王子は、ケント公エドワードの後を継ぎ、イギリス貿易産業省の貿易及び投資に関するイギリスの特別代表として、様々な見本市や国際会議などに参加する職務にあたっている。

日本では皇室が民間企業の海外売り込みに同行して、みずから「我が国の素晴しい商品を買ってください」「あなたの国の規制を緩和して下さい」と頼み込むことなど考えられないが、イギリスではこれが当たり前に実施されている。

イギリス王子が特別代表としてイギリス企業の商談に関わる意味合いは大きい。植民地支配は終わった物の、イギリスの影響力が強い地域では、いまだに現地の支配階級や庶民の間、イギリス王室の人気が高い。

ヨーク公がミッションで来訪すると、「わざわざ王室の方が来て下さった」とマスコミで大々的に取り上げられることも多く、商談がスムーズに進むとのことである。ヨーク公が商談に同席する際の威力は言うまでもない。

なお、ヨーク公の元妻であるセーラ・ファーガソン公爵夫人が、ヨーク公との会談をセットアップする見返りに、マスコミに数百万円を要求しているシーンがイギリスのゴシップ雑誌に隠し撮りされた事件は、ヨーク公の海外におけるイメージに大きなダメージを与えたとのことで、イギリス国内では大きな問題になった。

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4. Vodafoneの欧州におけるLTE商用サービス

Vodafoneは2009年初頭までは、LTEの開始は、2012年頃になると公表してきた。また、CEOのArun Sarin氏は「VodafoneはHSDPAを使用して3.5Gサービスを提供してきたため、4Gの提供には急いでいない」と発言してきた

公式発表やCEOの発言、さらに、リーマンショックに起因する不況で、Vodafoneを含むキャリア各社には4G向けインフラへの十分な投資が不可能なのではないか、という見方から、Vodafoneの本格的なLTEサービス提供は2012年以後になると見られていた。

しかし、Vodafoneは、当初の予定の大幅な前倒しで、今年から本格的なLTE商用サービスを始める予定だ。まずは、2010年9月からドイツのVodafone Germanyが、ドイツでLTEサービスを提供する。このサービスは、Vodafoneグループが提供する初のLTE商用サービスとなる(彼らは4Gサービスと呼んでいる1)。

www.vodafone.de
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ドイツでは、欧州各国に先行して、アナログテレビ放送の終了で空く電波帯域を、モバイルブロードバンド用に割り当てている。ドイツでは、通信回線の整っていない旧東ドイツ地域や郊外では、インターネット接続率の低さが問題となってきた。旧西ドイツと旧東ドイツの間には、いまだに大きな経済格差があり、インフラや公共サービスに大きなギャップがある。

インフラの脆弱さが解消されていないため、旧東ドイツ側では、ブロードバンドが提供されていない地域が少なくない。ドイツ政府はこれを「デジタルデバイド」と考え、アナログテレビからデジタルテレビへの切り替えで空く電波帯域を、積極的にモバイルブロードバンドに割り当てていく方向である。

ドイツではこの帯域割り当てのために、2010年5月に800MHz帯のオークショが実施された。Vodafone Germanyが他のキャリアと共に帯域の一部を落札し、LTEサービスの提供に使用することになっている。

なお、ドイツのサービスで現在想定されているスピードは、郊外では3〜5Mbps程度、都市部では70Mbp程度となっている。

またVodafone Germanyは、スウェーデンのEricsson、中国のHuawei Technologiesをインフラアップグレードのパートナーに選定し、2011年までに1500の基地局のアップグレードと、拡大を予定している。この2社は、Vodafoneが他の欧州各国にサービスを提供する際にも、パートナーとして選定される可能性が高いと考えられている。

  1. 厳密に言えば、LTEと4Gは技術的には別ものだが、欧州では、一般ビジネスマン向けの雑誌やテレビ報道、広告では「4Gとは3Gより優れたサービスである」ということで、LTEも4Gもまとめて「4G」と表記されることが多い。そのため、本記事中でも、LTE/4Gサービスという表記をしている箇所がある。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。