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第四次世界周波数バトルを斬る

2010.08.20

Updated by Michi Kaifu on August 20, 2010, 15:00 pm JST

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(cc) Image by Phil Whitehouse

日本では、次世代携帯に利用できる貴重な周波数帯として、「アナログテレビ跡地」の行方が議論されている。その議論を正しく理解する背景として、ここでは世界の「次世代携帯周波数」が現在どういう状況となっているか、全体を俯瞰してみよう。

1. 携帯周波数の基礎知識

専門家である読者からは不正確とお叱りを受けそうだが、全体構図を理解しやすくするために、非常におおまかな世界の「携帯電話向け周波数」の現状を下記のようにまとめてみた。

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出典:ENOTECH Consulting

それぞれの「塊」の中でも細かい割り当て方法が国ごとに少し異なっているが、近い周波数帯では無線の物理特性は似ているため、一般的には同じハードウェア(アンテナ、無線チップなど)で対応しやすいことになる。

青・緑・赤を比べると、周波数が低いほど電波が遠くまで届きやすく、また障害物を回りこむ性質が強い。このために基地局の数も、投資も、高速移動時のハンドオフも少なくて済み、また屋内まで届きやすい。使いやすいために多くの用途で利用が進み、混雑している。一方、高い周波数では新開拓地が多く、広い周波数を確保して、高速なデータ通信サービスを提供しやすい。すなわち、上記の青・緑・赤の周波数を比べると、青の部分が最も基地局が少なくて済み、屋内に届きやすく、高速移動状態でも使いやすいが、それだけに入手・調整がより困難である、ということになる。

アナログ携帯電話開始当初は、まさかこれほど携帯電話が普及するとは誰も思っておらず、深く考えずにその時使える周波数を各国・地域ごとにバラバラに割り当てた。1990年代のデジタル(2G)移行では、欧州(EU)では「GSM」という共通規格を採用し、この中で利用周波数帯も共通とした。この周波数帯は上図「青」に属する。この戦略がハードウェアの量産効果と国際ローミングの利便性に貢献し、GSM方式は欧州だけでなくアジア・アフリカ・中近東などの新興国に広く普及した。(「世界のモバイル事情・世界編(2)」参照)

3Gでは、欧州だけでなく世界中で周波数を統一するよう、ITU(世界通信連合)の場で話し合いを行った。その結果、「IMT-2000」と呼ばれる3G周波数帯が世界で統一されることになった。上図の「緑」部分である。欧州各国は、2000年前後のバブルの真っ最中に、この周波数帯をオークションで割り当てた。

日本では、2GではPDC・CDMA方式を800MHz・1.5GHzで使ったが、3Gでは技術も世界標準(W-CDMAとCDMA2000)に合わせると同時に、周波数もIMT-2000(その後Eモバイルなどの1.7GHz帯を加えた)に移行した。

一方米国では、なまじ「先行」していたがために、混乱が生じた。2G移行当時すでにアナログ携帯の普及が進み、そのアナログの周波数帯が欧州のGSM周波数帯と一部重なっていた。(青色部分)90年代半ば、2G移行のためには新しい周波数帯が必要であったため、本来は3G向けにとっておくべき「緑」の一部を2G向けとしてオークションで割り当ててしまった。また、アナログ用の「青」周波数帯も徐々に2Gに転換した。2000年代にはいり、3Gへの移行にあたっては、これらの2G周波数帯を3Gに転換するしかなかった1

  1. IMT-2000から少しはずれる1.7GHzもその後3G向けとしてオークションに出され、T-Mobileなどの後発キャリアを中心にこの周波数を保有している。

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2. 「iPhone 3G」の奇跡

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(cc) Image by Gonzalo Baeza H

それでもなんとか、3Gでは、緑色の「IMT-2000」の周波数帯にほぼ全世界の主要キャリアが集まり、無線方式もついに統一された。

形の上で3Gにそろったといっても、キャリアが設備投資を行ってサービスを展開しなければ意味がない。

日本では、過密東京で2Gユーザーが爆発的に増えて無線容量が逼迫し、必要に迫られ、2000年代前半には早々に3Gが広がった。2G上で「iモード」が人気を博し、「モバイル・データ」に対するユーザーニーズが早いうちから盛り上がったことも手伝っている。

一方米国では、ベライゾンは2G・3Gの間で後方互換性のあるCDMA2000系技術だったため比較的迅速に移行が進んだが、AT&Tは互換性のないTDMAからW-CDMAへの移行であり、同じ周波数帯内で2Gユーザーを収容しながら少しずつ移していくため展開が進まなかった。それでも、2005年頃からの「Web2.0」ブームに乗ってモバイル・データへの注目が高まり、米国の3G展開も本格化した。

欧州ではさらに3G展開は遅れた。欧州の3Gオークションはバブル末期に当たってしまい、バブル崩壊後、免許料と設備投資の両方が重くのしかかって、キャリアの展開ペースが遅れた。また、モバイル・データへのニーズも日米ほど強くない。このため現在でも、主要都市ではまだよいが、少し郊外に出ると3Gはない、という状況が続いている。(「世界のモバイル事情・欧州編(4)」参照)

現在、アップルのiPhoneやiPadは、世界でほぼ同時に発売され、また主要都市どこに持って行ってもそのまま国際ローミングできる。当たり前のように感じるが、実はこうした各国キャリアの長い間にわたる苦労と投資の末、ようやく周波数と方式が統一され、サービスも先進国ではほぼ出揃った成果なのである。

携帯電話端末の分野としては全くの新参者であるアップルが、短期間にこれだけ世界で広く普及したのも、このためである。販売面だけでなく、同一のハードウェアで対応できるために、量産効果は大きい。以前のように各国ごとにバラバラだったら、それぞれの国の仕様に対応する技術者を大量に抱え、販売網とまとまった生産量を持つ既存ベンダーに、アップルが勝てたかどうかわからない。

そして、今後は後述のように、また周波数と方式が地域ごとに分散していきそうな勢いであり、すべての条件がそろった今、見事に大当たりした「iPhone 3G」は、まさに「奇跡」のようなタイミングである、と筆者は思っている。

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3. 次世代統一周波数「3G-E」

さて、次世代1においては、またバラバラとなりそうな状況となってきている。

3Gの統一化を推進したIMT規格では、次世代向けに「IMT-200 Expansion」または「3G Expansion(3G-E)」と呼ぶ周波数を定義している。これが最初の図の「赤」の部分に当たり、欧州では2.6GHz、日本では2.5GHzと呼ばれている。世代が進むに従って、この図の「右」(高い周波数)に移動するのは、西部開拓時代のアメリカ大陸を西に向かっていくようなもので、時々原住民(マイクロ波などのユーザー)との戦いはあるものの、それほど大変ではなく、開拓者は広い面積を占有しやすい。このため、日米欧で話しあって統一する場合には、この「新開拓地」を利用することが多くなる。

アメリカでは、ここにもすでに原住民がたくさん住んでいた。BRS・EBSと呼ばれ、90年代に無線映像サービス(無線ケーブルテレビ)と教育映像配信用にすでに細かく分けて割り当てられていたが、ほとんど使われておらず、これを長年かけて買い集めたスプリントが大多数の免許を保有するようになっていた。この周波数用に、スプリントはWiMAXを採用した。(「世界のモバイル事情・米国編(2)」参照)

日本でも、少し遅れてUQコミュニケーションズが2.5GHz帯(3G-Eとほぼ同じ)免許を獲得し、WiMAXサービスを開始した。

しかし、もともとやや中途半端な存在であったWiMAXは次第に勢いを失う。スプリントがWiMAXを採用したのは、LTE商用化までにまだ時間がかかると見られていたからであるが、スプリントの経営難からWiMAXのサービス開始が遅れ、結局LTEとの時間差が縮まってしまった2。そして、2007年に米国最有力のベライゾンがLTE採用を発表した時点で、米国におけるモメンタムは一気にLTEに傾いた。

その頃欧州では、この3G-E周波数帯を割り当てる予定で進めていたのだが、さっさとオークションを済ませたスカンジナビア諸国を除き、イギリス・ドイツ・フランスなどの大市場では、「原住民」の立ち退きが進まないとの理由で、オークションの予定が大幅に遅れていた。キャリアにとってみれば、3Gの建設すら遅々として進まないのに、次世代周波数に大枚をはたく気がなかなか起こらない。そうこうするうちにWiMAXの勢力が衰えて、この周波数ではLTEを使うことが既成事実となった。

モバイル・データのニーズが強く、また競争が激しいゆえに「次世代周波数」が早く欲しい米国と日本は、急いでWiMAXを開始したがゆえに、結果的に欧州と袂を分かつことになってしまった。そして、せっかく世界でそろえた3G-E周波数帯は、結局使い道がバラバラになってしまったのである。

  1. なお、「次世代の呼称」については、ITUの正式な4Gの定義があるのだが、現在、米国や欧州では、データ速度や条件の面でその定義に合わないにもかかわらず、「WiMAX」や「LTE」が「4G」と呼び習わされている。業界の人は、LTEのことを3.9Gと呼び、WiMAXはWiFiの発展形であって3Gの後継ではないとみなしてきた。3Gの次は3.9Gと呼ぶべきか4Gと呼ぶべきか、それはWiMAXかLTEか、統一されておらず、混乱を招きかねないため、ここではあいまいに「次世代」と呼ぶこととする。
  2. 結局、固定WiMAX事業者であるクリアワイヤに免許を譲渡して、クリアワイヤのサービスを利用して自社のWiMAXサービスを提供するという、複雑な経緯を経ることとなった。

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4. アナログ跡地、あるいは「デジタル配当」

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(cc) Image by Jan Jablunka

荒野を開拓する高周波数「赤」への移行と比べ、低い周波数「青」への移行は、高層ビルの立ち並ぶ大都市に空き地を探すようなもので、大きな建物の移転などがなければ、まとまった周波数の確保は難しい。さて現在、たまたま各国で「大きな建物の移転」、すなわち地上波テレビのデジタル化移行が進行中である。こうして出てきた跡地周波数を、欧州ではdigital dividend(デジタル配当)と呼んでいる。(WirelessWire News 2010/8/1記事参照)しかしその「跡地」は、IMT-2000のように慎重に話しあって統一化したものではなく、各国バラバラのものが出てきてしまう。これを完全にハーモナイズすることはほぼ不可能に近い。

米国では、LTEはアナログ跡地700MHz帯で展開される予定である。2008年にこの周波数帯がオークションされ、ベライゾンとAT&Tが多くの免許を落札した。この「青」の周波数帯は、前述のように2.6GHzよりも使いやすい周波数特性を持ち、特に自動車での利用の多い米国では、貴重な周波数である。さらに、近年モバイル・データの利用が急増していて周波数需要が高い。世界統一周波数の利点はないが、それでも「銀座の一等地」であるがゆえに、オークションは活気を呈した。(参考記事:米国700MHzオークションと周辺事情の分析 [PDF]、KDDI R&A)

ドイツでも「デジタル配当」800MHzのオークションが最近あったが、こちらは上記の記事のように低調に終わった。リーマンショック後というタイミングや政府のつけた展開条件など、種々の条件の違いもあるが、全体として欧州では、米国ほど「青」の周波数需要が切迫していないと見ることができるだろう。今後、イギリスなど他の欧州主要国でも同様の「デジタル配当」割り当てが予定されているが、必ずしも周波数は統一されていない。これらの周波数帯ではLTEが使われることになるだろう。

このように、先に周波数を統一したのはよいが用途がバラバラになった3G-Eに対し、700-800MHz帯の「デジタル配当」では、皆がLTEなのになし崩し的に周波数はバラバラとなる。本当はすべて統一したほうがいいことは皆わかっているが、仕方なく「バベルの塔」となってしまったのである。

さて、そこで我が日本の状況であるが、2012年に地上波テレビがデジタル移行したあとのアナログ跡地は、米国と重なる部分が多いが、700MHzだけでは既存キャリアに行き渡るほどの周波数がないために、900MHz帯の一部とペア(上り730-770MHz、下り915-950MHz)にして割り当てる計画が提案されている。(参考:700MHz帯についてのまとめ - 池田信夫、アゴラ)

なお、現在日本では図の「水色」1.5GHz(旧2Gの一部)をLTE用に使うことになっているが、この周波数帯も世界で他に使っているところはなく、孤立している。

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5. 筆者の私見

この「青」の周波数帯では、上記のようにハーモナイズが難しいことは重々承知しているが、それでも敢えて、筆者は日本でも900MHzとのペアでなく、米国と極力合わせた700MHz内でのペア割り当てをすべき、とかねてから主張している。それはなぜか。

まず、筆者の「世界のモバイル事情」連載でも何度か述べ、またこの記事でもこれまで見てきたように、「ユーザーのニーズ」が米国と日本は似ている。米国と日本は先進的なユーザー(上位レイヤーのアプリやサービスを提供する企業も含む)を多く抱え、ニーズが先にあって無線容量が逼迫し、必要に迫られて新技術・新周波数を先行して導入するが、あとに続く欧州・新興国との間にギャップができるという経緯を経ることが多かった。

米国のネット企業が主導する「クラウド+モバイル」への趨勢の中で、米国同様にこうした使い方に敏感なのが日本のユーザーである。動画などのリッチメディアや、ユーザー生成コンテンツの利用も進んでいる。欧州や新興国ユーザーが「音声+SMS」から「クラウド+モバイル」へと移行するにはまだ時間がかかり、そのニーズが周波数需要に反映されるのはまだ先のことだろう。とりあえず米国と周波数・方式を合わせておけば、iPhoneのような新しい端末や、クラウド系の新サービスをいち早く日本でも展開できる。日米市場では、そうしたユーザーのニーズに引っ張られて、先端のサービスが生まれてくる。

また、今後のIT産業の大きな方向性としても、米国と同じプラットフォームを使って、アプリやサービスを迅速に対応することができ、また日本のベンダーが米国に対して売り込むチャンスもできる。この分野での主戦場は、現在のところ米国と日本。端末もインフラ機器も、新興国を従えた欧州が物量で世界を制覇してしまった現在、ハードウェアで日本ベンダーがかつての栄光を取り戻す余地は少ないが、最先端のアプリやサービスの市場はこれから作っていくものなので、挽回は可能だ。

さらに、それであっても700MHzで十分な帯域を確保することが物理的に不可能ならば仕方ないが、現状を見る限り、調整は可能なのではないか、と筆者には思える。アナログ跡地に隣接して、たまにしか使わないと言われる放送用FPUが占有する部分があり、ここを次世代用に開放することはできないか。あるいは、アナログ跡地のうち一部をITS(高度交通通信システム)にも割り当てることになっているが、それは本当に必要なのか。現在の住民に、例えば費用を払ってお引越しいただく(地上げとは言わないでおこう)といった調整はできないのか。

確かに、こうした調整には時間も手間もかかる。(日本でも周波数オークションができれば、こうした「お金」での迅速な調整が容易になると思われるのだが、それはまた別の話。)また、日本独自周波数にしてしまえば、国内機器メーカーの市場を守ることにはなるだろう。しかし、こういった保護主義政策は国内メーカーの競争力をますます失わせることになり、長期的には害となりかねない。LTEは多くの周波数に対応できるよう規定されており、デュアルバンドのチップを作って異なる周波数に対応することはもちろん可能だが、全世界のわずか3%しか加入者のいない日本に、例えばアップルが迅速に対応モデルを作ってくれるかどうかは大いに疑問だ。

つまり、例え話的に言えば、米国と異なる周波数を使うと、日本でiPhoneが使えなくなってしまう可能性があり、そうなればユーザーは不便になり、アプリやクラウド(企業向けも含む)でも日本が「ガラパゴス化」する。

「ユーザー・ニーズが引っ張る」日米の市場特性と、「クラウド+モバイル」の今後の産業趨勢を鑑みて、日本でも米国と700MHz周波数をあわせる長期的な利点のほうが、調整コストや日本の機器ベンダーが(今や小さくなってしまった日本国内の)市場を失うリスクと比べて、もっと大きいと筆者は考えている。

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
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