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IoTに適応するネットワークの姿は仮想化による「スライス」──エリクソン担当者インタビュー

2015.03.18

Updated by Naohisa Iwamoto on March 18, 2015, 14:30 pm JST

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IoT時代の到来の掛け声とともに、ウエアラブル端末や各種センサー、自動車などをネットワークにつなぐ機運が高まってきている。それでは、IoTの利用がいちだんと広まってくるとき、ネットワークを提供する側はどのような準備をしておけばいいのだろうか。Mobile World Congress 2015(MWC 2015)の会場において、エリクソンでコネクテッドデバイスの製品管理の責任者として、クラウド & IPビジネス部門のMachine to Machine (M2M) 製品ポートフォリオ部門を担当しているミゲル・ブロックストランド氏に、IoT時代のネットワークのあり方についてインタビューした。

──これまで言われてきた「M2M」と、急速に話題の中心に上って生きている「IoT」の違いを、エリクソンではどのように解釈していますか。

ブロックストランド氏:まず、M2MとIoTの定義を考えてみるといいでしょう。M2Mはかなり古くからある概念です。デバイスをネットワークに接続するわけですが、その本質はデバイスをビジネスプロセスとつなぐことにあります。リモートのメンテナンス、自動販売機の売上、在庫状況の遠隔監視といったものが典型的な使い方です。

M2Mはすでに様々な利用が進んでいます。そうした中で、アプリケーションはもう少しネットワークに近寄ってきています。利用できる帯域の広がり、クラウド技術の進展などにより、消費者はデータをクラウドに置くようになってきました。常にクラウド上のデータにアクセスする必要が生じてきたのです。クラウドに接続するデバイスには、人間が利用するスマートフォンのようなものから、センサーなども含まれます。こうした過程で、IoTが生まれてきたと考えればいいと思います。

私の考えでは、M2Mは産業的な効率化を目指したもので、IoTは人間の生活やビジネス全般の利便性を追求するものといった違いがあると思います。M2Mではデバイスの情報はそれを活用する企業のシステムなど、単一のユーザーに送られました。しかし、IoTではデバイスの情報を使うのは1つのユーザーに限りません。複数のユーザーや異なるタイプのアプリケーションが活用します。

──IoTが活用されるようになると、どのような利便性がもたらされるのでしょうか。

ブロックストランド氏:典型的な例としては、温度情報があるでしょう。各地の温度情報をセンサーから集めたものです。ビーチの気温を知りたい人もいれば、山の気温を見て登山の装備を決める人もいるでしょう。営業の担当者は水やビールがどれだけ売れるかを考えます。IoTでは、このように様々なユーザーが活用します。

もう少し先進的な例を考えると、インターネットやセンサー、各種のデバイスから情報を集めることで、「予測できる」ようになることがIoTの本質でしょう。私は、IoTを「世界の機能的な結婚」とたとえています。人生の伴侶が自動的に見つかったり、鼻をかみたいと思ったらティッシュが差し出されたり――といったことが、情報を分析して予測できるようになるのです。IoTが進化すると、帰宅するときには、家の中が自動的に冬ならば暖かく、夏ならば涼しくセットされているかもしれません。デバイスと情報を組み合わせることで行動のパターンが分析できるようになります。そうした分析をインターネットで活用する、これがIoTの考え方です。

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──IoT時代のネットワークに要求される機能について、どう考えていますか。

ブロックストランド氏:今後、ネットワークはあらゆるデータを処理しなければならない時代になります。2020年、センサーがネットワークに本格的にデータを送り始めたときの状況を考えてみましょう。無線アクセスの種類だけでも、現在のLTE、次世代のLTE-Advanced、Wi-Fiに加えて、5Gも実用化されているでしょう。ネットワークの容量も増強され、ピークビットレートなどのパフォーマンスが向上するとともに、ネットワークの安定性や回復弾力性も高まるでしょう。

そうした各種の要件がある中で、エリクソンではIoTやM2Mに適したネットワークを実現するには「ネットワークをスライスする」という考え方が有効だと考えています。ネットワークをスライスするというのは、ネットワークを切り分けて別のスライスとの間で干渉が起こらないようにする考え方です。

ネットワークには、様々な情報が流れています。動画のデータもあれば、それぞれのデータ量は少ないけれども膨大な量になるIoTのデータもあります。それぞれのトラフィックを特定のネットワークのスライスに誘導することで、別のスライスへの影響をなくせます。動画データが流れているときに、そのために緊急事態を告げるアラームの信号が止まってしまっては困るのです。

──スライスを提供できるネットワークは、どのような技術で成り立つのでしょうか。

ブロックストランド氏:1つの考え方として、クラウドと仮想化がスライスの実現に役立つでしょう。通信事業者がクラウドのインフラを用意し、その上で仮想化したコアネットワークを提供します。仮想化したコアネットワークを、IoT専用のもの、M2M専用のもの、動画配信サービス専用のものといったように、要件に応じたプロトコルや実装で作り分けるのです。インフラは1つですが、複数のネットワークが共存できます。それぞれの仮想化したコアネットワークがスライスになると考えています。

冷蔵庫でたとえてみましょう。冷蔵庫を「私専用」「牛乳用」「野菜用」とそれぞれ用意するのではなく、1つの冷蔵庫の棚ごとに違う設定ができるようにするのです。お互いに影響を及ぼさないように設定すれば、冷蔵庫は1つでも3つの専用の冷蔵庫があるときと同じように使えます。ネットワークをスライスするとは、仮想化により"複数の棚に分けて"独立して提供できるようにするということです。

エリクソンでは、「ネットワーク化社会」という大きな世界観を持って活動しています。その中でIoTは、もっと便利な形で私たちの生活を助けてくれるしくみの1つとして、社内でも多くの議論を行っています。IoTも含めて、将来のネットワークが社会の利益につながり、人々が幸せをつかみやすくなる社会が出来上がることを願っています。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。