今回のMWCでは、グローバルTD-LTEイニシアティブ(GTI)が設立され、再建中のウィルコムのXGPを継承するソフトバンク系のWCPが発表を行うなど、TD-LTEに関する言及が会場内でもいくつか見られた。
そこで、TD-LTEの総本山の一つともいえる、TDインダストリーアライアンスのブースで、技術開発の状況と今後の普及策について、副秘書長のルー・ユー氏に話を聞いた。
【TD-LTEの開発状況】
昨年の上海万博でのデモを含め、フィールド・トライアルを重ねている。動画伝送等の実験では、安定的に70Mbps程度のスループットを記録しており、今後は干渉やアクセス集中時の対応、またアンテナ等に関する研究開発をさらに推進させたい。
またTD-LTEというと、どうしても中国由来の技術と受け取られがちだ。確かにTD-SCDMAを発展させている面もあり、また中国が研究開発をリードしている立場でもあるが、エリクソンやノキア・シーメンスといったグローバル企業も参加を表明しており、国際的な展開になりつつある。
【日本のXGPとの関係性】
旧ウィルコム技術陣が開発したXGPは大変優れた技術であり、またTDD(時分割復信)技術という観点でも一つの到達点であると考えている。TDDという括りにおいて、XGPとTD-LTEは親和性があり、またそもそも4G技術は変調等をソフトウェアに依存する部分が大きいため、近似性がある。
日本でのTD-LTEの普及には、規制当局が双方の技術互換性をどう評価するかが鍵だと思う。2.3GHz~2.6GHz帯は、世界的にもBWAで揃いつつあり、アンテナ技術の高度化等で従来考えられていたよりも使い勝手が上がっている。その意味もあり、我々も技術的な観点から積極的にアピールしていきたい。
【デモの内容】
今回は、ノキア・シーメンスやアルカテル・ルーセントなど、グローバル企業の研究開発の展示を意識した。まだ必ずしも製品レベルというわけではないが、大規模な実証実験には耐えうる研究開発状況にあると理解している。
また、TD-LTEだけで世界が進むとは考えていない。今回も、TD-LTE、FDD-LTE、HSPAの同時伝送のデモを行っている。こうした他規格との共存も大事な要素となるだろう。
【筆者の所感】
筆者がはじめてTD-LTEの屋外実証実験を見たのは、2009年秋のITUテレコムワールドである。その時すでに相応のパフォーマンスを見せていたが、昨年の上海万博でのデモを踏まえて、TD-LTE陣営も自信を深めているように見えた。
一方、このブースではないが、GTIのメンバーとして名を連ねたインドのバーティ・エアテルの技術担当者に話を聞くと、技術評価や周波数行政の観点から、まだTD-LTEの採用を決めたというわけではないと言及していた。また欧州の通信事業者も同様に、その評価に対しては温度差が激しかった。
XGPは高品質の国産技術であり、これがTDD連合の世界展開に技術面で大きく貢献するのであれば、望ましい展開でもある。TDDの活用は電波行政の観点も含めてまだ着地点が見えないこともあり、水面下ではポジション・トークが盛んになってきているが、引き続き冷静に推移を見守りたい。
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登録はこちら株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。