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グーグルのモトローラ買収 - 「グーグルは押し売りを断れなかった」説について(編集担当メモ)

2011.08.16

Updated by WirelessWire News編集部 on August 16, 2011, 17:08 pm JST

既報の通り、グーグル(Google)によるモトローラ(Motorola)の買収が昨晩発表され、これを受けて地元にあたる米国のニュース媒体やブログでは、実に大量の記事が書かれ、公開されている。これらのすべてに目を通すことはもちろん叶わないものの、なかには意外なところで「これは捨てておけない」という話が見つかることもある。以下はそんな話のひとつ。

ジョン・グルーバー(John Gruber)氏の「Daring Fireball」といえば、アップル関連の話題を中心に、独特の洞察などで一部に根強いファンをもつブログだが、そのグルーバー氏が、モトローラの買収に至ったグーグルの事情について興味深い推測を記している。公開情報だけを元に(関係者への直接的な取材はなしで)書かれたものなので、真相は「藪の中」ともいえるが、そういうものという前提で楽しんでいただければと思う。

問題の「Balls」というタイトルのブログ記事は、ダン・リヨンズ(Dan Lyons)氏のブログに対する反論(もしくは補足)として書かれたエッセイだが、このなかで筆者のグルーバー氏は、実はグーグルが「Android陣営の他のハードウェアメーカーを特許侵害で訴える」とモトローラから(暗に)圧力をかけられて、仕方なしに市場価格より6割程度も割高な金額をモトローラに支払うはめになったのではないか、という持論を展開している。

ちなみに、反論材料とされたDan Lyons氏のブログでは「モトローラと事前に話を進めていたグーグルは、ノーテルの特許オークションの際にわざと円周率(3.14)など冗談とも本気とも判別しかねる入札額を示した」等の考えが示されているという。

こうした可能性を否定するために、グルーバー氏は両社の交渉が約5週間前--ノーテル・オークションの完了直後からはじまったとするGigaOMの指摘などいくつかの反対材料にならべたうえで、以下のような自らの考えを記している。

I think Motorola knew they had Google by the balls. Google needed Motorola's patent library to defend Android as a whole, Motorola knew it, and they made Google pay and pay handsomely. I don't think it's curious at all why Google didn't simply license Motorola's patents. Motorola held out for a full acquisition at a premium far above the company's actual value, and threatened to go after its sibling Android partners if Google didn't acquiesce. Thus the public threats from Jha and Icahn. Thus the high price. Thus the lack of a simpler, cheaper licensing agreement. Thus the unusual $2.5 billion reverse breakup fee.

モトローラは、自分たちがグーグルの急所(balls)を握っていると知っていたと思う。グーグルはAndroidを一体のものとして守るためにモトローラが持つ大量の特許を必要としていた、そしてモトローラはそのことを知っていた。そして、モトローラはグーグルにたくさんのお金を出させることに成功した。グーグルはなぜ、モトローラからその特許ライセンスを受けるだけでは済まなかったのか、という点もそう考えるとまったく不思議なところはない。モトローラは(グーグルに対して)、実際の時価総額をはるかに上回る金額で会社を丸ごと買収するよう求めて譲らなかった、そして同社はもしグーグルが譲歩しなければ、Android陣営の他のハードウェアメーカーを特許侵害で訴えると脅しをかけた。そう考えると、サンジャイ・ジャー(Sanjay Jha)CEOやカール・アイカーン(Carl Icahn)氏(=モトローラの株式の1割以上を保有する大株主の投資家)が公の場で脅しともとれる発言をしていたことも腑に落ちる。また、グーグルが高値を受け入れたことも、もっと単純な形でしかも安く済むライセンス契約にならなかったことも、さらには異例ともいえる25億ドルもの違約金支払いという条件を受け入れたことにも、すべて合点がいく。

英語の慣用句で「hardball tactics」とか「shotgun marriage」とかいうものがあるが、そうした言葉が思わず浮かんでくるようなこのモトローラの駆け引きに関するグルーバー説。間接的な証拠としている事実は、「モトローラのジャーCEOが先ごろ行った決算発表のなかで、今回の買収をほのめかすような発言をしていた」「ジャーCEOは、モトローラがこの数年自社の特許をとてもうまくマネタイズしているものの、それらの価値を引き出すためのさらに劇的な策があれば、それに反対するつもりはない」等の記述があるSeattle Post-Intelligencer (seattle pi)の7月31日付記事、それにこれを受ける形で書かれたUnwired Viewの記事(「第2四半期決算発表のなかで、モトローラは他のAndroid端末メーカーに対し自社の特許に関するライセンス料を要求する用意がある」等の記述を含む)の2つだけ。モトローラ側--とくに、かつて「乗っ取り屋」として名を馳せたアイカーン氏--側が「どうしてこのタイミングで、そうした強硬手段に訴えなければならなかったのか」などについての裏付けとなるものは示されていない。

それでも、「Android陣営のなかでも今のところ『勝ち組』と見られるサムスンやHTCではなく、凋落傾向にあるモトローラに対して、グーグルが自社の利益の2年分弱にも相当する金額を出すことにしたか」というグルーバー氏の問いかけ、さらには「Android陣営内での内戦勃発を恐れたグーグルが、そうした事態を回避するために、モトローラの強気の要求を飲んだ」という同氏の仮説には、さまざまな記事を読んでも腑に落ちなかった疑問点を解決するような何かがあると感じさせられた。

【参照情報】
Ball - Daring Fireball
Suck on it, AppleSoft -- Google pulls a rope-a-dope - RealDan

Motorola's Sanjay Jha openly admits they plan to collect IP royalties from other Android makers
- Unwired View
Motorola Mobility outlook disappoints - seattle pi
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グーグル、モトローラを125億ドルで買収へ - 特許関連強化はプラス、ハードウェアベンダーとの関係は微妙に

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