タブレットかEインクのリーダーか? 明暗を分ける今年のクリスマス商戦に向けてしのぎを削るアメリカの電子書籍事情
2011.10.19
Updated by WirelessWire News編集部 on October 19, 2011, 16:30 pm JST
2011.10.19
Updated by WirelessWire News編集部 on October 19, 2011, 16:30 pm JST
普段はあまり高価なギフトを贈り合う習慣のないアメリカで、唯一の例外がクリスマスだ。このクリスマス商戦がリテール業にとって最大のかき入れ時で、ここで1年の赤字を埋める勢いで売りまくる。従ってどのメーカーも、11月の末頃に照準を合わせて目玉商品を準備する。そして今年は電子書籍リーダーに期待がかかっている。
アマゾンは9月末に初めてのタブレットと新しいEインクリーダー2種を発表した。(「キンドル(Kindle)」は火をおこすという意味なので)「ファイヤー(Fire)」と名付けられたタブレットは、7インチ画面のバックライト式で、OSはアンドロイドだがかなりの独自仕様、半ばクラウド化させているのが新しい。これが200ドルと、iPadの半額以下。クリスマスに向けた最大の目玉商品として11月末から発送を開始する。
これに従来のEインクの画面をタッチスクリーン方式にし、WiFiのみのものと、通信料をアマゾンが負担する3Gネットワーク付きのキンドルが2種。タブレットはWiFiのみになっているので、もしこの先、少し安めのWiFiオンリーのキンドルが売れるのなら、おそらくアマゾンは3Gサービスを見直すだろう。少なくともアメリカ国内では人が集まるところに無料WiFiあり、と言っていいほどインフラとして整備されつつあるからだ。
そして日本でも買える79ドルの廉価版と、ラインアップを充実させた。
こうやって色々なスペックの端末を揃え、ユーザーに選ばせようというのがアマゾンのやり方だ。どんな端末を使っても、Eブックをアマゾンから買ってもらえば問題はないのだから。タブレットに至っては1台売るごとに10ドル近い赤字が出ているとの話もある。
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一方で、アメリカ最大手書籍チェーンであるバーンズ&ノーブルは、紙の本を売る従来の店舗を活かしながらも、どうやってEブックマーケットに食い込んでいくかに生き残りかがかかっている。バーンズ&ノーブルに次ぐ第2位のボーダーズの倒産を目の当たりにして一層その思いを強くしたに違いない。アマゾンの発表を受けて、さっそく「ヌック・カラー(Nook Color)」の値下げを発表し、225ドルとした。
日本では販売されていないのでわかりづらいが、バーンズ&ノーブルのEリーダーである「ヌック(Nook)」も健闘している。シェアはアマゾンの50%に対し、20%近い。特に雑誌を購読する場合、購読料は安めだが、テキストが中心で申し訳程度に白黒写真しか入らないキンドルよりも、紙の雑誌に含まれる全ての写真がそのままカラーで見られるので、雑誌をEブックで楽しみたい人にはこっちがお薦めだ。難を言えばEインクのリーダーと比べると重たく、手に取ると長時間片手で持つのはきつそうだ。
バーンズ&ノーブルは全国に数百店ある大型店舗において、ヌックの売り場とともに児童書スペースを拡張しつつある。ヌックのホームページ上でも、子供向けのEブックとアプリが充実していることを謳っている。店舗によっては教育系玩具も合わせて置いてあり、こちらは親子連れをターゲットにしていることが伺える。
面白いのは、このヌックを持ってバーンズ&ノーブルの店に行くと、店内にいる限りは無料のWiFiでネットに繋ぎ、バーンズ&ノーブルのオンライン書店が提供する全ての本が立ち読みできるのだ。
一方でヌック・カラー用の児童書コーナーが充実しており、カラーで見せるマルチメディアの読み聞かせ本や、子供たちが自分で作ったお話を投稿して優秀作品はEブックにしてくれるというコンテストがあったりする。つまりは本屋の大型店舗に親子で遊びに来てね、そのためにも親子で遊べるのがヌック・カラーなんですよ、というスタンスなのだ。
アマゾンのタブレットと競合するのがこのヌック・カラーなのだが、「商品」とされるEブックのタイトル数ではバーンズ&ノーブルの方が上まわっているということはあまり知られてないようだ。
アマゾンのオンライン書店は、自費出版や無料のEブックが玉石混交の状態で入り乱れているので、キーワードで検索するとどのぐらいのクォリティーの本が出てくるのかわからないことがある。しかも今、自費出版プログラムで流行りの詐欺まがいの行為に、同じ内容の本に複数のタイトルや表紙をつけて違う本に見せかけて売りまくるというのが流行っている。
その点、バーンズ&ノーブルは、書店の在庫としてのクォリティーをEブックのコンテンツにも求めているようだ。これもリアル書店とオンライン書店の双方を、親子で安心して本を探せる場所にしていこうという方針の表れだろう。各書店で行われる著者サイン会や、読み聞かせ、ブッククラブなど、リアル書店があることの強みをどれだけ活かしていけるかが今後のバーンズ&ノーブルの課題だ。
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Eインクを使ったリーダーはタブレットと比べると見た目が地味なのだが、その軽さといい、電池のもちといい、使い始めると読むことに没頭してガジェットの存在自体を忘れることがある。それこそ紙の本を読んで夢中になっている時の感覚と何ら変わりがない。
ソニーのEリーダーも、ずっとEインクを使った機種を発表しているが、どうしても日本の「モノ作り」への執念がそうさせるのか、ユーザーの使い心地よりもスタイルや細かい精度にこだわりがちのようだ。屋外でも読めるのがEインクの強みなのに、わざわざバックライトを付けたモデルを出してみたり、地味でも構わないEリーダーにあれこれとカラーを揃えているところからもそれは伺える。グレイスケールが一番細かくてきれいなのがソニーなのだが、本を読むのに8段階だろうが16段階だろうが、そんな細かいところを改良してもしょうがないところにこだわりが見え隠れする。小さくて軽いのはいいが、値段が200ドル強と、キンドルやヌックに比べると割高感が否めない。
それでもようやく「パソコンにつなぐ」という呪縛が解けて、WiFi対応になったし、タッチスクリーンの感度も一番速いので、ガラパゴスのように絶滅せずに生き延びる道を模索してほしい。
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そしてパソコン一筋でいくのかと思われたグーグルEブックスもiRiverから専用のEリーダーを発表した。こちらは見た目が前世代のキンドル2に似た、キーボード付きの白いボディーに、高級感を出すためなのか、ゴールドのアクセント付きだ。値段は140ドルと、キンドルと同じ設定になっている。
そして気になるのがアップルの動向だが、こちらは先日iOS 5が発表されたものの、iBooksではあまり画期的なニュースがないのが現状だ。Mac用のアプリさえまだ出ていないので、いつまでもパソコン上でEブックが読めないのはアップルらしからぬ手抜きにしか思えない。
他のメーカーからもEブックを読むためのデバイスは出ているが、上記のこの辺が年末の主力商品だろうと思われる。
ただ、どこのサービスも強化しておかなければならないのが、12月25日のサーバーだ。クリスマスプレゼントにタブレットやEリーダーをもらった人が一斉にさっそくEブックをダウンロードするからだ。
文・大原 ケイ(リンガル・リテラリー・エージェンシー(Lingual Literary Agency)代表)
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