トラフィックが1000倍になっても耐えるネットワークを作る──NSN特別研究員 ハリー・ホルマ氏
2011.11.22
Updated by WirelessWire News編集部 on November 22, 2011, 17:01 pm JST Sponsored by NOKIA
2011.11.22
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「10年後には無線データトラフィックは1000倍になる可能性があります」。ノキア シーメンス ネットワークス(NSN)が開催した「eXperience Day」の記者説明会では、同社研究所 無線システムパフォーマンス 特別研究員のハリー・ホルマ氏が講演を行った。タイトルは「Beyond 4G――4Gの先を見据えて」。グローバルの無線通信のトレンドから将来へ向けたソリューションを解説した中で、冒頭の衝撃的とも言えるトラフィック予測が提示された。このトラフィック急増にどう通信事業者は対処したらいいのか、それが4G以降の通信の課題となる。
▼ノキア シーメンス ネットワークスで無線のシステムパフォーマンスを担当する研究員、ハリー・ホルマ氏
まず、ホルマ氏は現状の無線通信のトレンドから紐解いていった。「ご存知の通り、スマートフォンが非常な勢いで伸びています。そこにはネットワークが対応すべき課題もあります。動画伝送などが増えることでデータが非常に多く流れます。同時に、スマートフォンではネットワークとやり取りするシグナリングがとても増えることも挙げられます。さらに、電話としての音声品質も良くなければなりません。こうした課題を解決できるネットワークを、設備投資額を増やさずに構築する、こうした状況にグローバルの事業者は直面しているのです」。
実際、ノキア シーメンス ネットワークスの予測では、グローバルのモバイル通信の転送量は年々増加し、2015年には現在の20倍にも増えるという。スマートフォンによるデータトラフィックの伸びは著しく、2015年にはスマートフォンが全体の50%ほどを占めると予測する。
ホルマ氏はここで国内のデータトラフィック推移を総務省の統計から引用した。「日本の公式な数字では、2010年6月から2011年6月の1年間で、トラフィックは2倍に増えています。毎年2倍になったら、10年後には2の10乗となりトラフィックは1000倍になってしまいます。これに対処しないといけないのです」。数十倍という数値ならば耳にするが、1000倍への対応を検討するとなると、これは大変なことになる。
実際、ホルマ氏によると「国内の既存周波数帯とマクロ基地局設置によるトラフィックを予測したところ、LTE-Advancedを2.1GHz帯と850MHz帯で導入すると、現在の24倍のトラフィックを収容できるという計算になりました」という。それでは2015年の20倍には耐えられても、10年後の1000倍にはまったく歯が立たない。
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ノキア シーメンス ネットワークスでは、こうしたトラフィックの急増や新しいサービスの台頭に対応したネットワークとして「Liquid Net」を提案している。「Liquid Netは単一の製品ではなく、ネットワークをどのように作ると柔軟性が得られるかというコンセプトです。お客様にどのようにして良いネットワークを提供できるかを、複数の製品群を組み合わせて具現化するものです。無線のソリューションであるLiquid Radio、コアネットワークを支えるLiquid Core、伝送路を形成するLiquid Transportがあります」。ホルマ氏は、その中でも無線のトラフィック問題に直結するLiquid Radioについて説明した。
どうやって無線のキャパシティを上げるか。それにはいくつかの構成要素があるとホルマ氏は言う。主なものとして、ヘテロジーニアスネットワークに対応したSONツール、アクティブアンテナシステム、ベースバンドプーリングを掲げた。
▼ノキア シーメンス ネットワークスの小型基地局装置を紹介しながら、ベースバンドプーリングの効能を説くホルマ氏
複数の異なる無線システムを組み合わせて使うヘテロジーニアスネットワークは、無線のキャパシティを増加させる1つの解になる。さらに、大規模な基地局だけでなく、小規模な基地局、家庭などに入るようなフェムトセルなど、基地局の種類も多様になる。そのように複雑化したシステムでは、人力でシステムを最適化するには限界がある。そのため、自動的にシステムを最適化する「SON」(Self-Organizing Network)ツールの重要性が第一に挙げられる。
2つ目としては、マクロセルのキャパシティを上げる「アクティブアンテナシステム」が挙げられる。アンテナ部とRF部が統合されたアクティブアンテナでは、設置のための機器が減るメリットがある。さらに、指向性を高めて電波を発射する「ビームフォーミング」の機能を備えることにより、効率的に端末に電波を届けられるようになる。
3つ目は、基地局のデジタル信号処理を行う「ベースバンドモジュール」を、集中して設置・管理する「ベースバンドプーリング」である。ベースバンドモジュールを通信事業者の局舎などに設置し、基地局の無線アンテナ(RF部も含む)とを光回線でつないで構成する。ベースバンドモジュールを集中管理し、基地局ごとのキャパシティを柔軟に割り当てることが可能になり、システム全体のパフォーマンスを向上できる。異なる無線方式の基地局であっても、統合管理できるメリットもある。
ホルマ氏は、「これらの要素技術は、すでにノキア シーメンス ネットワークスによって開発され実証されています。アクティブアンテナのように、トライアルで利用されているものもあり、通信事業者がすぐにでも実用化できるところが大きなアドバンテージだと考えています」と語る。
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ホルマ氏は、ここで講演のタイトルにもある「Beyond 4G--4Gの先」についての考え方を披露した。世代としては、LTE-Advancedの次の世代のソリューションである。
Beyond 4Gで求められるものは、「1000倍のトラフィックへの対応、ギガビット級のピークスピード、安定した接続性、低いレイテンシー(遅延)です。レイテンシーは、3GのHSPAで20ミリ秒、LTEで10ミリ秒程度です。これを、Beyond 4Gでは1ミリ秒以下にしたいと考えています」(ホルマ氏)。
▼1000倍のトラフィックに耐えるネットワークは、3つの側面からそれぞれ「10倍」の増強を実現できればいい
Beyond 4G時代の1000倍のトラフィックへの対応はどうしたらいいのか。「まず、周波数利用効率を10倍に高めようと考えています。周波数利用効率は、セル間干渉をより綿密に制御することで高められます。新しい技術の投入で、10倍は可能だと考えています」(ホルマ氏)。
次に、周波数の利用帯域を増やすこと。利用帯域は、グローバルでなおかつ通信事業者や業界で協議していく必要があるとしながら、「今は100MHzの帯域がグローバルで利用されている状況です。これが2020年ぐらいまでには1GHz以上の周波数帯域を利用できるようになるでしょう」(ホルマ氏)。複数の無線方式を一元的に扱えるコグニティブ無線などの技術開発により、飛び飛びの周波数帯域であっても有効に活用できるようになる。また、2.4GHz帯や5GHz帯の免許不要な帯域を使って、トラフィックをオフロードすることもポイントになる。
最後に、基地局を増やすこと。現在主流のマクロセルの基地局だけでなく、より小さいセルを構成していく。「現在のノキア シーメンス ネットワークスの小型基地局は10リットルの体積があります。しかし、今後のフェムトセルのモジュールは指先に収まるサイズにまで小さくなります。SONでシステムの最適化を自動化できるので、基地局を10倍に増やすことが可能になるのです」(ホルマ氏)。
周波数の利用効率を高めて10倍、周波数帯を増やして10倍、基地局を増やして10倍。「これで合計1000倍のトラフィックに対応できるのです。10年後までに十分商用に耐えられるネットワークが作れると信じています」と、ホルマ氏はトラフィック問題への解決の道筋をアピールした。
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