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次世代規格「5G」の動向、課題、標準化の進展は?──ノキアに聞く5Gの姿

2015.01.27

Updated by Naohisa Iwamoto on January 27, 2015, 12:00 pm JST Sponsored by NOKIA

2020年──。東京オリンピック・パラリンピックの開催の年をターゲットとして、新しい移動通信システムの商用化に向けた活動が活発になってきている。LTE-Advancedのさらに先を目指した「5G」、すなわち第5世代移動通信システムがそれだ。5Gは、これまでの携帯電話サービスよりも幅広いアプリケーションに対して、モバイルの通信インフラを提供する。5Gの目指すところ、実現へ向けた世界の動向や課題、さらにグローバルなモバイルブロードバンド機器ベンダーとしてのノキアの取り組みについて、ノキアの日本法人であるノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社の担当者に聞いた。

5Gのビジョンを支える3つの柱

日本では、3.9Gに位置づけられるLTEサービスが普及し、本来の4GであるLTE-Advancedの技術であるキャリアアグリゲーションを適用したサービスの提供も始まった。それでは、その先の通信インフラを担う5Gとは何を目指しているのだろうか。

ノキアソリューションズ&ネットワークス グローバル技術標準化部門 シニアスペシャリストの小野沢 庸氏は、まず5Gに向けた活動の現状をこう語る。「5Gに向けた活動は、世界のほとんどの国で始まっています。その中でも特に活発なのは、日本と米国、中国、韓国といった国です。ヨーロッパでは各国の共同開発という形で活動がアクティブになってきています」。世界ではまだ2GのGSMが多く使われているが、先進国を中心に今後のモバイル通信の行方を占う5Gへの注目が高まっている。

▼ノキアソリューションズ&ネットワークス グローバル技術標準化部門 シニアスペシャリストの小野沢 庸氏
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小野沢氏は続ける。「マーケットトレンドとしては、今後もICTの発展が続きます。ICTの発展に応じて、移動通信技術を使った新しいサービスが予想されます。こうした新しい要求にも対応できるモバイル通信インフラを作るのが、5Gの目指すところです」。5Gは、2Gから3G、そして4Gという通信技術の進歩とは一線を画し、ICTの新しいソリューションを実現するためのインフラとしての性格が強い。

「ITU-R(国際電気通信連合の無線通信部門)では、5Gを暫定的に『IMT-2020』と名づけて、標準化の準備を始めています。2015年夏には、今後のIMTの方向性を"ビジョン勧告"としてまとめる予定です。その勧告案に、ノキアが提案した5Gの3つの柱が採用されています」(小野沢氏)。5Gの3つの柱は以下の通りに設けられている。

●モバイルブロードバンド
現在、LTEなどで提供されているデータ通信サービスの発展形。LTEでは100Mbpsのオーダーのサービスが提供されているが、これを最大10Gbpsへと引き上げる。高解像度の動画伝送などの用途が考えられる。

●マッシブマシンタイプ
さまざまな機器がインターネットに接続するIoT(モノのインターネット)と同様の概念のサービス。センサーネットワークや水道メーター、電気メーターなどがモバイル通信インフラを通じてインターネットに接続する。1つひとつのデータ量は小さいが、大量のデバイスがつながる。

●ウルトラリライアブル&ローレイテンシー
高い信頼性で、なおかつ低遅延の通信サービスの提供。衝突防止、車々間通信、車路間通信などのクルマ向けのサービスのほか、防災など人命に関係するような用途でのミッションクリティカルなサービスを支える。

▼図1 5Gのカバー範囲を三角形で示した。上の「スループット」がモバイルブロードバンド、左の「デバイス数、コスト、パワー」がマッシブマシンタイプ、右の「レイテンシー、信頼性」がウルトラリライアブル&ローレイテンシーに相当する(※画像をクリックして拡大)
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これらの3つの方向を頂点とした三角形の中に、さまざまなアプリケーションやソリューションが含まれるのが5Gのビジョンというわけだ。IMT2000(3G)では音声通話がメインで始まったが、4Gまでにデータ通信の方向に用途が拡大し、さらに5Gでは3つの方向にIMTの用途が拡大していくという考え方だ。

10Gbpsの高速性、1ミリ秒の低遅延が求められる5G

5Gで要求されるスペックも、具体的になってきている。トラフィック容量としては、現在の1万倍にも耐える技術やアーキテクチャが求められる。通信速度は、ピークデータレートで10Gbpsのオーダー、平均スループットでも100Mbpsが要求される。セルエッジなどの条件が悪い状況でも100Mbpsが求められるのだ。遅延は1ミリ秒以下と、現在のLTEの10分の1以下の低遅延性能が要求される。

5Gに求められるスペックには、こうした通信そのものの要件以外の指標も多い。小野沢氏は、「たとえばデバイスの数は、IoTなどの利用により現在の10倍から100倍になると考えられます。こうなると、センサーなどのバッテリー交換が必要なデバイスではメンテナンスのための人件費がかさみます。バッテリー交換不要で10年間使える製品を、低コストで提供しなければなりません。また高い信頼性も求められます。ミッションクリティカルなアプリケーションで通信の信頼性が求められるのはもちろんですが、多くの機器のメンテナンスコストを下げるという側面でも、信頼性は重要なファクターです」と語る。

さらに、機器の数が10倍から100倍に増えると、機器ごとのエネルギー消費量が変わらなければ、エネルギー消費の総量も10倍から100倍になってしまう。5Gでは、通信にかかるエネルギー消費を抑え、世界的なエネルギー消費の削減にも貢献する必要があるのだ。

こうした要求に応えられるように、ITU-Rのビジョン勧告でも、 5Gのパラメーターが検討されている。現状の数値を見ていこう。

▼図2 ITU-Rのビジョン勧告で検討されている5Gのパラメーター
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データレートは100Mbpsから1Gbps、ピークデータレートは10G〜50Gbpsと、それぞれ4Gの要求水準を大きく上回るパラメーターを5Gでは検討している。移動しながらの通信に対するモビリティーは時速500kmで、「これはすでにLTEでも実現しています」(小野沢氏)。遅延は1ミリ秒、接続密度としては1平方キロメートルに100万個ほどのデバイスがあっても通信できる性能を定める。これは「例えばスタジアムで5万人が同時に通信してもネットワークが落ちないことにつながります。ノキアは、フジ・ロック・フェスティバルや韓国の釜山で行われた花火大会のサポートをした実績があります」(小野沢氏)。

エネルギー消費効率は現行の50倍から100倍に高め、省エネルギー化を進める。周波数利用効率も、アンテナの実装密度を高め送受信アンテナ数を増やすなどの方策で現行の5倍程度を目指す。ノキアソリューションズ&ネットワークス テクノロジー・ディレクターの赤田正雄氏は「ITU-Rのワーキングパーティーの1つであるWP-5Dで、こうしたパラメーターを検討しながら、5Gのビジョン勧告を作っているところです」と現状を語る。

▼ノキアソリューションズ&ネットワークス テクノロジー・ディレクターの赤田正雄氏
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3GPPが提案し、ITU-Rが勧告する公算が高い

2020年の商用化を目指す5Gだが、実はまだ正式に標準化作業が始まったわけではない。これからが正念場というところだ。

赤田氏はこう語る。「5Gで使う周波数の割付は、ITU-Rで決まります。そこで利用するシステムにはどのようなものがふさわしいか、ITU-Rがビジョン勧告を作り、要求条件を定めて、最終的に技術を募集することになります。現段階では、3GのW-CDMA時代から現行のLTE、LTE-Advancedまでの標準化作業を支えてきた3GPPが、検討した技術を提案してくると見られています」。

▼図3 5Gの実用化までのタイムテーブル(※画像をクリックして拡大)
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5Gの標準化というと、5G-PPP(5G Infrastructure Public-Private Partnership)やMETIS(Mobile and wireless communications Enablers for the Twenty-twenty (2020) Information Society)などの名称を耳にすることも多い。日本でも総務省が主導して「第5世代モバイル推進フォーラム」(5GMF)が2014年9月に発足している。3GPPやITU-Rと、これらの組織の関係はどうなっているのだろうか。

赤田氏は「これらは、標準化のための組織とはレイヤーが異なります」という。「5G-PPPもMETISも、任意団体です。5G-PPPは、ヨーロッパの資金を研究に割り振るためのフレームワークで、応募が終わったところです。METISはベンダーが集まって共同研究する組織です。日本の5GMFも5Gのプロモーション活動や、実証実験を推進する場となります。こうした団体やノキアをはじめとするベンダー、キャリアが3GPPに技術を持ち寄って検討し、ITU-Rに提案するという流れが考えられます」。

5Gは2020年の商用化がターゲットとはいうものの、標準化作業だけでなく、利用する周波数帯域も決まっていない。小野沢氏は、「5Gで要求する10Gbpsといった高速データ通信は、周波数帯域を広く使わないと実現できません。広い周波数帯域を全世界で共通に確保するには、現在利用されている低い周波数ではなく、高い周波数を使わざるをえません。しかし、まだその周波数帯域は決まっていないのです」と語る。

実際、「ITU-Rでは、周波数帯の利用方法などを決めるWRC(世界無線通信会議)を数年ごとに開催していますが、次回の2015年のWRC-15には6GHzを超える高い周波数帯の議論がアジェンダに入っていないのです。5Gで使う高い周波数帯は、必然的に2019年のWRC-19で決めることになります。2020年に商用化するとなると、スケジュール的にはかなり厳しいというのが現実です」(小野沢氏)。

技術的な課題は「てんこ盛り」

高い周波数の利用が視野に入る5Gでは、技術的な課題も多い。赤田氏は、「5Gで広帯域を確保しようとする高い周波数帯域は、使われていなかったから空いているわけです。なぜかといえば、高い周波数は使いにくかったからで、これを使えるようにするには今から研究開発を進めていかないとダメです」と指摘する。

「高い周波数では、直進性が高く、電波が飛びにくい特性があります。これまでの2Gから4Gまでは、技術的には大きな進歩をしていますが、利用する周波数帯はほとんど同じでした。今回の5Gでは、今までの利用実績が少ない高周波数帯を使うために、電波特性自体が違います」(小野沢氏)。一方で、高い周波数を使うことのメリットもある。1つは高い周波数では波長が短くなるため、アンテナが小さく作れること。アンテナを縦横に16個×16個などと密集させたアンテナアレイが作りやすくなる。もう1つは電波が飛びにくいことの裏返しで、干渉が少なくなることだ。これにより高密度で無線ネットワーク構築することも可能となる。

さらに5Gでは、用途も大きく変化する。「冒頭で紹介した3本の柱のうち、三角形の右下にあるような車々間通信や制御といった、これまでとまったく異なるコミュニケーションパスでの利用が考えられています。新しい周波数帯への対応だけでなく、1ミリ秒といった低遅延の新しいネットワークアーキテクチャーも必要になります」(小野沢氏)。

もっとも、5Gで想定される周波数帯域は、高い周波数に限らない。使う周波数帯は、大きく3つに分けて考えられているという。「1つは6GHz未満の周波数帯です。電波特性が3Gや4Gで使っている帯域と近く、遠くまで飛ぶため我々ノキアではこの帯域でつかう技術を「5Gワイドエリア」と呼んでいます。2つ目が20GHz未満の「センチメートル波」、3つ目が30GHzを超えるような「ミリ波」です。それぞれ、特が異なるため、最適な技術も異なります。5Gはこれらを3本立てで進めていくことになるでしょう」(小野沢氏)。

▼図4 5Gでは高い周波数も利用するため、帯域を「5Gワイドエリア」「センチメートル波」「ミリ波」に分けて技術開発を進める(※画像をクリックして拡大)
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5Gの実現には、まだ決まっていないことや解決しなければならないことが、立ちはだかっているようだ。「2020年までの時間は限られているのに、技術的な課題はてんこ盛りというのが現状です。多くの組織や企業が急ピッチで技術開発を行っているのは、このためです」(赤田氏)。

全方位で5G推進に注力するノキア

多くの組織や企業が5Gの技術開発を進める中で、ノキアはどのような活動をしているのだろうか。小野沢氏はこう答える。「日本では、5GMFの4つの委員会すべてで、ノキアは活動しています。またNTTドコモと共同で5Gの研究も進めており、「ミリ波」の実験システムのデモを予定しています。ヨーロッパではMETISで他のベンダーと共同で技術研究を行っているほか、5G-PPPの議長をノキアから輩出しています」。

▼図5 国内外における5Gに対するノキアの取り組み
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さらにノキアは、米国でもニューヨーク大学と共同で「ブルックリンサミット」を開催し、高い周波数帯の利用について共同研究を行っている。このほかにも5Gへの関心が高い中国や韓国でも共同研究やフォーラムに参加しているという。世界の主な5Gへの動きに全方位でかかわって、標準化へのイニシアティブを握ろうという心意気が感じられる。

「ノキアは、3GPPの立ち上げからずっとかかわって重要なポジションを占めています。5Gに対しても、5G-PPPの議長はもちろん、ITU-Rでのビジョン勧告の作成への貢献など、標準化に対して世界でもトップレベルの活動をしていると自負しています」(小野沢氏)。既存のシステムで世界各国のキャリアへの納入実績があるだけに、各国のキャリアとも具体的な議論ができることも技術開発の裏付けになる。「自前で開発した技術をプロモーションして、世界をリードする」ことが、ノキアの5Gに対するアプローチというわけだ。

5Gの実現に向けては、世界でだんだんコンセンサスが作られてきている段階だという。小野沢氏は5G標準化にかかわる立場から、「今後の通信規格は、業界全体のコンセンサスに沿ったものでないと、実現できないでしょう。ただし、動きは非常に早く、これまでの標準化とはスピード感が違うと感じています。標準化にかかわる人数も多く、ノキアだけでも数十人が作業しています。すべてが早く動くため、気がついたら終わっていた──というぐらいのスピード感で対処する必要がありそうです」と打ち明ける。

「ノキアには、ノキアソリューションズ&ネットワークスを含むNetworks事業部のほか、先進技術の開発を行うTechnologies事業部、地理情報を扱うHERE事業部の3つの事業部があります。HERE事業部の地理情報サービスは日本では提供していませんが、世界では約8割のシェアを持つサービスです。クルマでの利用が想定される5Gの時代になると、3つの事業部の事業が連携し、1つのノキアの意味がより明確になるでしょう」(赤田氏)。

2020年当初は6GHz以下から提供する可能性

5Gは1つの規格でありながら、3本の柱に代表されるような幅広いアプリケーションやソリューションを支えるモバイル通信インフラを目指している。5Gの商用化が2020年をターゲットとしているといっても、すべての要件をあと5年でまとめて実用化にこぎつけるのは現実的ではない。

赤田氏は、私見としながらも「2020年に5Gでどこまでやるのかは、NTTドコモや5GMFでも議論がなされています。実際には、まず低い周波数帯域からスタートするのではないか、と考えています。6GHz未満の、5G ワイドエリアと呼ばれる部分です。それから数年後をめどに、センチメートル波やミリ波といった高い周波数帯の利用が始まると考えるのが妥当でしょう」と語る。

2020年まで残された時間は少ない。赤田氏は、「何をターゲットにして進めていくのか、これは日本が決めていかないといけないと思います。東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機にして政府主導で5Gの研究開発を推進していく日本は、5G商用化が最も早い国になるでしょう。その日本が、ローンチの仕方について主導権を持つ必要があります。2020年の切り口で、目標をクリアにすることが今は一番重要だと感じています」と締めくくった。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。