中国最大手の携帯通信事業者チャイナ・モバイル（China Mobile）が、「iPhone」の取り扱いに関してアップルと正式な契約を結んでいないにも関わらず、すでに1000万人近いiPhoneユーザーを獲得しているという話については以前に少しお伝えしていたが、この大量獲得の秘訣を明かした記事がBloombergで公開されている。

この記事によると、チャイナ・モバイルはiPhoneのデータ通信用として、3G回線の代わりにWi-Fiサービスを提供し、同時に端末購入時に高額のギフトカードを配るという方法でiPhoneユーザーを集めているという。具体的な仕組みは、チャイナ・モバイル指定の携帯端末販売店でiPhoneを購入し、同社のWi-Fiホットスポットサービスに加入するユーザーに対して、最大で2800元（約3万4500円）のギフトカードを提供するというもの。ユーザーはこのギフトカードを後で通話料やデータ通信料の支払いに使えるが、ただしサービス加入時に2400元（約2万9600円）を前払いする必要がある。

チャイナ・モバイルでは、この施策が奏功して、9月までの4ヶ月間におよそ500万人のiPhoneユーザーを新たに獲得したという。サムスン証券（香港）のアナリスト、ポール・ウー（Paul Wuh）氏はBloombergに対して、「チャイナ・モバイルでは、このやり方がうまくいくことがわかった。同社には、割引なしでiPhoneを購入し、同社の2Gネットワークを（通話用に）使っているユーザーが1000万人もいる」とコメントしている。

また、ユーザー側の反応も悪くないようで、たとえば「iPhoneを利用する上で3Gサービスはなくてもいいと思う。インターネットに接続したければ、Wi-Fiがある。アプリをダウンロードしたい時には、自宅にあるMacBookから入手している」というユーザーの声も紹介されている。

なお、このWi-Fiサービス加入者への割引キャンペーンでは、サムスン（Samsung）やノキア（Nokia）、ZTE、ファーウェイ（Huawei）など、あわせて8機種の端末が対象となっているものの、地下鉄の駅構内に張られたポスターでは「iPhone 4」という文字がひときわ大きく記されているという。

チャイナ・モバイルが3Gネットワークで採用しているのは中国独自のTD-SCDMA方式で、iPhoneが対応するCDMA/WCDA方式とは互換性がない。同社は4G（TD-LTE方式）対応のiPhone登場を視野に入れて、以前からアップルに秋波を送り続けているが、先月発売されたiPhone 4Sでは同方式への対応が見送られていた。

携帯電話の加入者数が9億5000万人を突破した中国市場では、携帯通信事業者各社が急増する3G加入者の取り込みを通じて、売上の拡大やARPUの引き上げを図ろうとしている。なかでも、これまでiPhoneを独占的に取り扱ってきているチャイナ・ユニコム（China Unicom）では3Gサービスの加入者数を3020万程度まで増やしてきているが、チャイナ・モバイルが前述の裏技でとも呼べそうなiPhoneユーザー獲得策を進めたことで、両社の3G契約者数の差はこの1年間で470万から1300万に開いてしまったという。なお、中国の3Gユーザー数（加入件数）は10月に1億200万人に達している。

チャイナ・モバイルはこのWi-Fiオフロードによる3Gユーザー取り込みをさらに進める考えで、今後3年間に全国100万カ所のWi-Fiホットスポット新設を計画。ただし16GB版iPhone 4の場合で、端末購入代金の6割にも相当する割引の負担は同社にとっても重く、「この施策は、たしかに顧客のつなぎとめには役立つだろうが、同社にとってほんとうに必要なのは、より多くの利益が望める3Gへの（2Gユーザーの）移行」とするアナリストの声も紹介されている。なお、今年第3四半期の利益の伸びは、チャイナ・ユニコムが前年同期比21%だったのに対し、チャイナ・モバイルでは同3.7%にとどまっていた。

【参照情報】
・China Mobile Bypasses Apple's Approval to Add 5 Million IPhone Users: Tech - Bloomberg
・Hey, T-Mobile USA: Here's A Tip From China Mobile On How To Sell The iPhone - paidContent
・「iPhoneユーザー、すでに1000万人に」- チャイナ・モバイル、アップルにふたたび秋波
・【図・グラフ】中国3Gサービス加入者の「指数関数的な増加」