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ソフトビジネスを再定義、M2M向けICチップ製造にも乗り出すアプリックスの狙い

2012.01.20

Updated by Naohisa Iwamoto on January 20, 2012, 11:30 am JST

携帯電話や家電などの組込みソフトウエア開発を手がけるアプリックス。近年ではスマートフォン時代に即応し、NTTドコモのspモードメール用のアプリを開発し提供するなど、さまざまなソフトウエアを世に送り出している。

アプリックスは2011年4月に持ち株会社の「ガイアホールディングス」に移行し、傘下に事業会社として新アプリックスを設立。現在はグループ企業として、ゲーム開発のGモード、アニメ開発のアニメインターナショナルカンパニーなどを擁し、ソフトウエア技術を核としたビジネスを展開している。

アプリックスの創業者で、現ガイアホールディングス代表取締役などを務める郡山龍氏に、ワイヤレス業界とソフトウエア産業を取り巻く環境変化と、2012年の同社の進む道について聞いた。

201201201130-1.jpg郡山 龍(こおりやま・りゅう)氏
ガイアホールディングス 代表取締役CEO。1986年にアプリックス(現ガイアホールディングス)を設立した。アプリックスは、1996年にJavaライセンスを取得、1997年に家電などの機器組込み向けのJava言語で作成されたアプリケーションを実行する「JBlend」を発表。2003年には東京証券取引所マザーズに株式を上場した。現在は、ガイアホールディングス 代表取締役CEOのほか、グループ会社のアプリックス 取締役、ジー・モード 代表取締役社長を兼務している。

ソフト会社を取り巻く環境が激変

──スマートフォンへの移行が急速に進んでいます。アプリックスおよびガイアホールディングスとして、変化にどのような対応を考えていますか。

郡山:この1〜2年で事業環境が大きく変化しています。エンドユーザーにとっては、スマートフォンへのシフトが大きな話題でしょう。しかしソフトウエア業界ではソフトウエアを単体で販売するビジネスモデルが崩壊するという激変にさらされているのです。

変化を引き起こしている1つの要因がグーグルの動きです。グーグルはさまざまな機能を備えたソフトウエアを無料で提供しています。それも質の高いものを配っているのです。さまざまな機能のソフトを購入して組み合わせなくても、メーカーはグーグルの提供する無償のソフトウエアを使えば満足できるようになりました。これではミドルウエアのソフトは売れなくなります。

また、App StoreやAndroidマーケットが広がりを見せたことで、アプリケーションソフトの流通・配布の形態も変わりました。誰もが自分が作ったソフトを世界中に売れるのです。バリューはソフト単体から、SNSプラットフォーム上のサービスに移行しています。多くの企業はソフト販売ビジネスを諦め、上位層のサービスビジネスに逃げ出しているというのが現状です。

──ガイアホールディングスでは、その流れにどういった策で立ち向かうのでしょう。

郡山:ガイアホールディングスとその中核企業であるアプリックスは、ソフトを企画し作る技術が優れていると自負しています。ソフト創出が私たちの競争の源なのです。ところが、ソフトはそのままではお金にならなくなってきました。どうやってソフト技術をビジネスの根幹として継続させるか、そこがカギでした。

私たちは、2つの方向を考え出しました。1つは「総合エンターテインメントの提供」、もう1つは「Deep Embedded(ディープエンベデッド)への展開」です。

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ソフトの力でゲーム発の文化創生

──総合エンターテインメントというと、これまでのアプリックスのビジネスとは方向性が異なるように見えます。

郡山:ガイアホールディングスが進める総合エンターテインメントは、ゲームを中核にし、ソフト技術を駆使して幅広いメディアにその世界観を広げていくというものです。ゲームでは、世界観をより詳細に定義して作られています。例えば小説では主人公の顔も声も読者の想像の中です。アニメでも、そのストーリー以外の登場人物の行動や反応はわかりません。しかし、ゲームは映像も音もあり、登場人物の性格から行動、立ち振る舞いやさまざまな状況への反応など、細かく定義されています。そうしないと奥行きのあるゲームは作れないのです。

ガイアホールディングスには、Gモードというゲーム開発会社があります。ここで開発したゲームを核にして、アニメーション映画や小説、さまざまなグッズの制作などへと展開する計画です。

──アニメーションの制作には費用も時間もかかると聞きます。なぜそうしたビジネスに参入するのでしょう。

郡山:アニメーション映画を作るには、一般には2年ぐらいの時間がかかります。ただし、そのうち1年は作品の世界観の定義に費やされるそうです。私たちは、アニメ映画を6カ月で作ろうと考えています。世界観の定義はゲーム開発でできているので、その後のアニメ制作にかかる処理をソフトの力で時間短縮すればいいのです。ただし、絵はCGではなく手描きで作ろうと思います。手描きにはCGにはない臨場感のあるダイナミックなパースなどの豊かな映像表現ができるからです。

バンダイやディズニーはアニメを出発点としてエンターテインメントの世界を提供しています。私たちはゲームを出発点として、早くかつ広く深い世界観をもったエンターテインメントを提供していけると考えています。好きになったゲームの世界が広がり、アニメや小説、グッズなどで多角的にとことん楽しめる、それが新しい「カルチャー」となるのではないでしょうか。そのエンジンとして、ソフト開発の技術を使うところが私たちの技の見せ所ですね。

3000円の体重計もネットにつながるように

──もう1つの柱である「ディープエンベデッド」の分野について、戦略を教えて下さい。

郡山:端的に言うと、プラットフォームを深掘りし、さらに突き抜けて、その下にある半導体を作ることを考えています。M2M(マシンツーマシン)の分野では、これまでは組込みソフトを作って機器メーカーにライセンスするビジネスを行ってきました。しかし、今後はもっと大きなビジネスがあると考えています。

M2M時代には世の中のすべてのものがネットにつながります。しかし、現状の仕組みでは取り残されるものが多いのです。テレビやビデオ、ハイエンドのデジカメなど高付加価値製品は、ネットにつながるようになるでしょう。では、トースターや体重計、トイカメラはネットにつながるでしょうか。ネックになるのはICチップのコストだと考えています。現状では、汎用CPU、通信回路、FlashやRAMなどのメモリーを組み合わせてネットへの通信機能を実現しなければなりません。ネットワーク側のサービスとの連携まで考えると、開発費を含め数千円のコストアップになります。このままでは3000円の体重計では、ネットにはつながらないのです。

──低コストでネット接続できるICチップを製造するということでしょうか。

郡山:そうです。それ1つさえ載せればネット上のクラウドとシームレスに融合するための機能や手続きなどを全て担うICチップを組込み用に提供しようと考えました。100円以下でネットに橋渡しするICチップを提供できれば、3000円の体重計もクラウドの一員にできます。ICチップの大きさは体温計にも入るサイズを考えています。毎日計った体重や体温のデータが、いつでもクラウド上でチェックできたら便利でしょう。

低コストでシンプルにネット接続を実現するチップがあれば、用途は自ずと広がります。100円以下のコストですから、ネットにつながるからといって、すごい機能を実現する必要はないのです。例えば、加湿器の水切れを教えてくれるとか、居室からスマートフォンで湯沸かしポットの沸騰スイッチを入れるとか、単純な機能で利用できます。こうした「小さな便利さ」を提供する裾野のM2M市場は、限りなく大きいと考えています。何百億台というマーケットがあるのではないでしょうか。

──これは、ソフト会社からハードベンダーへの転換を意味するのですか。

郡山:いいえ。アプリックスが半導体を作ることは、実はソフト販売ビジネスの環境変化への対応なのです。ソフト単体でビジネスをするのではなく、半導体とソフトをセットで販売するQualcommやNVIDIAなどのビジネスモデルと同じことをしようと考えた結果です。

ソフトは無料になっていっても、ハードの物理的な価値に対する対価が支払われます。でも、ハードでは全てのことは実現できないので、そこには、ハードの実体のコストだけでなくソフトへの対価も含まれます。表向きはハードを売るように見えながら、実際はソフトの価値を販売しているというモデルなのです。

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2月にモジュール型でソリューションを提供予定

──具体的なタイムテーブルを教えて下さい。

201201201130-2.jpg郡山:ICチップを作ることは決めましたが、チップは作るのに時間がかかります。そこで、第一弾としてはモジュール型の製品を提供する計画です。3G網経由でネット接続したモジュールを、クラウドから利用する形態です。コスト感覚としては、数万円の機器が1000円でクラウドから見えるようになるといったところでしょうか。2012年2月ころに正式に出荷開始する予定です。

モジュールを組み合わせるだけで3G通信によるネット接続ができるので、用途は広がります。例えば、スーパーの店頭などにある「ガチャガチャ」の機器にモジュールを入れて、在庫が減ったことを"しゃべって"くれたら機会損失が減らせます。人が巡回してチェックするよりもコストははるかに下げられるのです。水のタンクを宅配するウォーターサーバーのビジネスなどでも利用できるでしょう。多くの機器は必要なときにちょっとだけデータを送れればいいのです。機器の側には通信するための特別な機能追加などを施さずに、モジュールと組み合わせるだけで使えるようにします。どんな機器でも、すぐにネット接続が可能になります。

その先にはICチップのソリューションを提供することを見据えています。わずかなコストでネット接続できる製品を作れるようになるので、モジュール型のソリューションよりも一層大きなマーケットが待ち構えていると考えています。

──アプリックスおよびガイアホールディングスが2012年に目指す企業の姿を教えて下さい。

郡山:ソフトをライセンスするといったビジネスから、急速に舵を切って新しいビジネスモデルの確立に注力しているのが現状です。売上的にもフィーチャーフォン向けのビジネスがどんどんシュリンクしている一方で、新しいビジネスが立ち上がってきています。移行期をうまく乗り切りたいと思っています。2012年には、新しい柱となる2つのビジネス、「総合エンターテインメントの提供」と「ディープエンベデッドへの展開」でこれまでとは異なるバリューを創造していきます。

最終的に目指すところは、私たちがソフト技術をベースとした会社であり続けることです。優れたソフトを作るという初心を変わらない「コア」として、ビジネスを展開していきたいと思います。エンターテインメント分野で短期間に複数のメディアに展開できる基盤はソフトにありますし、M2MのICチップのビジネスもその上に載せるソフトがカギを握ります。愚直にソフトを作って、そしてソフトでご飯を食べていけること、これがガイアホールディングスとアプリックスの願う姿なのです。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。