CTIA 2012 レポート(2)予想通りの周波数と舌戦と意外な「原点回帰」
2012.05.09
Updated by Michi Kaifu on May 9, 2012, 15:11 pm JST
2012.05.09
Updated by Michi Kaifu on May 9, 2012, 15:11 pm JST
本日より、いよいよCTIA開幕。ロビーの混雑具合やプレスルームの出足などから察すると、昨日書いたとおり、従来よりかなり人気を回復しているように見える。(ただし昨年春は参加していないので、昨年秋や一昨年以前との比較になる。)私の体感からすると、従来よりも中国と欧州の人が増え、韓国の人が減っているように思えた。一時はほとんど姿を消していた日本人の姿も、少々戻っているようだ。
私は今日はキーノートやセッションが中心だったが、一番印象に残ったのは、多くの講演者が「アメリカが世界のワイヤレスのリーダーの座を取り戻した」と高らかに宣言していたことだ。一人や二人ではない。FCC委員長やキャリアのトップから、個別セッションで話す専門家まで、何人もこのセリフを口にした。全体の空気として、アメリカの無線通信業界が、景気悪化とスマートフォンの大波にもまれた苦難の数年を乗り越え、進むべき方向が見えてきて自信を取り戻したのかも、との印象を強く受けた。
「わぁ、面白かった!」というのが、一日を終えて会場を出たときの私の感想だったが、キーノートとワークショップを中心に見た私と、展示を主に見た人では、おそらくかなり異なる印象を受けたのではないかと思う。
朝のキーノートでは、CTIAのスティーブ・ラージェントCEOが最初に出てきて、このところお約束の「米国のワイヤレス業界は、こんなに社会に貢献している、投資もしている、だけど周波数が足りないからこの勢いが続かない、政府と議会は周波数を我々にもっとよこせ」というお題にて幕を開けた。
その後登壇したFCCのジュリアス・ジェナコウスキ委員長は、これに対し、iPadに入れた講演原稿を参照しながら、「端末盗難対策、データ使用量のアラート表示、次世代緊急通報システム、サイバー・セキュリティなど、多くの面においてワイヤレス業界の貢献と尽力には深く感謝している。2015年までに300MHz、2020年までにさらに200MHzを使えるようにするという目標も設定した」とまずは業界を持ち上げた。
▼FCC委員長 ジュリアス・ジェナコウスキ氏
だが、そういう話のあとには必ず「しかし...」がやってくる。「事はなかなか簡単には進まないので、我々としても、現存の周波数をより効率的に使えるよう、他の対策をいろいろ考えている」と続き、このあと怒涛のような早口で、持ち時間いっぱいにあらゆる施策をぶちまけた。
直接的な施策
(1)政府の持つ周波数の一部を、今後3年のうちにオークションにかける
(2)すでに割り当てられている衛星通信などの周波数の用途をよりフレキシブルにすることで、携帯通信に転用しやすくする
(3)無線塔の使用許可をスピードアップする
(4)WiFiを活用しやすくする
新しいツール
(1)インセンティブ・オークション。これは、既存の周波数権利者が、使っていない周波数をオークションに提供し、見返りにオークションでの売却額の一部を受け取る仕組みで、今年2月に議会を通過、今年秋には、具体的な実施細目の手続きが開始される予定。
(2)ホワイトスペースの開放。
新しいフロンティア
(1) 周波数シェアリング。政府保有の周波数を完全に譲渡するのは難しい場合、民間とシェアして利用することを検討しており、AWS帯に隣接する周波数について、Tモービルと実験を開始している。
(2) スモールセル技術の推進。
...などがおおまかなところだ。他にも細かい話がいろいろあり、ひどく大量の情報が高濃度圧縮された講演だったが、繰り返し出現するテーマが「周波数の効率的利用」という点であったので、彼は彼なりに、講演時間のエアタイムを効率的に利用してくれたのだと思うことにした。
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さて、対抗するキャリア軍は、午後に呉越同舟4社パネル。CNBCテレビ「マッド・マネー」で人気のウォール・ストリート系司会者、ジム・クレーマーがモデレーターとなり、賑やかな舞台となった。
▼左からダン・ミード(ベライゾン)、フィリップ・ハム(Tモバイル)、ダン・ヘッセ(スプリント・ネクステル)、ラルフ・デ・ラ・ベガ(AT&T)。後ろ姿はジム・クレーマー。
ベライゾン・ワイヤレスのダン・ミードCEOは、基本的にはラージェントと同様で、手続きの緩和などにより、2015年といわず、どんどん早く周波数を出してほしいとの主張を展開。Tモービルのフィリップ・ハムCEOは、AT&Tとの合併話が消滅して以降の同社の再建の実績を披露。AT&Tワイヤレスのラルフ・デ・ラ・ベガCEOは、ユーザーエクスペリエンス重視・イノベーションのスピードアップ・新プロダクトであるホームセキュリティ(昨日発表・参考記事)、という3点を中心に述べた。
私の印象に残ったのは、スプリント・ネクステルのダン・ヘッセCEOだ。ユーザーの信頼度調査で、携帯通信キャリアが、ケーブル事業者や石油企業よりも低いスコアとなったことを引き合いに出し、「業界が長期的に繁栄するためには、セキュリティ・セーフティ・プライバシーの3つの点を重視して、ユーザーの信頼を獲得することが大変重要」と繰り返し強調した。
そういえば、昨日のプレス向けイベントの出展企業でも、エンタメやメッセージ系サービスより、セキュリティの企業がやけに多かったな、という感想を持ったところだ。また、午前中のFCC委員長の話でも、「CTIAが音頭を取り、キャリアが協力して盗難端末をデータベース化を行った」話が出てきていた。
少し前までの、「アップルにやられる、グーグルにやられる」といった被害者意識を脱し、またグーグルやフェースブックがプライバシー問題でしばしば槍玉に上がることをチャンスととらえ、インフラを持つキャリアの差別化要素として、「セキュリティ」や「キャリア間共通化でできること」を活かしていこうという戦略方向性が感じられた。
ちょうど、この週末に日本ではモバイルゲームの過剰課金問題に政府が規制を検討という報道が出たところで、私は「今からでもいいから、モバイルゲーム業界の長期的な繁栄のために、政府にやられる前に業界内で協力して自主規制をしてほしいものだ」と反応した。
それは、米国の携帯キャリアは、傲慢とか儲け過ぎとかの批判もよくされるが、一方で、長期的視野に立って、業界団体の枠組みで自主的に課題に取り組むことでこの批判に対抗している様子を見慣れているからだ。
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展示フロアのほうはまだ詳しく見ていないのだが、ひと通り歩いて全体を見て、これまでとかなり違う雰囲気が感じられた。
とにかく、聞いたことのない会社ばかりがやたら多い。アップルとグーグルは当然不在、ノキアもRIMもブースを出していないことは知っていたが、まさかサムスンまで欠席とは思わなかった。端末メーカーで一番大きいのはLGで、あとはモトローラ、京セラあたりまでが見知ったところ。クアルコムやエリクソンぐらいは出ているが、それほど大掛かりなブースではない。これもまた、昨年欠席のせいかもしれないが、毎年おなじみで見かけた常連の顔が本当に少なく、予想通りの中国系・台湾系中小企業が多い。それでも、ショー・フロアは端から端までいっぱいである。
CTIAでは、インフラ・端末・チップなどの大手ベンダーが、美しい大きなブースを出し、洗練されたデモを披露する、あるいはエンタメ系の企業がパフォーマンスを見せる、といった華やかな風景に見慣れていたが、そういったブースが少なくなり、雑多な中小ベンダーが部品や工具を机に並べてお客に見せる、バザールのような雑然とした展示フロアになった。
この地味さ、雑然さは、キーノートなどで受けた「アメリカ・モバイル業界の栄光の復活」の印象とはかなりギャップがある。M2M/モノのインターネットといえばカッコイイが、実際にはその多くは地味な産業用機器や部品の世界だ。このため、端末の新製品などを期待して展示を見に来た人はガッカリしてしまったことだろうと思う。
消費者向けの基本的な通信プロダクトは、キャリアの手を離れて上位レイヤーの人たちのものになってしまった後、キャリアを中心としたCTIAの世界の人たちは、90年代のような地味な産業用機器のバザールに原点回帰して、一からまた新しいものを生み出そうとしているようにも見える。
展示は、明日以降詳細を見ることにしている。
【CTIA2012 公式サイト】
・International CTIA WIRELESS® 2012
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ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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