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"ホームランと三振の間"における分配を考える〜「種類株式」を活用するベンチャーファイナンス術

2012.06.27

Updated by WirelessWire News編集部 on June 27, 2012, 10:00 am JST

ベンチャーの「資本政策」を考える上で極めて有効な武器となるのが「種類株式」である。「複雑」「難しい」といったイメージもあるため日本ではほとんど普及していない種類株式だが、ベンチャーと投資家、双方にメリットがあるため、米国ではベンチャーキャピタルからの資金調達は、ほとんどすべて種類株式である。7月13日に開催されるBizCOLLEGEプレミアム セミナー「起業のファイナンスを学んで、自分の仕事力を磨く、仕事に活かす」(日経BP社主催)でも、種類株式の活用について取り上げる。当日の講師である磯崎哲也氏に、「種類株式」とは何か、その登場した背景と日米のベンチャーの現状についてお話を伺った。

[聞き手:竹田 茂(スタイル株式会社)/ 構成:WirelessWire News編集部]

201206271000-1.jpg磯崎哲也氏(いそざき・てつや)
公認会計士・税理士・システム監査技術者。長銀総合研究所でインターネット産業のアナリスト等を経験後、ベンチャーの世界に飛び込み、カブドットコム証券やミクシィの社外役員、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任。現在、磯崎哲也事務所代表/Femto Startup LLPゼネラルパートナー。ブログ及びメルマガ「isologue」。著書に「起業のファイナンス」(日本実業出版社)。

株式の2つの役割

──私、ほとんどこの分野について知識がなくて、普通の経営者の知り合いは大勢いるのですが、「種類株式」はこれまで話題になったことはありません。そういうものがあることに最初に気付いたのは、Googleの上場の時で、経営者が複数の議決権を持った特殊な株式を持っているという話を聞いたり、最近ではFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOらも、上場時に活用したのがニュースになっていますよね。そもそも種類株式というのは、普通株式と何が違うのか、まずは簡単にご説明いただけますでしょうか。

磯崎:株式の役割には、大きくわけて、企業をコントロールするための「議決権」と、利益などをどう分配するかという「経済的な権利」の2種類あるわけです。竹田さんがおっしゃったGoogleやFacebookの事例は、前者の「コントロールをどう取るのか」という話で、そのために種類株式的な株式(「Class B Common Stock」)を使っています。一方、非上場のベンチャーのファイナンスでは、コントロール権の話も重要ですし、後者の「経済的な権利」の調整が非常に重要になってきます。

100%成功するとは限らない

──お金の分配に種類株式を使うというのは、具体的にはどういうことでしょう。

磯崎:この本(起業のファイナンス)の最終章でも、一通り書いていますが、種類株式を使わないとどういう問題がおこるかというお話をしましょう。

ベンチャーを始める人というのはお金がたいていありません。しかし、昔は株式会社設立には1000万円を用意しないといけませんでしたが、今では資本金は1円でもいいので、お金がなくても株式会社を設立するだけなら、簡単にできるようになっています。

仮に50万円で株式会社を設立したあと、450万出資してあげようという投資家(エンジェルやベンチャーキャピタルなど)が現れたとします。ここで気をつけないといけないのは、同じ株価で出資してもらうと、その外部の投資家が9割の持分を持つことになってしまうということです。つまり、経営者がいくらがんばって儲けても、利益の9割は、経営陣でない外部の投資家のものになってしまうのです。それでもやる気をもってがんばる人もいるでしょうけど、経営陣の努力で99%が決まるのに、逆に利益の9割が外部の投資家に持って行かれるのでは、ふつうはやる気が出ないんじゃないでしょうか。

もう一つの問題は上場する時です。「ベンチャーキャピタルなどが9割持っていると上場できない」という上場規則は無いですが、外部の投資家が、上場したとたんに全部株式を売ってしまう人だとすると、株価が、ガラガラと崩れてしまうことになりそうです。株価がすぐに下がってしまうのでは、上場する際の募集等でその株式を買った証券会社の上得意のお客さんに損をさせることにもなりかねないので、証券会社は嫌がります。つまり「上場したい」といっても、資本構成によって、相手にされない会社もあるわけです。もちろん、投資家が資金回収する方法は上場が全てではなくて、会社を売却するという手もありますが、最初から投資家に大きな持分を握られてしまうと、選択肢が非常に小さくなってしまう、という話です。

つまり、投資家には、お金のない起業家よりは高い株価で投資をしてもらう必要があるわけです。例えば、「創業者は50万しか出さないけど8割、投資家は5000万円も出すけど2割しか株を持たない」といった条件で出資して下さいとお願いすることになります。つまり、投資家には企業価値が2億円ある会社だと評価してもらうということです。

その会社が上場して100億円の企業価値になったとすると、(他のファイナンスを一切行わなかったとして)2割出資した投資家の株式は20億円もの価値になります。こういう場合には全員ハッピーになるので、話は簡単なわけです。

逆に、完全に失敗して「1円も財産は残っていません」という場合も、話は分かりやすい。何も戻ってこないんだから工夫する必要もありません。でも、ホームラン(大成功)でも三振(完全な失敗)でもなく、これからは、一塁打、二塁打、三塁打のときにどう調整するかという話が重要になるわけです。

──持ち分比率の案分って話し合いで決まりますよね。

磯崎:はい。しかし、話し合いで決まればなんでもいいというわけでもないわけですね。初めて投資を受ける人は、資本政策がよくわかっていませんから、自分が50万円しか投資していないのに、投資家から、「6倍の300万円で評価して200万円出してやるから4割持たせろ」と言われると、「設立して間もないのに6倍もの価値で評価してくれた!」と感激してしまったりするわけです。しかし、普通のベンチャーなら、調達額は200万円で終わりではありません。その後、1000万円、3000万円を調達を繰り返すたびに経営者の持ち分はどんどん減っていってしまい、最初に述べたような「働いても利益の9割は投資家にいってしまう」という状態になってしまうわけです。

だから、初期に思い切って高い企業価値評価を付けてベンチャーが大成功できるようにするとともに、仮に、狙っていた「ホームラン」ではなく、2塁打、3塁打になったときでも、関係者全員がハッピーになれるように調整しよう、ということで生まれたのが、「種類株式」です。

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ベンチャーを買えるノウハウは、ベンチャーにしか無い

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磯崎:今、米国ではベンチャーキャピタルが投資するラウンドで発行されるのは、100%優先株(preferred stock)と呼ばれる種類株式になると考えて間違いないです。一方日本では、おそらく9割以上は普通株式です。日本では今までみんな、「ホームラン」しか狙ってこなかったんです。上場を目指してフルスイングするだけで、二塁打でセカンドまで進んで次に送りバントを決めるとか、そういう渋い野球をするというところに気がまわっていなかったということなんですね。

──その違いは、何に起因しているのでしょうか。

磯崎:ひとつは、日本ではまだ「バイアウト」と呼ばれる会社の売却(M&A)が少ないんです。経済産業省のサイトで公開されているレポート「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会報告書(PDF)」の6ページでも紹介されていますが、米国ではいま、エグジットの9割以上がバイアウトです。IPOする企業は、先日のFacebookのような超大型案件はたまに出てきますが、日本のように100億以下でIPOするという話はさほど多くなく、みんな、非上場のうちに売却してしまうわけです。

日本では、「大企業がベンチャーを買わないから、ベンチャーが発展しないんだ!」といったことがよく言われます。その理由として、「日本は『家社会』なので、会社を家とみなして売買したがらないんだ」とか、「日本人は農耕民族だから、M&Aには向かないんだ」と言ったことも言われるんですが、先ほど紹介した経産省のレポートの図を見ればわかるとおり、1980年代には、米国でもエグジットはIPOがほぼ100%だったんです。デコボコはありますが、2010年まで、その比率が年々直線的に減って、今や90%以上のエグジットがバイアウトです。つまり国民性の問題ではないわけです。

ではなぜそうなったか?結論からいうと、「ベンチャーを買うのはベンチャーだから」じゃないでしょうか。ベンチャーには、「有名大学を出て新卒から社内で教育された均質な従業員」といったものが元から存在するわけではありませから、今まで違うフィールドで働いていた異質な人材や組織を取り込んでうまくマネジメントするノウハウが自然と出来上がるわけです。というか、それができないベンチャーは成長出来ないはずです。

そうしたノウハウがない大企業がベンチャーを買収しても、使いこなせないと思います。日本でも、ベンチャーを含めた企業買収を盛んに行っているのは、楽天とかソフトバンクとか、やはり「元ベンチャー」ですよね。

──(ノウハウの無い企業に買われて)うまく使えないと飼い殺しにされてしまうんでしょうね。

磯崎:お互いに需要と供給が合わないから、そもそもディールが発生しにくいでしょうし、タバコを買うのと違って、買ってそのまま使えるわけじゃないですから。M&Aの後のすりあわせのノウハウや、M&Aに関わる会計や税務や法律上の処理についてのノウハウも必要です。こうしたノウハウは、1年や2年で社会に蓄積されるものではなく、長い間やっているうちに様々なプレイヤーのネットワークとして形成される「生態系」的なものなのです。

米国では1975年に証券自由化が起り、それと前後して70年代にベンチャーキャピタルが登場し、アップルやマイクロソフトのようなベンチャーも登場、1980年代はLBO(レバレッジド・バイアウト 対象企業の資産やキャッシュフローを担保に買収資金を調達するバイアウト)ブームがあって、KKR(世界最大手のバイアウト・ファンド)などが会社を買って切り売りしたり、ということがある中で、そうしたノウハウも溜まっていったのではないかと思います。日本も1999年に証券自由化があって、その後ホリエモン(堀江貴文氏)が企業買収を盛んに行ったり、法律も変わったりして、この10年間で、まさに米国が35年かけてやってきたことをなぞっているのではないかと思いますし、今まさにそういうノウハウの蓄積が進んでいる途中なんだと思います。

あとは、伝統的な日本のベンチャーキャピタルでは、担当者一人で50社ぐらい見ていることもあるわけです。本当にアドバイスをしようとおもったら、せいぜい一人で3社から5社ぐらいが限界でしょう。

──いわゆる"ハンズオン"というやつですね。

磯崎:はい。日頃から密接に関わって状況を把握していないと、M&Aの際に、「こういう条件で交渉したらどうだ」といった複雑なアドバイスもできないはずです。

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ベンチャー生態系ができはじめた日本のネット業界

──この話で一番重要なのは、やはり会社を作るときでしょう。会社を作った後に例えば、定款を変更して株式の種類を変更するというのは結構面倒な話なのではないかと思うのですが。

磯崎:その通りです。既に発行した株式の一部だけの種類を変更するには、基本的には全株主の同意が必要になりますので、たとえ一株しか持ってない株主が「俺は嫌だ」と言っているだけでも、話が先に進まなくなってしまします。船頭が多いほどあとで変えるのが難しくなります。

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──例えば転換社債と何が違うんだろうとか、他に似たような方法があるような気がしないでもないです。種類株式ってものすごく複雑なオペレーションに見えるんですが。

磯崎:はい、「単純だ」とはちょっと言えないです。だから日本ではまだ使われていないんですよ。考えるのが面倒なので。

──これは、使われるようになるんですかね?

磯崎:私がここまで述べてきたような仮説からすると、まず、「ベンチャーを買うベンチャー」が育つというのが大切じゃないかと思います。急成長している企業は足りない機能がたくさんあるので、アレも欲しい、コレも欲しいとベンチャーを買うようになるでしょう。楽天やヤフーのような会社があと3社、5社と出てくれば、バイアウトも盛り上がることになるはずだと私は思っています。

──ベンチャーが盛り上がる兆しというのは、今あるんでしょうか。

磯崎:これはあります。まず、アーリーステージのベンチャーに投資する人達がとても増えています。あと、ベンチャーにチャレンジする人が増えているんですね。先日もFacebookの高校の同級生のグループで、昔の同級生の女子の「こんど大学を卒業するうちの息子が就職活動もせずにぶらぶらしている」といった愚痴を聞いていたのですが(笑)、そういう話の中で「そういえば同級生の○○君は起業するらしい」「うちの子もケータイのアプリを作る会社をやりたがっている」「先日、うちの息子に『起業したいけど、しばらくは食えないので、父さんよろしく』と言われて、『ふざけるな!』と思った」といったことが普通に出てくる。

私が大学を卒業するとき、同級生に起業をする人なんていませんでした。少なくとも昔はゼロだったのに比べたら、今はチャレンジャーが明らかに増えています。以前お話ししましたけど、ずっと企業に勤めていてもこの先あまり明るくなさそうだということで、自分で起業したいというニーズは増えています。そこにお金を出す「エンジェル」「インキュベーター」「アクセラレーター」といった人たちは、西川さん(ネットエイジ・西川潔氏)や孫泰蔵さん(MOVIDA)、私がかかわっているFemto Startup LLPなどを含めて、たくさん出てきていますね。

なぜかというと、それもベンチャーが育ったからです。特にネットの領域に限れば、数百億円から1兆円ぐらいの企業価値にまで成長したベンチャーが既にいくつもあって、そこを辞めて数億円〜数百億円のお金を持っている人が日本でもたくさん出てきています。
また、サイバーエージェント・ベンチャーズさんのように、成長したベンチャーの投資部門がベンチャーキャピタルとなった例もあります。

「ベンチャーのことがよくわかっていて、しかもお金も持っている」という人が、ネットの領域に限れば日本にもたくさん生まれて来ているわけです。バイオ、半導体製造装置、流通、エネルギーといった領域では、残念ながら、まだそういう人は非常に少ない。つまり、一にも二にも、ベンチャーにとっては「成功事例が出ること」が重要なわけです。

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種類株式で"上司交代リスク"をヘッジする

──一般企業に勤めている人が、たとえばある会社と業務提携する、ある会社を買うという話になるとき、種類株式の話は参考になりそうな気がしますね。

磯崎:実は最近、「社内ベンチャーを始めたい」という相談を受けることが増えているんです。社内ベンチャーの場合、「創業者」が8%とか5%の少ない比率しか出資せず、残りは会社が持つということが多いようです。設立時に普通株式で同時に出資するとなると、どうしても会社の方がカネを持っていますから、どうしても「創業者」の持株比率が下がってしまうんですね。

「創業者」が5%しか持っていないとしたらどうなるか。やはり心理的に「上司(関連会社統括部門)がいて、そこにおうかがいを立てて事業をします」という感じになってしまいます。95%持っている株主がいるとしたら、それは株式会社のルールとしては、むしろ当然なんです。
だからといって、日本の会社の社内ベンチャーで「株式は70%私が持ちます」なんて言うと、「新卒で入社して叱られてトイレで泣いてたあいつが、会社で培ったノウハウを使って起業するのに、しかも会社が5000万円出資して、あいつは50万円しか出資しないのに、なんであいつが70%も株式を持つんだ?」っていう話になるじゃないですか、心情的に。

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──たしかに、それはありそうです。

磯崎:そこで、こうした社内ベンチャーにも、種類株式の考え方が役立つのではないかと考えています。社長なり経営陣が60%とか70%といった議決権を持つことで、主体性が生まれてスピーディに意思決定できるようになり、変化の激しい領域でも成功する可能性が高まるわけです。

2つめに、成功の度合いに応じて、「創業者」と会社の取り分も調整できると同時に、はじめて1年で「投資した金額よりは増えたけれど、最初に評価していたほどには儲かりませんでした」という話になった時には、種類株式で、例えばいくらまでは親会社がとる、残りを経営者と親会社の間で分けるということにすれば、納得感のある配分ができます。もちろん何十倍の金額でIPOできました、ということになれば大成功なので、社長が株式の売却で大きな利益を得ても、「あれだけのことを成し遂げたんだから成功報酬として当然だな」とも思ってもらいやすいと思います。

会社の中からチャレンジするやつが出てくれば、全員ハッピーになれます。障害は「なんでトイレで泣いてたあいつが」という感情面に加えて、ファイナンスの知識だというわけです。

ここで重要なのは、最初の座組です。最初の座組をしっかり決めないと、後での変更は相当困難になります。いくら口で「社長はおまえだから、おまえに任せた」と言われても、関連会社統括部といった部署の担当者が交代したり、会社全体のトップが変わって方針転換したりしたら、「この会社、なんだっけ?」ということになりがちです。そこはがちっと契約や定款で縛っておかないと、絶対後で話が変わるのが、「社内ベンチャー」なわけです。

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「ベンチャーに投資するのはベンチャーキャピタル」の思い込みを捨てる

──一般に若い人がベンチャーを立ち上げる時には、とにかく事業を軌道にのせることに集中しているはずで、種類株式にまで頭をめぐらせることができないという状況があると思うんです。対して、社内ベンチャーというのは、出資する側も「あいつ(経営者)はこういうやつだ」ということを大体知っているし、事業の必要性についても想定しやすい。種類株式の仕掛けは、むしろ日本では社内ベンチャーの方が利用されやすい気がしてきたんですが。

磯崎:私も最近そんな気がしてきたんです。最近調べてみたのですが(「週刊isologue」第167号 参照)、日本では実はベンチャーに投資しているのはベンチャーキャピタルではないのかもしれません。

「ベンチャーは、ベンチャーキャピタルから投資を受けるもの」という常識が世間には広く浸透していると思うのですが、例えば楽天は、上場時の目論見書を見てみると、株主にベンチャーキャピタルはいないんです。おそらく三木谷氏自身がそこそこお金を持たれていたのと、興銀時代の知人等もお金を持ってらっしゃったので、上場前に調達した4億数千万円は、そうした知り合いから賄えたのかも知れません。

グリーの場合は、グロービスというベンチャーキャピタルが入っていましたが、あとはリクルートやKDDIといった事業会社。ライフネット生命は132億円も集めましたが、出資者の中に、銀行や商社や事業会社がたくさんいます。ZOZOタウンを運営するスタートトゥデイも商社、結局事業会社がたくさん出資しているんです。あとは、ベンチャーキャピタルでも、電通やサイバーエージェント、リクルートなど、事業会社系のベンチャーキャピタルもあります。ベンチャーはイノベーションを起こす存在なわけですから、「ベンチャーはベンチャーキャピタルにお金を出してもらうものだ」といった固定観念も捨てるべきなのかも知れません。つまり事業会社に出資してもらうのも一つの選択肢ですし、その極端な例が、勤務していた会社から出資を受ける「社内ベンチャー」と考えることもできます。今までの多くの社内ベンチャーは、会社の根本である資本の構造が、創業者に任せる形になっていなかった。よく分かっていない人が口を出す構造というのは、何にしてもうまくいきませんので、うまくいかないのは当たり前だった、とも言えます。

──結局、ベンチャーのファイナンスというのは、実はコミュニケーションの話じゃないのかという気がしてきますね。種類株式っていうツールはあるんだけど、ツールの使い方によって、いい話が壊れてしまったり、あるいは逆にうまくいったりするという。

磯崎:ベンチャーのファイナンスでは、種類株式を使うだけでなく投資契約も結ぶのですが、「いくら以上の買収の話が来て投資家がOKしたら経営者は拒否できない」とか、逆に経営者の立場が強ければ、「経営者が会社を売るといったら投資家もいっしょに売却しなければならない」とか、投資家側で何人まで役員を選べるとか、いろいろなことを決められます。最初の座組を、契約と株式という形に落とすことで、実際に事業をやる人がコントロール権を持てるとともに、当初想定しない状況になった場合にも、フェアな調整が行えるようにしておくことが大事です。

──そこにつきますよね。日本人共通の感覚だと思うのですが、種類株式に対して、なんとなく"うさんくささ"みたいなものを感じているんじゃないかと。「よく分からないもので、自分達だけうまくやろうとしてるんじゃないか」みたいな感覚ですね。そういった部分が払拭されないと広まらないだろうなという感じがしていて、情緒的な話になりますが、まず信頼関係、そしてかたまったものは契約に落とすというプロセスが必要なんだろうと思います。

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磯崎:ベンチャー側も、種類株式には優先株(preferred stock)という名前が付いているので、「優先ってことはベンチャーキャピタルに都合がいい株式なんでしょう?」という思い込みがある。もちろん都合のいい条件も付いているけど、それだけじゃないんですね。経営者としては、もう「ここがピークでこの先は望めない」と内心思っているのに、投資家側からは「今売却しても損するので、ホームラン(IPO)を狙ってフルスイングしていけ」みたいな話になって、結果共倒れするような事態を防げるのも、種類株式なんです。

──難しいけど、この話は面白いですね。セミナーに来ていただくと、もっといろいろと細かく詳しい話が聞けると。

磯崎:はい、その予定です。

──どうもありがとうございました。

2012年7月13日(金)開催予定の磯崎氏のセミナー情報はこちら。
起業のファイナンスを学んで、自分の仕事力を磨く、仕事に活かす

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