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解約金訴訟の第一審判決:ドコモとKDDIの違い

解約金訴訟の第一審判決:ドコモとKDDIの違い

Updated by 板垣 朝子 on July 22, 2012, 09:25 am JST

板垣 朝子 asako_itagaki

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。

※(2012/11/23追記)ソフトバンクモバイルの解約金訴訟第一審判決についてはこちら

適格消費者団体京都消費者契約ネットワーク(以下KCCN)がKDDIを相手取って起こした2年未満での携帯解約料の差し止めを求める訴訟について、2012年7月19日、京都地方裁判所で判決が言い渡された。判決の内容は、「携帯電話の解約金条項の一部は無効」であるとし、既に解約金を支払って解約した原告のうち、(契約締結月を1ヵ月めとして)23ヶ月め以降に解約した者に対してその一部を支払うようKDDIに命じるものである。

この訴訟は、2年間の契約を前提に携帯電話の基本使用料を半額に割り引く「誰でも割」の解約金を対象としたもの。KDDIは「本件については既に判決文を入手しており、慎重に内容を検討させていただいた上で、控訴する方向で検討しております」(広報部)とコメントしている。

一方のKCCN側では「KDDIが使用している解約時9,975円を支払う旨の契約条項の使用を差し止める旨の判決は極めて画期的だ。巨大企業が消費者を不当に囲い込むための不当条項の使用差止が認められたことは消費者団体訴訟制度の効能が効果的に発揮された事例といえる」(京都消費者契約ネットワーク事務局長 長野浩三氏)と評価しながらも、「解約後の逸失利益について事業者の損害として損害計算を行っている点は不当だ。個別消費者の請求が退けられた点、そもそも金額に関わらない解約金条項自体の使用差止が認められなかった点については不当なので控訴を検討する」(長野氏)としている。つまり、双方が控訴の意向を示していることから、本件については控訴審で再度争われることになる。

同様の料金プランは他キャリアからも提供されており、KCCNはNTTドコモおよびソフトバンクモバイルに対しても同様の訴訟を起こしている。対ドコモの訴訟では2012年4月、同じく京都地方裁判所において、NTTドコモの解約金条項を有効とし、原告の訴えを棄却する判決が出されている。「どうしてドコモは白でKDDIは黒なのか」と話題になっているが、両判決のどこが違ったのか、判決文を比較してみた。

なお、以下はKCCNのサイト上にPDFで公開されている「KDDI株式会社に対する解約違約金条項使用差止請求訴訟の第一審判決[PDF]」および「株式会社NTTドコモに対する携帯電話の解約違約金使用差止請求訴訟の第一審判決[PDF]」にもとづいている。内容についての法的解釈及びその是非については言及せず、あくまでも「判決文」の内容に沿って抜粋・要約したものである。詳細については、KCCNがサイト上で公開している判決文の原文(上記リンク先)を参照されたい。

結局、何が違ったのか

長くなるので結論を先に書くと、2つの判決で判断が異なっている点は以下の通り。

===

「平均的な損害」についての当事者の主張

2つの訴訟に共通して、訴えは大きく2点である。一つは、「解約金条項自体を無効であるとし、使用を差し止めること」もう一つは、「既に支払われた解約金について返金すること」である。一つめの訴えについては、両判決とも、「解約金条項が消費者契約法第9条、第10条により無効となるかどうか」について双方が主張し、裁判所が判断を下す流れとなっている。

最初の争点は、「そもそもこの解約金条項が消費者契約法第9条第1号により無効であるかどうか」である。

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
(二以下省略)

消費者契約法より抜粋)

この点については、両判決とも、解約金条項は「契約期間内の中途解約時の損害賠償の予定または違約金についての条項」にあたるとしている。その場合は「契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの、当該超える部分」については無効であると定められているので、平均的な損害がいくらにあたるかを算出し、それが9,975円を超えていないかどうかを判断することになる。

KDDI、NTTドコモはいずれも「9,975円を超える損害が生じており、解約金として請求することは妥当である」と主張しているが、両社の主張する「平均的な損害」の内容は異なっている。

KDDIの主張

NTTドコモの主張

両社の主張を図にしてみた。「平均的な損害」の範囲はほぼ同じだが、具体的に金額を算出している範囲が異なっている。

▼「平均的な損害」算出方法についてのKDDI・NTTドコモの主張
20120722-kccn-2.png

これに対し、KCCNの主張は以下の通り。KDDIの場合とNTTドコモの場合で文言は厳密には異なるが、概ね同じ主張となっており、一言でいえば「9,975円は算出される『平均的な損害』の額を超えているので、消費者契約法第9条1号により無効とされる」というものである。

KCCNの主張

▼「平均的な損害」算出方法についてのKCCNの主張
20120722-kccn-3.png

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裁判所の判断

両社の主張を受け、「平均的な損害」について、京都地裁はそれぞれ以下のように判断している。

KDDIの主張に対する判断

(基本的な考え方)

(金額の算定)

(契約中の割引額の扱い)

具体的には、23ヵ月めの解約では解約金は8,000円まで、24ヵ月めの解約では4,000円までしか認められないため、それを超える金額(それぞれ1,975円、5,975円)については無効ということになる。また、従って、解約金条項表示差し止めについても、現在の形式の表示は差し止めの対象となると判断されたが、期間を限定して一部無効となる範囲を明示した解約金条項の提示については差し止められないと判断されている。

NTTドコモの主張に対する判断

(「平均的」の扱い)

(契約締結から中途解約までの損害について)

(中途解約から契約満了時までの損害について)

(金額の算定)

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まとめ

ここまで見てきた通り、解約金条項に対する有効性についての判断と「平均的な損害」を基準に条項の有効性を判定するところまでは2つの判決は共通している。ただし、2つの判決には以下の3点で判断の違いがあり、その結果、「平均的な損害」の算出方法が異なっている。

▼「平均的な損害」に対する考え方の違い
20120722-kccn-4.png

なお、その他の争点については、両判決とも以下の通り判断している。

消費者契約法第10条の条文は以下の通り。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

消費者契約法より抜粋)

二つめの訴えである「既に支払われた解約金に対する返金」については、対KDDI判決では解約金条項の一部が無効とされた「23ヵ月め、24ヵ月めの解約者」に対してKDDIが平均的な損害額との差額を返金するよう命じられた。また、対NTTドコモ判決では、解約金条項は有効とされたため、返金については棄却された。

KCCN事務局長の長野氏によれば、対ソフトバンクモバイル訴訟の判決は2013年3月頃の予定とのことである。その時にはどのような判決が出されるか、また今回の2つの判決に対して、上級審ではどのような見解が出されていくのか、注目する必要があるだろう。

【参照情報】
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク(KCCN)
消費者契約法(e-gov法令検索)
誰でも割(au)
 ※なお、誰でも割の契約期間について、2012年5月31日までは「手続き当月を1カ月目」としていたが、2012年6月1日から「加入日から翌月までを1カ月目」とするよう変更されている。
ひとりでも割50(NTTドコモ)
ファミ割MAX50(NTTドコモ)

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