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[Deloitte Mobile Survey 2012 #3]スマートデバイスの利用シーン 〜オフロードが生む固定回線需要

2012.11.06

Updated by WirelessWire News編集部 on November 6, 2012, 18:30 pm JST

1.はじめに

デロイトが独自に行った、モバイルコミュニケーションについての5大陸15ヶ国に渡るオンライン調査「2012年グローバルモバイル消費者調査」の結果について、特に新興国と日本について焦点をあてて報告するこの連載、第3回目になる今回はWi-Fi接続に関係する部分にて得られた調査結果を中心に報告する。

本調査は15カ国26000人を対象とした調査であるが、本報告では成長著しい新興国の中でも アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの結果を中心に記載している。
なお、本調査はオンライン調査であることもあり、同新興国の結果については比較的富裕層かつアーリーアダプター中心の回答であることに留意されたい。

2.前提として〜対象新興国におけるモバイルインターネット接続環境

本報告では、日本との比較を中心に新興国におけるWi-Fi利用の実態について見ていくこととするが、各国市場において、ユーザーがWi-Fi接続を利用する理由・背景は、日本市場と異なる点が多い。

このため、一般的にWi-Fi接続を利用する主要因となりうる、(1)平均接続速度、(2)データ通信の料金形態、(3)データ通信量の月額制限、の3点を、各国市場におけるモバイルインターネット接続環境の前提とし、以降調査結果を検証していきたい。

(1)平均接続速度:何れの国でも、Wi-Fi接続利用による通信速度向上は見込めるが、その度合いはバラバラ

※画像をクリックして拡大
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図1に示したMobile接続速度、Wi-Fi接続速度は、Cisco社がGIST(Global Internet Speed Test)アプリとしてスマートフォン・タブレット向けに配信、公表している各国ユーザーの実測値結果の取り纏めである。(※本表では2012年1〜5月の国別月次実績値を加重平均して算出)

前回報告時にも記載した通り、一般的に新興国では、固定回線に比べ、携帯回線の普及スピードが早く、設備投資が積極的に行われ易い背景から、固定回線を介する必要があるWi-Fi接続に比べ、Mobile接続の方が通信速度がGlobal平均に近しい値となっている。

特に、アルゼンチンや南アフリカ、トルコなどの国においては、Mobile接続の通信速度はGlobal平均と同等程度である一方、Wi-Fi接続の通信速度はまだ遅く、通信速度向上を目的としたWi-Fi接続の利用は限定的となる可能性が想定される。

(2)データ通信の料金形態:未だ「従量制課金」方式の料金形態が一定の割合を占める

日本では、データ通信(携帯キャリアを介したインターネット接続)の料金形態は、「月ごとの設定額を別途支払う」パターンが一般的だが、新興国においては、「従量制課金」方式が未だ一定の割合を占めている。

特に、ブラジルやロシアなど、「従量制課金」方式の割合が5割近い数値となっている国においては、利用料金を節約する目的から、Wi-Fi接続を利用する可能性が高くなることが想定される。

(3)データ通信量の月額制限

日本では、データ通信(携帯キャリアを介したインターネット接続)の利用量は、「無制限」であるパターンが一般的だが、新興国では、「1G/3G/5G」等の単位で契約時に月ごとのデータ通信量上限が設定されている場合が多い。(ただし、日本においても、「3日間で300万パケット以上の利用」等の条件による、通信速度規制は存在する)

特に、南アフリカやトルコなど、上限設定の割合が5割以上となっている国においては、データ利用量節約(月額上限に達することを避けるため)の目的から、Wi-Fi接続を利用する可能性が高くなることが想定される。

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3.Wi-Fi接続の利用端末〜バックボーン品質が決めるWi-Fi利用率

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まず始めに、新興国の各国ユーザーが、どのような端末でWi-Fi接続を利用しているかを検証したい。
図2は、各端末をインターネットに接続する場合に、モバイル接続/Wi-Fi接続/有線接続(ケーブル)それぞれの中で、Wi-Fi接続を最も頻繁に利用すると回答した割合を示している。

■タブレット、電子書籍リーダー、携帯ゲーム機では、全ての国でWi-Fiがメインの接続方法

機器別のインターネット接続方法では、タブレット、電子書籍リーダー、携帯ゲーム機において、全ての国で半数以上がWi-Fiをメインの接続方法と回答した点が興味深い。特に電子書籍リーダー、携帯ゲーム機は、モビリティを特徴としつつも、専用機能の特性上、必ずしも常時接続を必要としないことから、コンテンツのダウンロードのみWi-Fiで行い、実際の機器利用はオフライン、という利用シーンが伺える。一方、全ての国でWi-Fi利用の割合が50%を下回ったデジタルカメラでは、メインの接続方法は有線接続(ケーブル)であるとの回答が多かった。

上記回答から、デジタルカメラのユーザーは、「写真を撮る」ことのみを機能として求めており、スマートフォンやタブレットで行われるように、撮った写真をその場でクラウドやSNS上にアップロード、共有するような利用は、あまり想定されていないことが推察される。

■フィーチャーフォン、スマートフォン、ノートPCによる接続方法は、国により二極化

アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、トルコの4カ国では、フィーチャーフォン、スマートフォン、ノートPCの何れにおいても、メインの接続方法はWi-Fiとなるが、ロシア・南アフリカの2カ国では、メインの接続方法は、それぞれ異なる。

ロシアでは、フィーチャーフォン・スマートフォンはモバイル接続、ノートPCは有線接続がメインの接続方法である一方、南アフリカでは、全ての端末でモバイル接続がメインとなる。
上記理由としては、モバイル接続環境の中でも前提として記載した通り、南アフリカは、ブロードバンド普及率が新興国の中でも特に低く、モバイルの接続速度に比し、Wi-Fiの接続速度が遅い点が主要な要因であると推察される。

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4.スマートフォン〜異なるWi-Fi接続の実態とそれぞれの事情

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図3は、新興国の各国ユーザーが、スマートフォンによるWi-Fi接続をどこで行うか、について回答した割合を示している。

■「カフェ等外出時」のWi-Fi接続利用比率が特に高いのは、ブラジル・ロシア・トルコの3カ国

「自宅」や「職場」など、ある程度纏まった時間を固定箇所で過ごす可能性の高い場所においては、新興国のほぼ全てにおいて、Wi-Fi接続を積極的に利用する傾向が見られる。

一方、カフェやショッピングセンター等、短時間の一時的な滞在場所において、Wi-Fiを利用する傾向が高い国としては、ブラジル・ロシア・トルコの3カ国が挙げられるが、Wi-Fi接続を利用する理由は、各国により若干異なる。

共通する理由としては、通信速度の向上が挙げられるが、左記に加え、ブラジルではバッテリー消耗の抑制、ロシアではデータ通信料金の抑制、トルコでは圏外エリアでの通信、が主要な理由として挙げられる点が特徴的である。

■南米・東欧では、「他人の家」でWi-Fi接続を利用する傾向が強い

また、日本との比較という意味においては、アルゼンチン、ブラジル、メキシコの南米3カ国、及びトルコにおいて、「他人の家」でWi-Fi接続を利用する傾向が強い点も興味深い。

上記背景としては、接続速度向上などの一般的なWi-Fi利用理由よりも、文化的な風習の違いによる影響が大きいと推察されるが、NFCを利用した対戦型ゲームの開発など、新しいアプリ/ネットサービス創出の場面においては、特徴的なユーザー利用シーンとして検討をしても面白いのではないかと考えられる。

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5.タブレット〜モバイル接続と組み合わせて「常時接続」を実現

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図4は、新興国の各国ユーザーにおける、タブレットの契約形態(Wi-Fiのみ/Wi-Fi+3G/4G)の割合を示した図である。

■新興国では、タブレットを外出先で利用する前提である可能性が高い
日本においては、タブレットの契約形態は「Wi-Fiのみ」である場合が多いが、新興国では一般的に、「Wi-Fi+3G/4G」の契約形態であることが多い。

上記割合から、新興国では、タブレットを外出時に持ち歩き、出先においてインターネット接続を利用する前提で契約を行っている可能性が強い。

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また、図5は、スマートフォン同様、新興国の各国ユーザーが、タブレットによるWi-Fi接続をどこで行うか、について回答した割合を示している。

■新興国では、スマートフォンに比べ、「職場」(含む客先等「その他職場」)、「通勤中」に利用する割合が高い
利用場所に関する大きな傾向値は、それほど変わらないものの、タブレットでは、「職場」「通勤中」における利用の割合が、スマートフォンの場合と比べ、5〜10%ほど、増大していることが読み取れる。

前述したタブレットの契約形態と合わせ、上記傾向から、新興国のタブレットユーザーは、ビジネス用途を目的として、外出時にも常にタブレットを携行し、利用している可能性が高いことが推察できる。

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6.第3回のまとめ〜今後のネットワーク設備投資の振り分けが注目される新興国市場

冒頭のモバイル設備環境でも記載したとおり、一般的に新興国市場では、固定回線に比べ、携帯回線の普及スピードが早く、設備投資も積極的に行い易い傾向にある。

ただし、スマートフォン/タブレットの利用に当たっては、現状、Wi-Fi接続がメインの接続方法である国が殆どであり、モバイル回線利用時におけるデータ通信の料金形態、データ利用料の月額制限等を踏まえると、この傾向はまだ続くものと考えられる。

既に日本以上の普及率となっているスマートフォン/タブレットの大量なトラフィックを処理するに当たって、今後、4G/LTE等の高速携帯回線の設備投資に注力するのか、オフロード(参考情報)先としての固定回線(ブロードバンド)の設備投資に注力するのかは、新興国各国にとっての大きな分水嶺となると想定されるため、引き続き動向に注目していきたい。

次回は、料金感度をテーマとして分析・検証することにより、新興国各国ユーザーの消費特性を掘り下げていく。

デロイト「グローバルモバイル消費者調査2012」について

【調査目的】
世界15ヶ国のモバイル利用状況を把握するとともに、今後の利用状況予測に関する情報を提供する。

【調査概要】
●対象国:全15ヶ国
アメリカ、アルゼンチン、イギリス、カナダ、クロアチア、ドイツ、トルコ、日本、フィンランド、ブラジル、フランス、ベルギー、南アフリカ、メキシコ、ロシア
●調査方法:各国公用語によるオンラインアンケート
アルゼンチン、ブラジル、クロアチア、メキシコ、南アフリカ、トルコについては、サンプルが都市部在住の専門職(比較的高所所得者層)に集中する結果となっている。その他の国については全国から回答を得ている。
●調査期間:2012年5〜6月
●分析対象回答者数:25,960名

 

文・河内 智紀(デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 TMTインダストリグループ マネジャー)

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