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物事を究極に成し遂げたいなら、他人をいいわけにするな

2013.01.16

Updated by WirelessWire News編集部 on January 16, 2013, 17:30 pm JST

生命の起源は深海の熱水にある──。その仮説を実証すべく、大深度有人潜水調査船「しんかい6500」に乗り込み40億年前の海で起こった事件を探り続けた地球生物学者、高井 研氏。自分のプロジェクトに人を巻き込み、マネジメントする中で必要なのは「人間力」だと高井氏は説く。地質学者や化学者など、あらゆる研究者を巻き込む大きな組織の中でどうコミュニケーションを取り、多様な国籍や機関に所属する研究者の力を束ねながら共同作業をする上でどのように信頼関係を築いているのか、また彼らを引き付け、結びつけているものは何なのか。

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高井 研(たかい けん)
海洋研究開発機構プログラムディレクター。1969年生まれ。京都大学農学部の水産学科で微生物の研究を始め、1997年から海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者に。現在は、同機構、深海・地殻内生物圏研究プログラムのプログラムディレクターおよび、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットリーダー。2012年9月からはJAXA宇宙科学研究所客員教授を兼任。著書に『生命はなぜ生まれたのか──地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)など。ナショナルグラフィック日本語公式サイトで「青春を深海に賭けて」を執筆。

スキル(技術)の誇示では、人を納得させられない

サイエンスは実力主義で結果がすべての世界なので、どんなにコミュニケーションが苦手でも、立派な仕事をすれば勝てます。しかし、プロジェクトの運営は、そうはいきません。研究者といえども、人間力、コミュニケーション能力を磨かなければ。スキル(技術)だけで人を納得させることはできないのです。

僕の考える「人間力」の重要な要素として、2つ挙げる事ができます。ひとつは、「この人は自分にないものをもっている」と意識しながら相手を見ること。自分にはない、飛び抜けた能力やプロフェッショナリティに対して敬意を払うことが、相手を信頼することにつながっていきます。

もうひとつ僕が心がけているのは、「誰に対しても裏表が無く、フェアに接する」こと。要するに、小学生でも大臣でも初対面では同じように接しようとしています。それは心で決めた僕のポリシー。人を地位で判断せず、どんな人でもフラットに対応して自分の中で好きだと思ったら付き合う、嫌いだと思ったらやめる。

研究者の間で、研究に必要な総合能力を「腕力」という言い方をするのですが、ガキ大将のように、腕力が強くてフェアであるのが僕の理想。接する側の人間にしてみれば、相手を読みやすいので付き合いやすいと思いますよ。

「人間力」、特にフェアであることについて考え始めたのは、子どもの頃です。僕自身片親でしたし、豊かな家庭とは言えませんでした。似たような環境の友人もたくさんいます。そういう環境で育った子どもは差別されがちで、人間関係に対してとてもセンシティブな感覚を持つようになるんです。友人が差別されているのを見ていつも感じていた憤りが、「人は人間性で判断すべき」という考えにつながっていきました。

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プロジェクトの生死を握る立場が持つべき能力

僕は研究者であると同時に、プロジェクトリーダーとして自分と自分のプロジェクトの生死を握る立場でもあります。自分のやりたい研究は、スポンサーからお金をとれなかったら能力を備える人員を雇えないわけです。

スポンサーに納得してもらえる材料をそろえるのに時間を費やせば、研究する時間は減ってしまいます。しかし、自分たちが若い頃、そういう上の人たちのおかげで研究に集中できたのも事実。今度は若い人たちのために、僕がプロジェクトの運営を引き受けるのが当然ですよね。自分が手を動かす時間は減りましたが、言うことを聞かない若い人たちの研究を自分の喜びとして噛み締めるのが、我々の人生です。

上の立場になると、自分では手が動かせないところはポスドク(博士研究員)にやってもらうようになります。しかし、3年ほどでポスドクもプロとして自分の世界を築き始める。私たちはそこをうまく見極めて、ポスドクが独り立ちできるように切り離す、つまり「子離れ」しなければなりません。

重要なのは、「自分の依頼を半分はやってもらいながら、その人のやりたいことを半分はやらせる」こと。不満を抱かせず、生き生きとやってもらうのが「人間力」ですかね。自分の依頼だけを押し付けていたら、人気もなくなるし人も育たなくなってしまいますから。どんなに有能な研究者でも、「人間力」がなければ研究は続けられません。

そして僕は、自分の人生においてもプロジェクトリーダーとしても、プライオリティが明確に決まっています。不思議と優先順位がその時々で瞬時に決められる。プロジェクトの生死を握る立場ならば必須ですね。やりたいことのためなら譲れるところはいくらでも譲れますし、プライドをへし曲げられます。瞬時に決める能力は生まれつきだと思いますが、意識して訓練すれば、ある程度は身につけられると思います。

「自分が人生にとってやり遂げたいこと」が、僕にとって一番の最優先項目。細かい内容は日々の状況により更新されますが、10年後、20年後のプライオリティを大事にしているので、長い目で見ても安定していますね。多くの人は、プライオリティを決めることに悩んで時間を費やしている気がします。その間に、僕は悩まず努力する。悩んでいるんだったら前に踏み出したほうが気持ちがいいです。

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「信託」が物事をうまく回す

いまの日本は、ヒトや社会に対する漠然とした「信頼」がなくなっていますよね。政治にしても何にしてもプロフェッショナルがいるはずなのですが、誰を信頼していいかがわからないために、プロでない一般の人がインターネット等の溢れる情報に踊らされ、パニックになったり騒ぎ立てたりしている。「一億総情報収集」時代で情報過多になってしまっています。

僕は「信頼して任せる」ことを「信託」と言っています。信頼し、任せることが大切ではないかなと。政治や社会の矛盾も、逐一ロジカルに追究すればなくなる。本当でしょうか?勿論良くなる方向に持っていけるかもしれませんが、追究には手間暇や時間がかかってお金の無駄にもつながり、結果として状況が悪くなってしまうこともあるのでは?誰かがやることを信頼して任せることでうまくいっていた部分があるのに、今の世の中は行動をつまびらかにしすぎることで物事がうまく行かなくなったことも多いのではないでしょうか。

人間はみんながロジックで動くわけでありませんから、一から百までキッチリ管理したら動かなくなってしまいます。仕事もそう。上司にも部下にも信頼して任せることで、うまく回る部分は大きいと思いますよ。

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人間は、自分のためにしかがんばれない

僕は研究者という職業柄、「利己」や「自分の利益(お金)」を切実に求める人と仕事したことがありません。僕らのスタンスは、「お金は幸せにつながらない」。何に一番幸せを感じるかというと、「やりたいことをやれること」。ある意味究極の自己満足ですね。

そもそも、博士号所得者(ドクター)は人よりも長い社会人デビューの助走期間を持っています。27〜30歳まで世間からも一人前とは認められません。けれど、自分が好きなことができたらいいなという気持ちで研究を続ける人生を選択する人が多いので、実際お金を稼げるようになっても、お金を稼ぐことに人生の幸せを感じないのではないでしょうか。それがある意味当たり前の世界なので、僕はむしろ、お金が欲しい人に聞いてみたいです。「自分の懐にお金があることの何が幸せなのか」と。

僕のあまのじゃくなポリシーは、「なるべく人の役に立ちたくない」。偽善的な自分が嫌いなんです。「人間って、"人のために"そんなにがんばれる?」と思う。僕は無理ですね。自分のためにしかがんばれません。僕は、他人を理由にしては本当に苦しいことに耐えられない性質です。

僕が最近読んですごくハマった本に、史上最強の柔道家、木村政彦さんに関する著書があります。「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と言われるほどの尋常ならざる柔道家ですが、その地位に上り詰めるためには気の狂ったようなハードな練習を積み、異常なまでの修練、努力を続けたことは想像に難くありません。そしてそこまで自分を追い込めるのは、間違いなく自分が強くなりたいから。「誰かのために」ではなく。それは、真理だと思います。

本当にすごいと思う人は、「突き動かされる何か」のためにやっていると思います。それは生まれ持ったものかもしれないし、後に獲得したものかもしれません。それはサイエンスでも芸術でも一緒。芸術は欲求がより顕著で、やりたくてやりたくてたまらないから表現せざるを得ないものですよね。

「人のために」という理由付けで、不断の努力は続きません。「物事を究極に成し遂げたいのであれば、他人を理由にするな」と、僕は言いたい。「自分のために」何をやりたいのかを突き詰めて考えなければ、やることなすこと中途半端に終わってしまうような気がします。

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高井氏は2013年1月26日(土)に開催されるセミナー「イノベーターと学ぶ"新しい仕事術"」(主催:日経BPnet BizCOLLEGE)への登壇を予定しています。「先端を走るための人間力とは~世界のトップランナーたちを結びつけるもの~」をテーマに、最先端の研究の紹介とともに、ビジネスの現場にも共通するマネジメントの要諦を語っていただきます。また、同日行われるセッションでは、「信頼とは何か」について、講師や来場者同士でディスカッションを行います。セミナーの詳細および申込はこちらをご覧ください。

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