こんにちは。以前、こちらで何度か記事を書かせていただいたシリコンバレーの海部です。このたび4月18日、私としては2冊めとなる著書「ビッグデータの覇者たち」(講談社現代新書)を上梓するはこびとなりました。
つきましては、日頃のご愛顧に感謝し、ここに著書のサワリを少々、ご紹介いたしたいと存じます。本に書いていないことも少々はいっていますが、細かいことはお気になさらないようお願い申し上げます。
こちらの読者の皆様には、いまさら「ビッグデータとは何か」という説明は不要と思います。本のほうには、初心者でもわかるように詳しく書いてありますので、わからない方は本を読んでください。
そういうわけで、ビッグデータとは、大半が役に立たない0と1の塊が膨大に保存された「ゴミ屋敷」です。とはいえ、テレビに出てくるゴミオバサンの家とビッグデータの間には超えられない壁があります。それは、ビッグデータは「デジタルである」ということです。
デジタルならば、ソフトウェアのツールを使って、膨大なゴミの中から必要なものを取り出したり、あっちとこっちを合わせて新しいものを作ったり、という操作が比較的簡単にできます。データといっても、紙の本やセルロイドのフィルムではそうはいきませんし、ゴミオバサンの家のアナログなモノを片付けるにはブルドーザーでも使うしかありません。大変です。
世界中には、人類の歴史始まって以来、膨大な量のアナログ・データが蓄積されてきましたが、2000年代の「デジタル化時代」に、デジタル・データが爆発的に増えて、アナログ対デジタルの比率が一気に逆転しました。
歴史上、技術が飛躍的に発展する時代というのは、なんらかの資源が爆発的に増えて供給過剰になり、安くなったその資源を使って新しいものを考えだす人がたくさん出現するものです。イギリスで石炭が出た第一次産業革命、アメリカで石油が出た第二次産業革命、そして、シリコンサイクルと光ファイバー多重化技術で、デジタル化とインターネットが爆誕した90年代がそうでした。
そして今、爆発的に供給が増えているのがデジタル・データです。リアルの石油も、もとは虫の死骸、つまりゴミがたまってできたものらしいので、「データは新しい石油」と言われるのももっともです。ただ、精製技術がなければ、石油もただの黒いギトギトです。データは今、精製技術が発展途上にある段階です。さて、これを使ってどんなモノができるのか、楽しみですね。
ビッグデータ資源は、デジタル化が進み、膨大な数のユーザーがたくさんのデータをクラウドにアップする文化が浸透した「先進国」に偏って存在します。戦争に怯えながら掘り出し、海賊を撃退しながら運ばなければいけない石油とは違って、何かと安心です。
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さてこの新しい石油は使っても減りません。「へっへっへ、いいじゃないか、減るもんじゃなし」といえば、セクハラオヤジですね。
しかし、ビッグデータの場合は、減らないどころではなく、触れば触るほど増えます。データを処理してユーザーにサービスを提供し、それをユーザーが使うとその利用状況がまた新しい貴重なデータとなって利用できるようになります。オヤジ天国です。(違
データを使ってサービスを作ったり、プロセスを効率化してコストを削減するという作業は、道具や機械でモノを作る製造業よりもはるかに「知識集約的」です。競争の激しいネット業界で、生き残っている大物たちは、ほとんどの場合、なんらかの形でビッグデータの力を駆使して、より優れたサービスを提供したり、より効率的で低コストな仕組みをつくったりしています。しかし、ビッグデータのツールは誰でも使えるものではなく、「どういうクエリー(質問)を投入するか」「その結果をどう使うか」が勝敗を決するので、使う人の頭が悪ければ、ロクなものが出て来ません。
つまりは「ビッグデータにあらずんばネット企業にあらず」なのですが、それは中の人のあたまが良くなければできません。このあたりも、セクハラオヤジとは大きく違いますね。
ビッグデータといえば「すわっ、プライバシー侵害!」というのが最近よくある論調で、少々ウンザリです。もちろん、問題が存在するには違いありませんが、副作用のない薬はなく、マイナスの影響の全くない技術はありえません。
「漏電による火事が怖いのでロウソクを使う」といえば今なら「はぁ?」と思いますが、そのように本気で信じられていた時代もあったのです。プライバシー問題は、「実害」と「わからない新技術への漠然とした恐怖」+「気持ち悪さ」を分け、また情報を提供することで得られるメリットとデメリットを比較して、冷静に考えたいものです。
私の属性や行動データを解析して、私の動きを予測することが、「ストーカー」になるのか「忠実な執事」になるのかの違いは、情報を渡す相手を信頼できるかどうかにかかっています。このあたりは、4月25日に現代ビジネス主催のニコ生対談をしていただく、慶應大学の國領二郎先生の「ソーシャルな資本主義」という本にも詳しいので参考にしてください。
このあたりを注意したサービス設計のポイントとして、本の中では「長いループ問題」や「紫のグラデーション問題」などを考えていますので、読んでみてください。
ビッグデータの技術は、最先端の科学技術研究には欠かせません。天文学や素粒子の観測データだけでなく、膨大な数の人々が発したツイートなど、あらゆるネット上の情報を素材として学問的に活用することも急速に可能になりつつあります。ビッグデータの力で、人類の新しい「知のプラットフォーム」が形成され、現代社会のかかえる問題を解決できるようになるかもしれません。そのために、頑張っている人たちが世界中でたくさんいます。日本人や日本企業もぜひ、その一角として頑張ってほしいと思っています。
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ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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