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戦うCTIA、国際競争力、そしてミニスカ・コンパニオンたち

2013.05.27

Updated by Michi Kaifu on May 27, 2013, 07:07 am JST

CTIA(元はCellular Telecommunication Industry Associationの略称だったが、最近は本来の名称がウェブサイトに表示されていない)は、そういうわけで携帯電話業界団体であって、展示会屋さんではない。この春も5月21~23日にラスベガスで展示会があったが、ここ数年規模も内容もどんどん縮小しており、新しい製品やサービスの発表もほとんどなかった。欧州の携帯展示会MWCが年々拡大しているのに比べて、アメリカだめじゃん、CTIAダメじゃん、と思えるかもしれない。しかし、CTIAを侮ってはいけない。

▼CTIAでラティーノ向けサービスを発表した女優・販売会社社長のジェニファー・ロペスと、ベライゾン・ワイヤレスCOOのマルニ・ワルデン。
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CTIAの役割の変遷

米国携帯業界全体の現在の最大の課題は「周波数リバースオークション」である。簡単に言えば、放送業界が保有している電波を一部取り上げて通信に転用することを目的とし、しかしタダで取り上げるのではなく、電波オークションの仕組みを逆方向に利用して、 放送事業者が周波数を売却すればお金がはいるインセンティブを与えようという仕組みだ。

電波オークションの歴史の長い米国でもこれは初めての試みであり、当然放送業界からの反発はすごい。米国でも放送事業者の政治力は大きいので、大バトルがここ数年続いている。そして、普段は激しい競争を繰り広げているキャリア各社も、この点においては利害が一致している。そのとりまとめをしているのがCTIAであり、こうした戦うロビイング団体としての活動が近年めだってきている。

まもなく米国連邦通信委員会(FCC)の委員長が交代するが、次期委員長として決まっているのが、 CTIAの前CEOであるトム・ウィーラー氏である。(現在は議会の承認待ち。)CTIAは、この電波バトルの中核に味方を送り込むことに成功したのである。
電波の取り合いがこれほど激化しているのは、言わずと知れた2007年iPhone登場以降の「データ津波」のせいである。 90年代 には、音声のトラフィックで容量がいっぱいになった危機を「デジタル化」という魔法の杖で解決することができたが、今は一発で問題を解決できるほどの強力な技術革新が存在しない。種々の改良技術の組み合わせだけでは足りず、あとは周波数を増やすという力技を使うしかない。

そのため、スマートフォンによる容量逼迫が激しくなり始めた2009年頃から、キャリア業界あげての「電波が足りない」キャンペーンが始まった。CTIAなどでの講演や各種記者会見では、具体的な数字をあげていかに電波が足りないかをメディアや関係者に根気強く説明し、ユーザーに対しては キャリアがいかに多額の投資をして身を削る努力をしているかCMでアピールする。実際に、キャリアは必死で設備増強の投資をしている。容量逼迫が最も厳しかったシリコンバレーで、最も口うるさいテック業界ジャーナリストたちでも、最近はAT&Tがちゃんとつながるようになっている、たいしたものだと評価している。

モバイル・インフラの「国際競争力」という視点

その甲斐あって、モバイル業界が放送業界をじりじりと追い詰めてきている。そして、その一つの政治的決定打は「国際競争力」という点だ。

スマートフォンとその上のアプリやサービスまで含めたエコシステムの世界では、キャリアに期待される役割は、以前のように端から端まで自社でサービスを提供することではない。アップルやグーグルがどんなに暴れようと、ネットフリックスの膨大な動画トラフィックが流れようと、びくともしないだけの頑丈で高速な無線インフラを作ること だ。そして、米国政府もモバイル業界も、「上で暴れている人たち」がもたらすイノベーションと、その先に期待される長期的な他産業の効率化や新サービス創出が重要 、と理解している。

今回の展示会の講演やワークショップなどでも、モバイルの「クラウド」出入り口としての役割に期待する業界人が多いことが改めて感じられた。このため技術の傾向も、従来の「通信速度」や「容量」だけでなく、「遅延」の縮小がより重視されるようになってきている。インフラの品質は今後ますます重要になる。

歴史的にその役割が縮小しつつある地上波テレビと比べ、モバイルのインフラのほうが、大きな国益をもたらす。しかし、世界各国と比べ、米国のモバイル事業者が使える周波数は決して多くない。将来にわたって、モバイル・テクノロジー分野での国際競争力を維持するためには、限られた資源である電波はモバイルにより多く配分すべきである。これが、モバイル業界の 最大の論点であり、現CTIA CEOスティーブ・ラージェント氏が、展示会のインタビューの中で強調している点でもある。

もちろん、自分たちに都合のいいことを大きく言っているという部分もあるだろう。しかし、実際に正論でもあると思う。

そんな様子を見ると、日本において通信の競争政策や周波数政策の検討過程において、真剣に「国際競争力」という点について 考えている人がいるのだろうか、と心配になる。報道で見ていると、キャリア同士のつぶし合い、役人の天下り先確保、過去のしがらみや既得権益、といったような面ばかりが見えてしまう。

「アメリカと同じにはいかない、日本は特に難しいから仕方ないのだ」という言い訳をあらゆる場面で聞く。そう、仕方ないのだ。だから、今や日本の携帯業界は競争力を失っているのも仕方ない。そしてこの先、ソフトやサービス、さらには通信以外の多くの産業を支えるインフラが弱ってしまうのも仕方ない、のだろう。

私にはそうは思えないのだが。

「多様性」に活路を見いだす

さて、そうはいっても展示会の話も少しだけ書いておこう。確かに、展示会は従来の華やかさを失い、変わり目の時期を迎えている。

かつてのCTIA展示会では、サムスンやノキアなどの携帯端末ベンダーと、ルーセントなどのインフラ機器メーカーが中央付近に大きく派手なブースを出して新製品の発表を行い、その時点での「次の大物」と目された「モバイル・エンターテイメント」や「コネクテッド・ホーム」などに関連する展示や講演がにぎやかに行われて軸となり、その周辺にタワー設備や計測機器など、産業用の地味なベンダーが店を出していた。それが、昨年あたりからバランスが大幅に変わった。今年はついに、主要機器ベンダーでほぼ従来どおりのブースを出していたのはエリクソンだけとなり、端末メーカーは一つもなかった。

▼ほぼ例年どおりのブースが賑わうエリクソン。
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ここ2−3年、 会場内の広告スペースを独占していたフアウェイは、出展していたものの大幅に規模は縮小。かつては大きなブースを出していたクアルコムも不在だ。

代わりに、 かつて「周辺」にあったような小さなブースが、「M2M」(参考情報)「アクセサリー」などいくつかのゾーンに分かれて全体を埋める。また、中南米市場向けのベンダーも目立ち、ラテン風のミニスカ・コンパニオンがやけに増えたのに私は面食らった。

▼メキシコの大富豪カルロス・スリム傘下のMVNO大手、トラックフォンのブース。米国内では中南米系の移民などを中心にプリペイド携帯を販売。
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▼こうした小さいブースが会場を埋め尽くしている。
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キーノートでは、今年はスプリント買収の真っ最中のためか、主要キャリアのトップは登壇しなかった。その代わり目を引いたのが、「女性」シフトだ。トム・ウィーラー氏が議会承認されるまでの間のFCC暫定委員長ミニヨン・クライバーン氏も、CTIA会長/USセルラー社長のメアリー・ディロン氏も、ディロン氏がモデレーターとなった多様な業界代表のパネリストもみな女性。また、開催中ほぼ唯一の大きな記者会見では、ベライゾンとジェニファー・ロペス経営のラティーノ向け販売会社の提携が発表されたが、こちらも発表を担当したベライゾン・ワイヤレスのCOOマルニ・ワルデン氏が女性だった(冒頭の写真)。

モバイル業界で新しいものをドライブする勢力は、今やアップルとグーグルになっているが、両者とも出てこないCTIAは、展示会としても変貌を余儀なくされている。 ラティーノ、中南米、女性、多様な業界での活用といった、いろいろな面での「多様化」に、閉塞状況からの出口を探そうとしているようだ。

会場も今年は昨年までより小さな会場に移っている。今年までは、春と秋の2回の展示会があるが、来年からは秋だけになる。どのように変化していくのか、これもまた楽しみである。

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
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