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一番優秀な起業家に選ばれるプログラムを 〜 ネットプライスドットコムの事業創造&投資育成プログラム"Beenos"の狙い

2013.07.12

Updated by Asako Itagaki on July 12, 2013, 12:00 pm JST

ネットプライスドットコムが2013年7月11日から開始するBeenos(ビーノス)プログラムは、起業経験を持つ技術、デザイン、情報分析、管理など各分野の専門家から構成されるチームが、内外のインターネット関連企業の投資育成や有望な起業家と共に事業を創造するもの。その狙いを、事業責任者である株式会社ネットプライスドットコム 執行役員 兼 Beenos本部長の前田 紘典氏が語る。(構成:WirelessWire News編集部 板垣朝子)

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前田 紘典(まえだ・ひろのり)
米国の大学に在学中にインディーズ音楽サイトを起業。2009年7月に入社後、海外投資やジョイントベンチャー立ち上げに関わり、2010年4月、デジタルガレージ、カカクコムと共同で世界進出を目的としたスタートアップ育成プログラム「Open Network Lab」を立ち上げる。世界の起業家等がスイスに集う「サンガレン・シンポジウム」の有望な若手起業家100人に選ばれ、2011年5月に招待を受けている。

起業経験がある専門家が起業家を育成

ネットプライスドットコムは1999年にeコマースの会社として創業し、2004年の上場後は、本業とは別に、自分たちの周囲にいる起業家を支援していました。投資した起業家は40社以上に上り、グループ企業としても10社ほどあったり、オークファンのように上場する会社も出てくるなど、リターンも見えてきました。ここであらためて、起業家を支援する体制を作り、チームとして起業家支援を加速していこうとういうのが、Beenosの目的です。

今、世間に、新しいファンドや起業家育成プログラムはたくさん生まれていますが、運営者のほとんどは自分で起業経験があるわけではありません。しかし、起業家を育てるのであれば、起業の痛みや課題を共感して理解する必要があると私たちは考えました。

Beenosのチームメンバーのほとんどは起業やスタートアップの経験者であり、なおかつそれぞれが開発、データサイエンス、オペレーションなどの専門知識を持つスペシャリストです。ネットプライスドットコムグループ内の起業経験者をひとつの組織にいれて起業家支援のミッションを持つチームを作りました。

Beenosのプログラムは2つあります。「インベストメントプログラム」はいわゆる投資で、世界中の優秀な起業家に対して出資し、ステージに応じて必要だと思われる支援をチームで行います。シードステージへの支援は既にOpen Network Lab(ネットプライスドットコム、デジタルガレージなどが手掛ける育成プログラム)で行っていますので、Beenosが対象にするのは主にアーリーステージとグロースステージです。

アーリーステージでは、プロダクトを出して間もないのでプロダクト回りの支援が必要ではないかと思います。そこで、Beenosからは、まずデータチームがプロダクトとユーザーを分析し、改善すべきKPIを設定します。そのKPIによって、例えばデザインが課題であればデザイナーが、システムが問題であればエンジニアリングのスペシャリストが入るなど、課題によって必要とされる専門家がアシストします。グロースステージであれば、オペレーションやビジネス最適化が課題となるでしょうから、オペレーションスペシャリストが活躍することになります。

インセプションプログラムは、「優秀な起業家と共に事業をゼロから立ち上げる」というものです。インベストメントプログラムは、既にアイデアがあるチームを支援していきますが、インセプションプログラムはチームがなくても、たとえアイデアがまだない段階であっても、起業家になれる人を支援していくというものです。

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「起業家になれる人」に必要な3つの要件

これまで弊社で40以上の起業家に投資してきて分かってきたことですが、成功する起業家には共通点があります。ひとつは、分析能力があること。起業するためには、市場分析や競合分析など、さまざまな側面からの分析が必要です。そしてもうひとつが、人を巻き込む力があることです。起業のためには、人の採用、投資家、パートナーなどさまざまな人を巻き込まなくてはいけません。この2つの要素がそろっていて、なおかつ正しいモチベーションを持っている人が、成功する起業家になれる。我々が支援するのは、このような素質を持っていて、育てれば経営者になれるポテンシャルのある人です。決して「起業したいけど何をすればいいのか分からない」という人を支援するのではありません。

インセプションプログラムに採用された人に対しては、その人に適合した市場は何かをまず探ります。その人の過去の経験や性格に合った市場やビジネスモデルの適合テストを行います。具体的には、市場のアイデアとその市場のユーザーへの課題、その課題に対するソリューションを出して、支援される起業家との適合度を検証します。

市場とビジネスモデルのターゲットが定まったら、Beenosのエンジニアリングチームがプロトタイプを作成します。その後データチームによる検証、デザインチームによる改善のサイクルを回して、事業として立ち上げます。

人によって適した起業環境はそれぞれ異なっていると思うんです。オープンネットワークラボは、作りたいものがあって、チームもあって、あとはネットワークと環境があれば形にできるという人を支援するためのものです。もう少し自分の力で頑張ってから支援を受けたいという人もいれば、もっと前の段階から支援を受けたいという人もいます。さまざまな起業スタイルに合わせたプログラムを作っていきたいということです。

我々はたくさんの事業を作ってきましたから、何をすればいいのか、何が間違っているのかというパターンは見えます。それを踏まえて、より起業家が近道を通って会社を伸ばせるようなプラットフォームを、Beenosという組織として提供します。

この仕組みの肝は「どれだけ優秀な起業家志望者を集められるか」ということです。アイデアにはそれほど価値はないし、起業プロセスは標準化できますが、成功の鍵になるのは結局、「人」。起業家のDNAを持っていて、Beenosと一緒に会社を作っていきたいという人を支援していきたいと考えます。

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経験と共感で他の支援者と差別化をはかる

支援実績の目標ですが、インベストメントプログラムはアーリーステージで年間20社程度、グロースステージで2社程度、これは、過去12か月の弊社支援実績と同程度のイメージです。インセプションプログラムの方は、今後5年間で20〜30社程度、独り立ちできるところまで育てたいと考えています。

支援を受けたいという人は、問い合わせフォームを通してコミュニケーションしていただく他、我々自身の投資活動を通した出会いがきっかけになると思います。タイミングもありますので、気軽に問い合わせてください。採用基準は下がりませんが、出会いのハードルは下げたいと思っています。

日本の起業家は圧倒的に少ないという印象を持っています。ネットプライスドットコムはシリコンバレーでも20数社投資していますが、あちらには日本に比べると10倍とか20倍とかいう数の起業家がいるのではないでしょうか。日本はインフラがとても整っていて、イノベーションを起こす環境としてはとてもいいと思います。

イノベーションを起こすためのロジスティクス、決済インフラ、テクノロジーは整備されていますが、足りないのは起業家のコミュニティではないでしょうか。成功した起業家がこれから上がっていく起業家に何か返す、という循環ができていないので、起業家に必要な情報共有がされていません。Beenosはそこを提供することで他のインキュベーションプログラムやベンチャーキャピタルとは差別化できると考えています。

大企業がスタートアップ支援プログラムをはじめたり、投資する人、支援する人は増えています。そこで、いい起業家の取り合いは当然、起こってきます。みんな一番優秀な企業、一番優秀な起業家に投資したいですよ。でも、100社が1社に投資できるわけではありません。誰にでも投資するのではなく、トップクラスの起業家を狙っていくためには、起業家に求められるようにならなくてはいけない、そのためには起業家が必要とするものを提供しなくてはいけません。

私たちが起業家支援をするのはなぜだろうと不思議に思われるかもしれません。そもそもBeenosのアイデア自体が出てきたのは、「ネットプライスドットコムに今後10年、20年の間何が必要なのか」というテーマでミーティングをしていた時です。その席上で必要なのはイノベーションだ、ではイノベーションを起こし続けるためには何が必要か、と考えたときに、「我々は起業家である」というところに行き当たりました。

起業家として、世の中に提供できる価値は何かと考えていくと、今この世の中に足りないものは起業家と共感でき、起業経験がある支援者である、だったら我々のチームが軸になって支援しようと。そこがスタートです。専任のデータサイエンス、開発者、オペレーションスペシャリストがいるチームによる支援を提供するプログラムは他にないと思います。

Beenosの名前の由来は、Bee(ミツバチ)+nos(の巣)を結合した造語で、「ミツバチの巣」を表しています。花粉を媒介するミツバチのように起業家同士をつないでイノベーションの花を咲かせること、またその活動の拠点となることで、起業家が集い、つながるBeenosのプラットフォームから、新たなビジネスを創出し、私たちの暮らしを豊かにすることが、私たちのチームのミッションです。

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ネットプライスドットコム、事業立ち上げから拡大までを技術・情報分析・ネットワーク・経営の専門家がサポートする 事業創造&投資育成プログラム 「Beenos(ビーノス)プログラム」を開始(報道発表資料)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。