STAP細胞の論文の取り下げが相変わらず話題になっておりますが、海外でも研究者による注目を集めています。今回の事件で大変面白いのが、日本だけではなく、様々な国の現役科学者やネットユーザーが、STAP細胞の論文や小保方博士の博士論文を、ネットコミュニティで検証している事です。
日本ではこの様に、科学論文の内容をこんなに沢山の人がネットで議論した事はかつてなかった事かもしれません。これ、まさに、科学論文検証のクラウドソーシング化ですね。
日本では2ちゃんねるや個人ブログを中心に検証が行われている様ですが、海外ではPubPeerというサイトで積極的な検証が実施されています。
このサイトは、科学技術系の論文が学術論文誌に掲載された後に、不特定多数の人がその内容を議論できるサイトです。
コメントは各論文毎に投稿できる様になっており、データベースに集約されるので、簡単に検索する事が可能です。
サイト上でコメントの質を保つためにいくつかの仕掛けがあります。まず、ユーザーになる条件は、過去に論文を出版したことがある、もしくは、大学や研究機関などのメールアドレスを持っている人です。出版した論文やメールアドレスにより、ユーザーのアイデンティティがわかるわけです。
しかし、ユーザーのアカウント名はデフォルトで匿名です。匿名である理由は、研究者は同僚や他の研究者に批判される事を恐れる上、トラブルが発生することがあるためです。さらに、匿名性を高めたい人は、 PubPeer のファシリテーター経由でコメントを投稿する事も可能です。
また面白いのが、このサイト、論文の第一著者と第二著者も参加し、不特定多数のユーザーと画面上でやり取りできる事です。また、 コメントの質については、時には不適切な質問やコメントが投げかけられる事がある様ですが、参加者は基本的に研究者のため、読む人が読めば分かるので特に問題がない様です。
サイトを見る限り、誹謗中傷や個人攻撃の様な、研究結果の検証に関係ない低レベルなコメントはあまり見当たりません。 β版のソフトウェアのバグをつぶして行く作業の様な感じと言えましょうか。コミュニティの質が高ければ、大変有益な共同作業が可能です。
STAP細胞の論文に関しては以下のスレッドで議論されています。
"Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency"
昨日の記事でご紹介したインチキ学術論文に関するゴシップに特化したサイトであるRetraction Watchの中の人である科学ジャーナリストの Adam Marcus氏と Ivan Oransky氏は3月13日に放送されたBBC Radio 4 のインタビューにおいて、STAP細胞の論文の取り下げ関して、その背景などを説明しました。
また、インタビューにおいて、「PubPeerの様なサイトにはもちろん問題もあるが、科学というのは常に発展して行くべき分野。こういうレビューサイトで様々な人々が議論するプロセスを学術誌が受け入れるならば、発見の精度が高まり、科学の発展に貢献するから素晴らしいことだ」と述べています。
日本でも、学位論文や学術誌に載る論文は、全て原則電子化し、こういうサイトのオープンな環境で議論すると、研究鵜結果の質が高まるので、面白いんじゃないでしょうか。
また、論文を全然書いていない研究者や、研究のアウトプットが低い人もすぐにわかってしまうので、おかしな人事や仕事してない人の悪行もバレてしまいますね。
日本の大学の中には、まったく研究をしていなかったり、論文を書かなくてもポストに就けたり、適当な授業をやっていても平気だというところもあり、それは海外でも知られているわけですが、そういう大学や教員を排除し、海外から優秀な人を招聘できる環境を作り、税金を有効活用する上でも、こういうレビューの試みはドンドン実施されるべきかもしれません。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。