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IoTとメイカーとロボットとウェアラブルの交点となるオライリーのSolidカンファレンス

2014.03.07

Updated by yomoyomo on March 7, 2014, 11:00 am JST

オライリーメディアというと、コンピュータ関連の書籍出版社の老舗ですが、創業者のティム・オライリーが今からおよそ10年前に「Web 2.0」という言葉をぶちあげたあたりから、IT 業界のビジョナリーとしてカンファレンスビジネスにも力を入れるようになります。

ただカンファレンスのアーカイブページを見ると、「○○ 2.0」系のカンファレンスは2011年を最後に終わっており、昨年には「出版 × IT」の最新動向をテーマとする Tools of Change for Publishing(TOC)も終わりを迎えており、現在手がけるカンファレンスは、オープンソースをテーマとするもっとも歴史が長い OSCON、ビッグデータをテーマとする Strata、ウェブのパフォーマンスと運用をテーマとする Velocity あたりに集約されており、一時期の勢いはありません。

201403071100-1b.jpgしかし、オライリーとしても新しい弾を用意していないわけではありません。今回は5月にサンフランシスコで初めて開催される Solid Conference に注目したいと思います。

「Solid」という単語だけ聞いても何のカンファレンスか分かりませんが、それに添えられた「Software / Hardware / Everywhere」という文句、そしてトップページに表示される「ソフトウェアと現実の世界の間にある障壁は崩れつつある」「今のハードウェアのスタートアップは、一つ前のデジタル時代におけるソフトウェアのスタートアップに似ている」という主催者の言葉を読むと、大分イメージが湧いてきます。

オライリーの Jim Stogdill が Why Solid, why now という文章で Solid というカンファレンスを今やる理由を説明していますが、オライリーの Radar ブログの執筆陣が2012年の12月にミーティングを行ったとき、ロボット、センサーネットワーク、メイカームーブメント、Internet of Things(IoT)、ウェアラブルデバイス、スマートグリッド、インダストリアル・インターネット、進化した製造業(advanced manufacturing)、なめらかなサプライチェーン(frictionless supply chain)といったトレンドについて話し合ううちに、これらのトピックが別個のものではなく、すべて関連し合った流れにあることに気付いたそうです。

この時点で新たなカンファレンスの構想が生まれたわけですが、それからおよそ一年後の CES における IoT やウェアラブルへの注目を見ると、その見立ては正しかったようです。Solid(固体、中身の詰まった)というカンファレンスの名前も、サイバーなんちゃらのようなバーチャルなものではない「モノ」「ハードウェア」をターゲットとすることを伝える意図があるようです。

ハードウェアのスタートアップがアツいという話は既に2012年にポール・グレアムも書いていますが(ポール・グレアム論法)、マーク・アンドリーセンが語るようにソフトウェアの影響があらゆる産業に及ぶようになり、しかもモノがすべてインターネットにつながる用意ができたことで、今またハードウェアが面白くなったという認識が背景にあります。

201403071100-2.jpgMIT メディアラボの創始者であるニコラス・ネグロポンテは、1990年代に創刊した Wired において「アトムからビットへ」という言葉を有名にしましたが、その後その Wired の編集長をやったクリス・アンダーソンが『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』においてこれをひっくり返した「ビットからアトムへ」と書くような、ものづくりが情報創造産業になりうるゆり戻しの時期にあるわけです。

実はオライリーには大分前から「面白くなってきたハードウェア」へのチャンネルがありました。言うまでもなく、メイカームーブメントを牽引した雑誌 MAKE日本版)です。

ただ Solid カンファレンスがとらえる射程範囲は、メイカームーブメントだけに留まりません。前回の文章で紹介した『Industrial Internet』も Solid カンファレンスへの布石だったわけですが(著者は Solid カンファレンスで議長を務める Jon Bruner)、他にロボットなどもトピックの一つに入っていることは注目すべきです。

Solid カンファレンスの委員会メンバーを見ると、前述のクリス・アンダーソン、Make の総合監修者である Phillip Torrone、そして彼と電子工作のキットなどを販売する Adafruit Industries を創業した Limor Fried といったメイカー人脈も当然入っていますが、カンファレンスの議長が現在の MIT メディアラボの所長である伊藤穰一である関係で MIT メディアラボ関係者が多く、これまでのオライリーのカンファレンスとは少し毛色が異なる感じもします(そういえば石井裕 MIT メディアラボ副所長の登壇も既に決定しています)。

このメンバーを最初見たとき、もっともワタシの目を惹いたのは、委員会に当代最高のテクノロジー企業である Google からアンディ・ルービンが(ウェブ企業からほぼ唯一)入っていることでした。

アンディ・ルービンといえば「Android の父」ですが、およそ一年前に Android 部門の責任者の地位を退任したときは、マリッサ・メイヤー(現 Yahoo! CEO)と同じくラリー・ペイジ CEO に失脚させられたのではという観測もなされました。が、昨年末にロボット開発を手がけていることが明らかになっています。

そして、偶然でしょうがルービンの現職についてのニュースに続き、Google による「Big Dog」の Boston Dynamics日本のロボット開発会社 SCHAFT などロボット関係企業の買収のニュースが続きました。今年に入っても家庭用の室温制御装置を手がける Nest Labs を32億ドルで買収し、そして人工知能企業 DeepMind を5億ドルで買収するなど、Google はウェブだけに飽き足らず現実世界の制覇を目指す動きを見せています。

以上のすべてということはないでしょうが、これらはルービンがこれからやろうとする仕事にも大きく関係するものでしょう。シリコンバレー的観点から見た現在のロボット分野の面白さを知るにも Solid カンファレンスは面白そうです。

201403071100-3.jpgオライリーメディアも Solid にはかなり期待をかけているようで、5月のカンファレンス本番の前に Solid: Local という地ならし的ミニイベントを既に行っています。このカンファレンスに興味をもたれた方は、『Industrial Internet』同様無料で電子書籍が配布されている『Building a Solid World』を読まれるのがよいでしょう。そこまで労力をかけたくない方も、そこからの抜粋における「必要な資本を小さくしてくれるインフラサービス」「サービスとして売られているプロダクト」「開発者にプラットフォーム上にサービス構築を可能にするAPI」といった観点で見たソフトウェア/ハードウェアサービスの表を見て、今どんなハードウェアスタートアップに注目すべきかぐらいは押さえておいて損はないと思います。

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。