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誰が為のインターネットガバナンス/企業とオープンプロセス

2014.05.21

Updated by Satoshi Watanabe on May 21, 2014, 09:27 am JST

昨日、所用があって慶応大学にて開催されていたNETmundialの報告会に参加していた。
NETMundialはブラジル政府の主催により、去る2014年4月23日‐24日に開催されました。会議は世界中より百を超える参加者が集い、インターネットガバナンスにおける未来についてディスカッションが行われました。会議にて発表された成果文書では、インターネットガバナンスに関する原則と価値、インターネットガバナンスがグローバル、拡張性とネットワークへのアクセス性を維持できるネットワークへのコミットメントの主張が展開されました。
同時に、インターネットポリシーの意思決定は、マルチステークホルダー・プロセスと透明性、説明責任、包括性、公平性それぞれの原則に基づくべきであると強調されました。日本政府はこの文書と日本のマルチステークホルダーコミュニティのメンバーが文書の策定に際し重要な役割を担ったことを支持しています。
本フォーラムは慶應義塾国際インターネット政策研究会(KIPIS)が主催し、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)共催で、NETMundialの詳細な報告と、日本を代表し会議に参加された皆様と次のステップについて議論を行います。
リンク先の通り、この会そのものの話や位置づけについてはインターネットガバナンスや立場の違う各国間(更には国を超えたいろんな立場の意見反映:まさにマルチステークホルダーの課題)、ネット中立性とのそれぞれのテーマについては、後日分科会で踏まえていく予定なことや、関係各所で議論されるだろうことからここでは触れないとして、再三に渡り報告会でアダム・ピーク氏やジム・フォスター氏から、日本の関係者、特に企業からの参加を呼び掛けていたところについて少し触れたい。
所感を結論から書くと、彼我の差が相応にあるのでいきなりはなかなかに難しいだろうなぁ、との感想となる。
インターネットは、一般的な企業からすると、重要度は年々増しているものの利用チャネルの一個、メディアとコミュニケーションチャネルの一つとの位置づけとなる。
つまり、インターネットガバナンスのあり方についての議論に参加してください、との話は、メタファーが若干乱暴なのに目をつぶって頂くとすると、普通の企業からすると国際会計基準の議論に参加してくださいとの話に近い。「(制度の重要性や仕事の意義、自分たちに巡り巡って何がしか影響があることを理解しない訳ではないが)それは自分たちの仕事ではないなぁ」となるのではないだろうか。
企業は、制度と実情で定義すると、株主と従業員及び取引先を中心としたプライベートな組織体であり、公共の利益を第一義の活動目標としない。第一義の目的は、適切な形で(法令などを踏まえつつ行儀を相応に踏まえて)利潤を上げていくことである。となると、巡り巡って活動コミットメントが利益に繋がるとの理屈を持ち、且つリソースを避ける余力のある一部大手、おそらくはキャリア大手などに限られてくるだろうと思われる。
(なお、戦略的に考えると大手キャリアはもうちょっとコミットを深める必要があるのでは?との議論も派生しているが本稿ではこのアジェンダについては触れないものとする)
■ 企業とオープンプロセスな活動の距離感
一方、企業がオープンパブリックな動き、あるいはオープンプロセスを上手く生かした新しい活動形態を模索するケースは最近増えてきている。いわば、企業活動のオープン化が進んでいる。
タイトルキーワードをざっとリストしてみると、
・オープンデータ
・いわゆるCGMなどユーザー参加型のプロモーション活動各種
・クラウドファンディング
・ハッカソン各種
・メディアサイトでの個人スペース解放や連携の動き
という形で、オープンな参加呼びかけを行う動きが目立ってきている。
インターネットガバナンスの議論への企業のコミットメントについては距離感があっても、広く意見や参加を求めていきたいとの立ち回りと悩みについては、NETMundialの活動、あるいは背景にあるIGFやICANNの活動と立ち位置において類似性がある。
インターネットガバナンスどうあるべき、どう定めていくべきか議論はさておき、このような物事へのオープンな参加呼びかけから始まる産業/社会活動形態は、これからも多様な試みがされていくものと予想される。それこそ、マルチステークホルダーならぬマルチレイヤーで課題整理が可能になってくるようにじきになっていくことだろう。
例えば、ハッカソンがこのところ増えているが、ハッカソンにおける諸問題の整理や、どうすればいい形での成果が出るのかといった話はまだまだこれからである。トライアル的な試みとして、IAMASの小林先生が、ものづくり関連(いわゆるメイカソン)において問題の諸元になりがちな知財の扱いについてのFAQリストを公開されている。
これはアクションとしてはオープンソース活動に近いものがあるが、「自分たちのことは自分たちでなんとかしないとならんし、みんな考えを持ち寄ってバランス良く解いていかないといかんのだよね」との思想においてはインターネットガバナンスの議論とまったく共通していると言える。
おそらくは、違いとしては"その自分たちって誰のどこまでを指している?"という範囲感のところだけであろう。且つこのようなテーマについてはこの違いこそが関与するべきかどうかを決定的に分けていると言えるだろう。
それっぽいフレーズで〆るとすると、いろんな社会活動があるところで、「ウチの社会活動の方が意義があるよ!面白くもあるよ!」とのユーザーの善意(?)とコミットメントリソースを獲得する競争が始まっているのだと思える。おそらくは、意義と正義をただ伝えるだけでは足りなくて、ユーザーの何か琴線、あるいは企業だと企業行動上のカギになるポイントに上手く訴えかけるような受け皿スキームが必要との次元に差し掛かっているのではないだろうか。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。