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日本でデスマーチが発生する理由とW杯コートジボアール戦のゴミ拾いの関係

2014.06.17

Updated by Mayumi Tanimoto on June 17, 2014, 03:08 am JST

先日のワールドカップの日本対コートジボアール戦で、日本のファンが、試合に負けたのにも関わらず、スタジアムのゴミを拾ったことが、様々な国のサッカーファンやメディアに驚かれました。

日本人として大変誇らしく思えるエピソードです。渋谷では、観戦のどさくさにまぎれて痴漢行為を働いた人がいた様ですが、現地まで見に行った様な熱心なファンの方は、モラルが高く、マナーの素晴らしい方が多いのでしょう。

さて、一方で、日本の方の中には、この様なマナーの良さが海外の人にとって大変な驚きであったのを疑問に思われる方がいるかもしれません。

日本ではスポーツや音楽フェスの後に自分のゴミを持ちかえるのは珍しいことではありません。セルフサービスのお店で自分が使った食器を所定の位置に戻すのはごく普通のことです。バス停や駅、電車の車内に林檎の食べカスや、ジュースの缶を投げ捨てる様なことはしません。

ところが、日本の外では、ゴミは会場に放置、デモの後は町がゴミだらけ、セルフサービスのお店でもトレイやお皿は机においたまま。私が住んでいたイタリアではそれは当たり前。イギリスでも当たり前です。スペインやフランス、ベルギー、チュニジア、メキシコ、ロシアでも当たり前でした。

イタリアに住み始めた頃、私はどこかに出かければゴミを持ち帰り、セルフサービスの店でも日本でしていたのと同じ様にトレイや食器を所定の位置においていましいた。

しかし、ある日、ボリビア人同僚とイタリア人同僚に注意をされたのです。

「彼らの仕事を奪ってはいけない。ここではそのままにしておくのだよ。あなたがやってしまったら彼らの仕事がなくなる。他人の仕事を奪ってはいけない。ゴミ拾いや食器を下げることは担当者がやること。客がやることではない。仕事は作らなくちゃいけないんだよ

その頃私はイタリアとイギリスを往復していたのですが、イギリスでも仕事関係の知人や家人に全く同じことをいわれました。

マナーを守っていたつもりの私は、実は他人の仕事を奪う「マナー違反者」だったわけです。所変われば考え方も違うということを実感した事件でした。

IT統制の重要項目の一つは職務分掌ですが、日本の組織では紙の上で職務分掌を作成しても、現場では分掌を無視して一人が様々な業務を担当して、責任が曖昧になっていたりすることが珍しくありません。分掌を無視するので工数配分が曖昧になり、結果としてサービス残業が当たり前になっていたり、デスマーチが発生することも当たり前になっていたりします。

自分ができるからと他人の仕事もやってしまう、もしくは、他人にやらせてしまう。仕事ができる人には「非公式」な仕事が山の様になり、できない人は責められることはありません。そして、できる人は、ある日突然倒れるか、何もいわずに去って行きます。

組織はそれらを黙認し、管理者は職務分掌の監督や、業務配分の最適化を怠っています。

欧州の組織では、一般的に、職務分掌で割り振られた以外の仕事をやることはありません。働く人は雇用契約に明記され、職務分掌書で割り当てられた業務を行い、上長はそれらに沿って工数の調整を行い、業務とコストを最適化し、働く人のパフォーマンスを評価します。同僚は他の人がいくら忙しそうでも、自分の仕事が終わればさっさと家に帰ってしまいます。

従って、公式な職務分掌以外の仕事をすることはマレですし、サービス残業や、デスマーチが発生することもマレです。サービス残業を強いる様な上司や会社は訴訟を起こされますし、デスマーチを発生させる上司は無能な管理者として評価が下がります。

そして、職務分掌で割り振られた以外の仕事、つまり他人の仕事をやってしまう人は、「迷惑な人」であり、「組織の最適化を乱す人」であり、「越権行為をするとんでもない人」です。「よく働く良い人」ではないわけです。簡単な仕事であろうが、親切心からやった行為であっても、他人の領域に手を出す人は、非難されるのです。

実は私はイタリアで働き始めた頃、忙しそうだった同僚の仕事に、親切心から手を出してしまい、こっぴどく叱られたことがあります。イタリアは失業率が高く、仕事を探すのが大変な国です。他人の仕事を奪う人は「とんでもない人」なわけです。

サッカースタジアムにはゴミ拾い担当の人達がいます。ファンがゴミを拾ってしまったら、彼らの仕事はなくなってしまうでしょう。貧富の差が激しい国や、仕事がコネで決まるのが当たり前の国や、失業率が高い国では、お客は他人の仕事を奪ってはいけないのです。

負けた試合でもスタジアムで暴れず、ゴミを拾ってかえる様な日本のファンのマナーの良さは世界から絶賛されるべきことです。しかし、他の国の人々がなぜゴミを拾わないのかというのにも理由があるわけです。そして、日本のIT業界ではデスマーチが当たり前で、サービス残業がなくならないのにも理由があります。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。