ビジネスは時に非効率的になります。
たとえば名刺交換や年賀状、お中元やお歳暮など、儀礼上必要とされてはいても、実際にそれをやることがビジネスの価値にあまり貢献しないものは数多いと思います。
たとえば名刺ですが、営業マンはもちろん、経営者になるともの凄い量の名刺を毎日のように交換します。
いただいた名刺は、そのままだと勿体ないので、秘書やアルバイトがデータ化し、とりあえず保管します。
しかしいまどきは、実際には名刺なんか貰っても渡してもビジネスにとってたいした役には立ちません。
その昔、私も新入社員だった頃は自分の名刺が支給されると、「ヨーシ、おれも一人前の社会人になったんだな」と気合いが入ったものですが、実際にそういう生活を続けているとある日突然虚しくなりました。
名刺を渡そうが貰おうが、そうした情報はほとんど活用されることなく埋もれているからです。
営業マンをやっていた頃は、名刺フォルダーに名刺を整理しながら、「あ、このひとと最近会ってないからご用聞きに行こうかな」とか思ったものですが、今はそれがFacebookの友達一覧とか、携帯電話の電話番号一覧に変わっています。
同じ発想なんですけど名刺って基本的に他人とやりとりするものなので、重要度が極めて低い、浅いコミュニケーションしかできないんです。
むかし、堀江さんがライブドアの社長をやられていた頃は、名刺のサイズをわざと規格から外して目立つようにしていた、という話がありますが、いまどき名刺を凝るなんて非効率的です。
名刺は、印刷するのにも、配るのにも、保管するのにも、データ化するのにもコストがかかり、しかもそれを活用できるチャンスはほとんどないという、過去の遺物のようなシロモノです。
名刺の使い方として唯一実用的と思えるのは、キャビンアテンダントをナンパするときくらいです。
接遇のタイミングでスッと渡すのだそうです。
不幸にして私はやったことがありませんが、キャビンアテンダントの間では古くから知られた常套手段なのだそうです。よくそんな気障なことができるなと思いますが、長いことフライトしてるのに名刺とか渡して気があるって伝えたら、そのあとドキドキしないんでしょうか。それともドキドキしたくてやってるんでしょうか。まあこの手が使えるのはビジネスクラスだけだそうです。
さて、そうして集めた情報、そのうえほっておくとすぐにダメなデータになります。昇格や組織変更などで肩書きが変わってしまうからです。
で、名刺が変わると新しく名刺をいただくわけですが、これの紐付けがまた面倒くさい。コストがかかります。
三三という会社が名刺入力代行サービスをやっておられますが、名刺入力された「だけ」だと、本当に名刺データは役に立ちません。
ではどうすればいいのか?
まず、「これは」という人に会ったら、その日のうちにメールします。
名刺は捨ててしまっても構いません。
これはアスキー総研の遠藤諭さんから教わった方法です。
ただ、これはなかなか実践が難しく、だいたい夜中に会食が入っていたりするとつい忘れてしまいます。
そこでどうしても、という場合は秘書に名刺を渡して「この人と個別で会いたい」と伝えます。そういうときには名刺は便利です。しかし今はもうその場でFacebookの友達申請をしてしまいます。そうすれば確実だからです。
無駄だと思う時間的・人的コストを削減する、プログラミングでいう最適化の考え方です。
ゲーム会社の中には、引き抜きをおそれて社員の名刺を作ることを禁止されている会社もあります。
仮に作ったとしても、何をしているのかわからないようにわざとぼかして部署を書いたりするのです。
逆説的には、名刺などなくても仕事できる、ということになります。
集めた名刺でなにをするかといえば、たいがいはダイレクトメールの配信です。
これ、本当に面倒くさいし煩わしいのでこの文化は辞めて欲しいですね。紙の無駄です。
最近は名刺交換した相手にメルマガを送りつけるという電子的なダイレクトメールもメジャーになってきました。弊社も一時期やっていたのですが、取引先の迷惑になるのでやめました。
じゃあどうすればいいのかというと、そもそもダイレクトメールも迷惑メールもプッシュだから問題があるわけです。情報を欲しいと思っていない人に伝えようとしたって伝わるわけがありません。
そこで私はブログに広報機能を持たせることにしました。
たとえばこのWireless Wire Newsのブログがそうです。
これなら、情報を知りたい人が能動的に見に来てくれるわけですから、迷惑にはなりませんし、ダイレクトメールよりも遥かに沢山の人にポジティブな印象とともに情報をお伝えすることが出来ます。
個人ブログや製品ごとのブログもあるのですが、Wireless Wire Newsのように、他の執筆者の方もおられる環境の方がより幅広い人に見ていただける可能性があがります。
個別に興味をもった人にはメールやFacebookの友達申請を、全体に対してはブログを使って発信することで、名刺を交換する意味をほとんどなくしました。
そのせいか名刺を持ち歩かないようになってしまいました。
昔は名刺入れを持ち歩かないと、まるで丸腰で戦場に行くような気持ちになってひどく不安だったのですが、今は「Facebookを見て下さい」とか「ブログを見て下さい」と言えば、名刺よりも遥かに多くの情報を伝えることが出来るというわけです。
それでも商習慣というのがありますから、まあ名刺をもっていかないと失礼であろうときには渡します。それでもブログとFacebookを使うことで、名刺を印刷する量が従来の1/10程度になりました。
来年からは年賀状も電子的に出そうと思っています。
ただし、紙でいただいた年賀状には紙でお返事するのが礼儀だと思いますので、ごく小数の年賀状を印刷して準備してあります。
アスキー総研の遠藤諭さんは超整理法も実践しておられます。その影響で私もやってみましたが、そもそも書類で管理する情報がそんなに多くなかったので、数年つづけたあと、やめてしまいました。
時代は進んでいるのです。
紙の書類は、ディスプレイの一形態に過ぎません。
印刷でもらったあと、データで貰うのです。
弊社では印刷代と紙代を節約するために、経営会議の資料などは全て電子的に配布して手元のノートPCで資料を確認しながら会議を進めています。
経営会議や営業会議は定期的に開催され、参加者も多いのでこういう形態が適しているのです。
紙の状態でしか提供されない資料は、現代ではもう時代遅れです。
取引先とのやりとりも、会議資料の電子データを必ずセットで送付するよう求められることが多くなっています。
ところがこうした電子的な資料を検索するのが意外と面倒です。
いい解決策としては、Google Driveに入れておいて、Googleで検索する、というのがあります。
こうするとどんな資料も瞬時に検索できます。
しかも、場所を選びません。
自宅でも会社でもスマートフォンでも検索できます。
AppleのiCloudでも似たようなことはできるのですが、検索という意味ではGoogleに一日の長があります。
紙の資料もなくなり、じつにスッキリしたオフィスワークが実現します。
超整理法ももともとは検索をしやすくするための仕組みでした。
超整理法はプログラミング的にはFILO(ファースト・イン・ラスト・アウト)というやり方を現実世界に応用したものです。
最近使った書類ほど、再び使われる可能性があるということでそのようなルールになっているのです。
ただ今日では仕事で必要な書類がどんどん減っていき、電子的に作られて電子的に保管されるのが当たり前になっています。ハードディスクの容量もほぼ無限大に増えていくのでよほど巨大なデータを扱う仕事でなければ一度作ったデータは半永久的に保存するのも難しくありません。
むしろ一度作ったデータは常に半永久的に保存しておくべきです。
いついかなるときに必要になるかわからないからです。
Google Driveは、FILOのような原始的なやりかたをしなくても、すぐに更新日順やキーワード検索ができます。
仕事のメモや原稿はEvernoteにまとめています。
そもそも原稿や仕事のメモのためにファイルを作るというのが非効率的です。
たとえばファイルを作るとき、かならず「ファイル名」を決めます。
ファイル名ごときでさえ少し悩みます。
ファイル名ごときを考える時間は、根本的に無駄です。
ですからファイル名など必要ない、保存の操作さえ必要ないEvernoteが価値を持っているのです。プログラマー的に言えば、Evernoteは「メモ」という用途に最適化されているのです。
Evernoteにはありとあらゆる情報をためこんでいます。
あとで読み返したいWebページ、親戚の電話番号、過去のブログ原稿等等
なぜEvernoteにためているかというと、やはり検索が簡単だからです。
そもそもファイル名をなぜ付ける必要があったのでしょうか。
紙のノートに何かを書き始める時にタイトルから書かなければならない、なんてことはありません。
もともとファイル名は検索のために必要だったのです。
というのも、検索エンジンが発明されるずっと前にファイルシステムは発明されていたからです。
しかし検索できるようになってしまえば、ファイル名など何の意味もありません。
だから私のEvernoteには「無題」のノートがやまほどあります。
ただしEvernoteのひとつだけ不愉快なところは、わざわざ「無題」と表示してしまうことです。
これは大袈裟にいえば「題(タイトル)がついていて当然である」という傲慢な信仰のあらわれでもあります。
私はむしろタイトルなどついていないのが当然なのだ、と思います。
MacOSやiOSのメモ帳にはタイトルという考え方がありません。
メモの一行目がタイトルになります。
iPhoneでメモするときは標準のメモアプリをいつも使っています。
Evernoteアプリも入れてはあるんですが使い勝手が悪いので専らこれです。
これでも検索できるしちょっとした情報をメモするなら充分です。
最近気になっているのはメールが非効率的だということです。
社内では業務に必要な連絡事項はFacebookとLINE、そして社内で開発した独自のチャットシステムでまかなっています。
メールは基本的にほとんど使わなくなりました。
というのも、メールにはノイズが多過ぎるからです。
ただ迷惑メールが問題なのではなく、メールで誰かになにかを頼もうとすると
「お疲れ様です。○○商事様との会食ですが、先方がお肉を食べられない方だそうですので、お魚中心で銀座のお店を探して下さい。よろしくおねがいします」
社内でもこんなに長いメールをかかなければなりません。
太字で示した「お疲れ様です」と「よろしくおねがいします」は無駄です。
読むのも打つのも無駄です。あってもなくても情報の本質量(情報エントロピーといいます)は変わりません。
一日に一通ならいいですが、こんなメールを何通も各とすると、「お疲れ様です(カナ入力で11回の打鍵、ローマ字入力で17回の打鍵)」と、「よろしくおねがいします(カナ入力で11回、ローマ字で20回の打鍵)」の計、22〜37回の無駄な打鍵をメールの数だけ繰り返すことになります。10通で220〜370回ですよ。誰も読まないメッセージのために
これが取引先へのメールだとさらに無駄な打鍵が漠増します。
誰も読んでないのに、誰も読むはずがないどうでもいい挨拶を、メールだから、という理由で書かなければならないのです。
チャットだと「来週の○○商事さん、魚で探して。よろ」くらいの打鍵で済みます。圧倒的に速く、効率的です。
「よろ」までなにか余裕すら感じます。
メールの問題のもうひとつは、とにかく書くのが遅い人が一人混じると致命的にダメだということです。
筆無精というかキーボード無精というか、異常にメールを打つのが遅い人って居ますよね。
IT企業にすらそんな人はいるのです。しかも、意外にもプログラマーに多いんです。
彼らはキーボードは早いくせに日本語の文章は致命的に遅いことがあるのです。
普段日本語の文章を話し言葉しか書かないせいかしりませんが、メール用の文体に頭を切り替えようとしてショートしてるんですね。
そんな人たちとメールでやりとりするのは根本的に時間の無駄です。
さらにメールは読んだの読んでないので揉めます。
長いメールが来ると、お互い嫌になります。読みたくなくなります。
チャットになると水を得た魚のようにやりとりします。
文章が短く、本質的なので話し言葉で書けますし、携帯端末からも自然に参加できます。
こうすると、もうやりとりが早い早い。見る見る問題が解決していきます。
チャット導入前と導入後で、明らかに開発者の仕事の量、質ともに向上しています。
先日ここに書いたように、会議にもチャットを導入したことで、人間が言葉で話すコストを減らしました。
一時間会議すると普通は疲れるのですがチャットだと全く疲れません。
人間は、言葉を発したり言葉を聞き取ったりするのに実は意外に多くのエネルギーを使っているのです。
また、他の人が喋っている時に自分が発言できないとそれだけストレスが貯まります。
会議中、誰かが喋っていても、チャットにツッコミを書いたりすることで会議への参加意識を高めたり、議事録として共有できたり、いいことづくめです。
Facebookとブログで名刺の非効率性をなくし、紙資料をやめて電子資料にすることで検索性と保存性を高め、メールにかわってチャットを使うことでスピード感を上げることができました。
とはいえ最適化に終わりはありません。
さらに色んな方法でビジネスを効率化できないかアイデアを練っているところです。
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登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。