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Wi-Fiファースト・ビジネスモデル

2015.02.03

Updated by Kenji Nobukuni on February 3, 2015, 11:30 am JST

Scratch Wireless
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Wi-Fiアライアンスが1月初旬に発表した2015年のWi-Fi業界に関する15の予測の中に「Wi-Fi First(まずWi-Fiありき)のビジネス モデルによるプレッシャーの高まり 」がある。同団体のサイトでは、「すでにWi-Fiはほとんどのユーザーにとってインターネットへのデフォルトの接続手段となっており、「Wi-Fi First」(まずWi-Fiありき)のビジネス モデルの勢いは今後も変わらず、Wi-Fiが主要な接続手段で、セルラーは必要な場合にのみこれを補足する手段として提供されるでしょう。これらの画期的なモデルは従来の環境を根本から変革し、新しいサブスクライバ(加入利用者)の獲得につながるでしょう。」と説明されている。

スマートフォン利用者であれば、データ通信中に利用可能なWi-Fiの電波があるとLTEや3GではなくWi-Fiに接続していることに気づかれている人が多いだろう。当初、オフィス内や家庭内のLAN配線を無線にするために使われ始めたWi-Fiだが、屋外や空港、駅など公共の場所で使えるようになり、有料サービスに交じって無料のホットスポットが多数設置されるようになった。ここ数年の急激な面的な拡がりを支えていたのは、ホットスポット設置による集客という「場所」の魅力度アップというマーケティングの理由ともに、大量のデータを送受するスマートフォン普及で電波の帯域が不足し、つながらないという苦情を受け始めたセルラー事業者によるホットスポット設置の後押しである。後者はセルラー網への負荷(ロード)を減らすことから「オフロード」と呼ばれている。つまり、スマートフォン向けの通信サービスを提供するのは、フォン(=電話)だから携帯電話会社が主体で、Wi-Fiは負荷の「逃がし先」(二番手)だった訳だ。

ところがアメリカで新しい形態の事業者が登場してきた。Republic WirelessやScratch Wirelessといった新興企業で、Androidデバイスと料金プランを提供する通信会社なのだが、最初に選ぶ回線はWi-Fi(つまり、Wi-Fiファースト)で、Wi-Fiが使えない環境にある時だけ、仕方なくバックアップとして契約しているセルラーの回線を捕まえるようになっている。エンドユーザはセルラー会社の料金プランを選ぶ必要はなく、セットになっている。料金は安く設定されている。Republic Wirelessの場合、Wi-Fiだけなら月額5ドル、Wi-Fi使い放題に2G(GSM/CDMA)の通話(無制限)にテキスト(無制限)を追加して月額10ドル。最も高いのはWi-Fi使い放題に4Gの通話とデータの使い放題をセットにしたプランで月額40ドルとなっている。

こうした新興の事業者の場合、利用可能な無料のWi-Fiホットスポットを増やすための労力が大変だが、Wi-Fiファーストが広く注目を集めたのは、大手ケーブルテレビ会社の7コムキャストがタイムワーナーケーブルの買収計画を発表した昨年の2月からである。ケーブル会社の大手5社(コムキャスト、タイムワーナー、ブライトハウス、Cox、ケーブルビジョン)は、ケーブルWi-Fiアライアンスを結成して、ホットスポットの相互ローミングを推進している。コムキャストは2010年からXfinityというブランドでトリプルプレイ・サービスを家庭向けに提供しているが、Xfinity用の家庭用Wi-FiアクセスポイントのSSIDを1つ、公共ホットスポット用に開放させる施策を昨年5月頃から進めている。コムキャスト利用者以外でも料金を支払えば、コムキャスト利用者の家の近くに漏れている電波を使ってWi-Fiアクセスが可能になるという「ご近所ホットスポット(neighborhood hotspots)」である。これを昨年中に800万に増やすと発表したため、Wi-Fi利用可能なエリアが面的に大きく拡がることが期待され、セルラー各社にとってケーブル会社が大きな脅威になったわけだ。

ちなみに「ご近所ホットスポット」は欧州ではよく見られる形態ながら、米国ではアレルギー反応を示す人も多く、オプトアウトであったこと、オプトアウトしてもソフトウェアのアップデート後には再度、オプトアウトしなければならない仕様だったことから評判は今ひとつだったようだ。さらに、電気代を各家庭に負担させてコムキャストが金を儲けるという指摘や、Wi-Fiルーターの消費電力は1家庭あたり年額23ドル(800万カ所なら1億1500万ドル)になるという試算が発表され、12月には電気代負担、家庭用の帯域の圧迫、プライバシー侵害の脅威などからサンフランシスコでコムキャスト加入者2名が集団訴訟を起こしている。

こうした逆風はあるものの、世界各国の観光地や公共施設で無料Wi-Fiホットスポットが急激な拡がりを見せており、音声通話よりもWhatsApp、SMSなどデータ通信によるコミュニケーションが伸びている現在、各国のセルラー事業者にとって「Wi-Fiファースト」は大きな脅威として存在感を増してくる可能性が極めて高い。

【参照情報】
Wi-Fi AllianceR 、「2015年のWi-Fi - 15の予測」を発表
ケーブルWi-Fiアライアンスのウェブサイト
Republic Wirelessのウェブサイト
Scratch Wirelessのウェブサイト

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信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、チャットボイス、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発に当たり、現在はモバイルヘルスケア関連サービスの事業化を準備中。 訳書:「Asterisk:テレフォニーの未来