IoT時代の要求に応える「5G」の技術をノキアが解説、10Gbpsの無線伝送も実現
Nokia with 5G for IoT era
2015.05.11
Updated by Naohisa Iwamoto on May 11, 2015, 19:21 pm JST
Nokia with 5G for IoT era
2015.05.11
Updated by Naohisa Iwamoto on May 11, 2015, 19:21 pm JST
第4世代移動通信方式「4G」の次の世代の通信方式として、「5G」への取り組みが世界的に活発になってきている。通信機器ベンダーのノキアソリューション&ネットワークス(以下、ノキア)は、「ノキアの5Gビジョンおよび実現に向けた取り組み」と題した報道機関向けの勉強会を4月末に開催し、「5G」の現状と将来展望について説明した。ノキアでテクノロジー・ディレクターを務める赤田正雄氏が解説した勉強会の中から、注目すべきポイントを紹介する。
▼5Gのトレンドを解説するノキア テクノロジー・ディレクターの赤田正雄氏
まず、移動通信方式の「世代」について説明があった。第1世代(1G)はアナログ方式のるシステムだったが、1990年代の第2世代(2G)以降はデジタル方式に移った。2000年以降の第3世代(3G)からは、電話に加えてモバイルインターネットがアプリケーションに加わり、現在はさらにモバイルインターネットの高速化が進んだ第3.9世代(3.9G)から第4世代(4G)に向かっている。その先に来るのが、第5世代に相当するいわゆる「5G」というわけだ。まだ、標準化組織などで正式に「5G」としての標準化が行われている段階ではないが、4Gの次の「5G」には世界中が注目し、要件の定義から技術開発までが一気に進められている。赤田氏は「5Gでは、通話、高速なモバイルインターネットに加えて、IoT(モノのインターネット)やM2M(マシンツーマシン)が重要なアプリケーションになり、2020年以降に商用サービスの提供が始まる」と説明する。
▼移動通信方式は「世代」で大きく進化する
まだ標準化の具体的な作業は進んでいない5Gだが、システムの要求条件については、業界での合意点が見えてきている。5Gの要求条件には大きく3つの軸がある。1つはスループットの側面で、ピークデータレートで10Gbps、平均スループットで100Mbpsが望まれる。2つ目は信頼性の側面で、1ミリ秒以下の超低遅延性能や現状の1万倍といったトラフィックの処理などが挙げられる。3つ目はIoTやM2M用途への対応で、端末数が現在の10倍から100倍に膨らんだ際に、低コストかつ低消費電力な端末で10年のバッテリー寿命を実現するといったものだ。ITU(国際電気通信連合)では、2015年の半ばをメドに、次世代の移動通信方式のホワイトペーパーとなる「ビジョン勧告」を定める予定で、ビジョン勧告により5Gの要求条件が明確になると考えられる。
▼5Gの要求条件には3つの主要な軸がある
5Gの要求条件は、ピークデータレートや周波数利用効率の向上を目指していた3.9GのLTEや4GのLTE-Advancedなどと比べると、とても多岐にわたっている。これは、すべて同時に満たすのは難しい。実際に、「ユースケースごとに異なる要求条件に対して、すべてを同時に満足する必要はないと言う考え方が採用されている」(赤田氏)と言う。
5Gでは、システムの要求条件に沿った3つの主要な通信カテゴリーを想定している。IoTなど大量の端末が使われる「マッシブマシンコミュニケーション」、現行のLTEなどをより高速広帯域化した「モバイルブロードバンドの拡張」、自動運転車などの制御を支えることも可能な「超高信頼性・超低遅延コミュニケーション」の3つだ。これらは、カテゴリーごとに要求するスペックが異なる。実際には同時にすべての最高スペックを満たす必要はなく、カテゴリーごとに要件に対応するスペックを満たせばいいというわけだ。そして、これらの3つのカテゴリーの要件を大枠として1つにまとめたのが5Gの姿と考えればいい。
▼5Gの3つの主要通信カテゴリーの要求条件と、5G、4Gのカバー範囲
次に赤田氏は、「5G」に対して世の中にはいくつかの誤解があると指摘した。主に4つの誤解があり、5Gの正しい理解を妨げているという。
▼5Gへの4つの誤解
誤解の1つ目は.「5Gはミリ波に特化した技術」というもの。5Gでは高いピークデータレートを要求するため、広い周波数帯域を利用したい。しかし取り扱いがしやすい低い周波数帯は、すでに各国で様々な用途に割り当て済みであり、国際的に共通して広い周波数帯域を確保できるのは「使いにくかった高い周波数帯だけ」(赤田氏)という事情がある。そのため5Gの技術開発は、ミリ波帯(30GHz以上)などの高い周波数帯を中心に進められているのは事実だ。しかし、「5Gがミリ波帯だけの技術というのは誤解で、現行の低い周波数帯から、センチメートル帯(3GHz~30GHz)、ミリ波帯までを総合的に見て研究開発を進めている」(赤田氏)。
誤解の2つ目も同様で、「6GHz以上の周波数だけを使う」と受け止められていること。6GHz以上はこれまで技術開発や周波数帯の割り当てが行われていないため、その点がピックアップして注目されてしまうが、低い周波数も含めて5Gの開発が行われている。
誤解の3つ目は、「5Gは、これまでの移動通信方式とは異なる、まったく新しい技術」というもの。高い周波数帯に関しては低い周波数帯と特性が異なるために新しい技術も必要とされるが、「実際には既存の技術の組み合わせで要求条件を満たすような規格を作っていく部分も大きい」(赤田氏)と言う。
最後は、スケジュールの誤解で「2018年には商用化」というもの。これは「5Gを推進する国の1つである韓国が、2018年の仁川冬季五輪までに次世代の移動通信方式をショーケースとして実用化するとアナウンスしていることに起因した誤解。5Gで利用する周波数帯域は2019年のITUのWRC(世界無線会議)で割り当てが決まるもので、2020年以降の商用サービス提供が現実的」(赤田氏)と説明する。
「5G」の要求条件を満たすための技術として、赤田氏は「無線」と「ネットワーク、クラウド/NFV」の2つの側面に分けて説明した。
「無線」の技術としては、センチメートル波帯やミリ波帯といった、これまで通信であまり利用されてこなかった高い周波数帯への対応がポイントになる。
センチメートル波で検討されている技術としては、10Gbpsのピークデータレートを実現するために高ランクMIMOやスケーラブル帯域幅がある。さらにペアバンドを必要としないTDD(時分割複信)を前提することから、TDDの同期による制約を少なくするためにTDDの同期タイミングをダイナミックに変える「ダイナミックTDD」が開発されている。ノキアではシミュレーションで、ダイナミックTDDによりスループット向上や遅延低減に効果があることを示した。また、基地局数の増加に対応するため、現在は光ファイバーなどで構築しているバックホールの通信も、端末と基地局と同じ技術による無線通信を利用できるようにすることが考えられているという。
▼センチメートル波で、TDDのアップリンク「UL」とダウンリンク「DL」をダイナックにスイッチしたシミュレーションでは、スループットと遅延が改善
ミリ波帯では、高い周波数ならではの電波特性に対応することが、技術開発の核になる。ノキアでは、ニューヨーク大学との共同研究などにより、5Gで利用するミリ波帯の電波伝搬特性の測定を行ってきた。高い周波数の電波は遠くまで飛ばない上に、直進性が高い光に近い性質を示す。共同研究では、73GHz帯の電波伝搬特性を調べたところ、人体で電波が遮られる性質や、木立ちがあると20dBの減衰(100分の1)があることなどがわかってきた。
伝搬ロスが高く、セル半径が小さくなるミリ波帯で求められる技術の代表が、電波を端末に向けて絞り込んで送るビームフォーミングだ。波長が短いためアンテナそのものが小さく作れることで、多くのアンテナを集積したマッシブアンテナアレイが実現しやすくなる。マッシブアンテナアレイを使って、低消費電力のビームフォーミングを実現することが1つの課題となる。一方、高い周波数帯では帯域幅を大きく取れるので、高ランクMIMOは利用せず、2つの偏波面を使った2ストリーム程度の低ランクMIMOが適用できるとノキアでは見ている。
▼5Gの10Gbps無線伝送のデモが4月に実施
赤田氏は、研究開発の進捗状況として、ノキアとニューヨーク大学が共同で主催した「Brooklyn 5G Summit」(ニューヨーク、2015年4月8日~10日)の無線伝送デモを紹介した。「ミリ波帯の74GHzを使って2GHzの帯域幅で、2ストリームのMIMOと16QAMの変調方式を使って、10Gbpsの無線伝送に成功した。5Gの要求条件の1つである10Gbpsのピークデータレートが、実際の無線伝送で実現できた」という。
さらに赤田氏は、無線と並ぶもう1つの技術のポイントが「ネットワーク、NFV/クラウド」だと説明を続ける。「新しい技術というよりも、アーキテクチャ論で、5Gで要求される様々なサービスに対して柔軟なアーキテクチャが求められる。そのベースになるのはNFV、SDN」だと言う。
▼5Gに存在するトレードオフ関係
例えば、低遅延の要求に対しては、ネットワークを介した応答では難しいこともある。そうした要求に応えるために端末間で直接通信する「D2D」やローカルなゲートウエイで応答する仕組みなどが求められることを示した。「通信、遅延/信頼性、スループットの間はそれぞれが独立している。信頼性を一定にしてデータレートを向上させると、遅延は大きくなるといったトレードオフが存在する」(赤田氏)。すべてを同時に満たすことができないので、柔軟なネットワークアーキテクチャでアプリケーションごとに必要な要件 に対応する必要があるのだ。
▼クラウドを活用した柔軟なネットワークアーキテクチャを提唱
ノキアでは、柔軟なネットワークアーキテクチャの実現の1つの方法として、基地局までの無線アクセスネットワーク(RAN)も含めたクラウド化を提唱している。「Nokia Radio Cloud」と呼ぶ技術で、コアネットワークも無線アクセスネットワークも、クラウド化してしまうものだ。こうした技術を組み合わせた柔軟なネットワークアーキテクチャが、低遅延の要求に対してはモバイルエッジコンピューティングで対応しながら、10Gbpsのピークデータレートや大量なIoTデバイスの収容を実現する「5G」に有効なのではないかという考えを示した。
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