「ドローンで命を救う」Project Hecatoncheirがスタート 2年以内の実用化目指す
2015.09.10
Updated by Asako Itagaki on September 10, 2015, 15:30 pm JST
2015.09.10
Updated by Asako Itagaki on September 10, 2015, 15:30 pm JST
「Project Hecatoncheir」(以下ヘカトンケイル)は、医療、ドローン開発、クラウド技術、行政などの専門家による、より高度な災害・救急用ドローン×IT×クラウドを活用した自動無人航空支援システムの研究開発を行うプロジェクト。「救急の日」である9月9日、都内で記者発表会が開催された。
プロジェクト名のHecatoncheir(ヘカトンケイル)とはギリシャ神話に登場する「百腕の巨人」。50の頭と100本の腕を持つ巨人は、最終的にプロジェクトが目指す「人命を救う、人とモノを統合したひとつの大きなロボット」をイメージしている。
▼ヘカトンケイルの全体図(配布資料より抜粋)
プロジェクトリーダーの小澤貴裕氏(国際医療福祉専門学校 ドローン有効活用研究所 主席研究員)は、救急救命士としての活動の経験から、救命のための課題として「時間の短縮」を挙げる。
心停止からの社会復帰のための要件として「救命の連鎖(Chain of Survival)」という概念があるが、「現在の日本では「素早い通報」と「素早い心肺蘇生」が難しく、チェーンが切れてしまっている」と小澤氏。日本で通報から救急隊員の現地到着まで平均約8分半かかっている。早いように思えるが、心停止から8分半後の蘇生措置で、社会復帰できる可能性はわずか15%しかないのだ。
▼「救命の連鎖」
チェーンを繋ぐために、2番めの「素早い通報」を実現するためのアイデアが、センサーと位置情報を使用した自動通報だ。ウェアラブルデバイスによる心拍数計測やスマートフォンの加速度センサーにより、事故や心停止が発生したことを検知した時に119番に自動通報を行う。アラーム等で近隣に知らせることも可能だ。2016年度には全てのキャリアで119番通報には位置情報が付与されることになるので、即座に位置を把握できる。
位置情報がわかればドローンを飛ばしていち早く必要な医療機器を現地に運ぶことが可能だ。心停止時の蘇生に有効なAED(自動体外式除細動機)の配備は進められているが、適切な管理がされていなかったり、設置場所が夜間は立ち入れない公共機関だったり、適切に管理されておらずバッテリーが切れていることがあったりと、必ずしも使える状況ではない。通報位置にドローンでAEDを運び、同時にタブレットで医師が遠隔地から現地の人に助言をすることで、救急隊が到着するまでの間にも蘇生措置を行うことが可能になり、社会復帰の可能性は飛躍的に高まる。
「都市はガス、水道、電気などの血管系を既に持っているが、ヘカトンケイルは都市の神経系を作る。その神経の先にある手足が無人機やUGV(無人陸上車両)などで、システムはただ機体を操作するのではなくインターネットを通して統合制御する」と小澤氏は語る。そのためには、物を運ぶだけではなく、遠隔地や、人が立ち入れないような現場の状況を目視確認するなど、ドローンがさまざまな役割を果たす必要がある。
そのためには活動領域に合わせた複数の機体を用意する。当日会場でお披露目されたのは、いちから組み立てたマイクロドローンで、プロジェクトメンバーの岡田竹広氏(魔法の大鍋 マルチテクノロジークリエイター)が3年をかけて基盤から設計したものだ。100gから150g程度のペイロードで飛行時間は5分程度。オペレーターが操作して、屋内や近寄れない場所などの様子を俯瞰撮影し、使い捨て使用を想定する。
▼国産開発したマイクロドローン
▼室内を試験フライト
事故現場へのAEDなどの搬送には市販の中型から大型のマルチローター機ををカスタムして利用する。市販のドローンのほとんどは撮影を前提として製造されているため、そのまま機材搬送に使うと気流が遮られたりなどうまく飛べないのだそうだ。そのために専用のアタッチメントなども開発する。飛行距離3-5km程度のものを各地の救急隊拠点に配備し、通報があり次第飛び立つような運用を想定する。AEDと一緒にタブレットも飛ばし、現地到着後は拠点から専門家がカメラで現地の様子を確認しながら口頭で措置の指導を行える。
▼実証実験に使用しているドローン。現在はAEDをドローン本体に結びつけているが、「現場で外しにくい」などの課題が明らかになっている。
将来的には完全自律タイプでで長距離(50-100km程度)を飛ぶVTOL(垂直離着陸型輸送機)の導入も視野にいれる。既に海外企業と開発について交渉を開始しており、実証実験を通して要件を詰めていく。
▼千葉県で行われた実証実験。実際にドローンでAEDを運び、口頭指示を行った。
全体を制御するソフトウェアの開発にあたるのが大畑貴弘氏(株式会社リアルグローブ)だ。ヘカトンケイルのシステム全体はWoTのモデルで構成する。システムの頭脳にあたるコンポジションレイヤについてはプロジェクトや他業種との協業で実装し、シェアリングレイヤ(アクセス権やセキュリティにはEDO、ファインダビリティレイヤ(URLの管理)、アクセシビリティレイヤ(センサーや機器の制御)にはmonohubといったオープンソースのフレームワークやクラウドを活用する。
行政アドバイザーには佐賀県で救急車へのiPad導入やドクターヘリ導入を手がけた円城寺雄介氏、医療工学アドバイザーには東京医薬専門学校で医療機器の専門家である「臨床工学技士」育成に携わってきた沼田慎吉氏、ドローン導入アドバイザーにはドローン情報サイト「DRATION」を運営する稲田悠樹氏がつき、プロジェクトをサポートする。
「2020年の東京オリンピックの時には、ドローンが選手村で飛んで便利に活用されている未来図を描きたい」と円城寺氏。そのためにも、2年以内の実用化を目指し、近未来実証特区の申請なども視野にいれて実証実験を進めていくとのことだ。
▼プロジェクトメンバー集合写真。左から大畑氏、円城寺氏、稲田氏、小澤氏、岡田氏、沼田氏。
【関連情報】
・HECATONCHEIR
・Project Hecatoncheir(百腕の巨人プロジェクト)(Facebookページ)
※公開時、稲田悠樹氏のお名前を誤記しておりましたので修正しました。
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登録はこちらWirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。