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日本企業の顧客サービスは優れているようで実はそうでもない

Japanese customer services are not good enough

2015.09.24

Updated by Mayumi Tanimoto on September 24, 2015, 08:06 am JST

日本のテレビや雑誌では、「日本のここがすごい!」という番組が相変わらず流行っているようですが「デパートのお惣菜の盛りつけ方がすごい」とか「この台車を作った会社はすごい」とか「日本のトイレはすごい」というミミっちい自慢大会にあふれています。

なんとなくですけど「俺は左遷された脂っこいキモヲタ系だが八重歯だけはすごい」と自慢してしまう感じに似てる気がするんですけどね。

その日本自慢系に含まれるモノの一つに「日本企業の顧客サービスはすごい」がありますね。でもね、実際ほかの先進国に住んでみると、決して優れているというわけではないのがわかるんですよ。

まず、日本の場合、インシデント、細かい不具合、落ちる、繋がらない、間違った請求がない。エラー率は低いです。現場の優秀な人々が、自発的に考えたり勉強をしているからです。しかも、残業代が出ないのに自主的にやってくれる。

オペレーションの仕組みが、最初から現場の担当者の属人的な能力で問題をカバーする、という設計なので、管理者の仕事は楽です。マニュアルをみっちり作らなくても、監視しなくても、プロセスを作らなくても、現場で適当にやってくれますから。

日本は全体的な教育レベルが高い上、働く人も日本出身者がほとんどのため、職場のノウハウや暗黙知が伝わりやすいのも、サービスや商品の「全体的なレベル」をあげるのに役立っています。

しかし、一旦問題がおきた場合の処理の仕組みは、北米、欧州北部、オセアニアに比べると、まだまだだなあという気がします。

日本の場合、サービスや商品が属人的な努力の上で成り立っているのが前提なので、そもそも、役割の分担がはっきりしていません。プロセスもマニュアルもルールも作り込まれていないので、問題が発生した場合の責任者やルールが不明瞭な場合が少なくありません。プロセスやマニュアルはあったとしても、「エラーがないこと」が当たり前を前提として設計しているので、さらに対処方法を細かく作り込んでいません。

そんなことはおきないと考えている人が大半なので、プロセス作成やルール作成は無駄なことだと思われてしまう。現場で「こんなケースが想定されます」と提案しても、「そんな不謹慎なことはいうもんではない」「それがないように仕事をするんだろ」と言われてしまい、リスク管理人やプロマネとしては肩身の狭い思いをすることがあります。

製造業だと長年のノウハウの蓄積がある上、北米でかなり痛い思いをしているので対処が進んでいますが、効率化が進んでいるはずの通信業界やIT業界を含め、それ以外の業界は微妙です。

次に、顧客に対する説明責任を果たさない会社があまりにも多いです。

北米や欧州北部の場合、仕事が適当なのでエラーや遅延なども多いのですが、その代わり、問題が起きた場合、割と素直に「すみません」と謝罪の上、カクカクシカジカでこういう問題が発生しました、それにはこのように対処しました、その結果どうでした、また顧客満足度がこのように上がりました、という説明をしてくれます。

法人向けだと、サービス向上プロジェクトの担当者やチームを、写真付きの冊子で紹介したり、チームがプレゼンをしたりします。問題を「許されない間違い」としてではなく、Issue (課題)として扱っているわけです。

こういう風にみっちり説明したり、対応策に取り組んでいることをアピールする姿勢は、当事者が自分の責任を回避するため、実績を残して転職につなげるため、という目的もあります。しかし、こういうやり方を見ていると、「問題は起こるのが当たり前」という哲学がみえます。つまり、人間は最初から間違えると考えている。

問題を公開し、議論し、徹底的に揉むことでそこから学びましょうという姿勢が見えます。揉んだ後は、問題が起きない「仕組み」を作ります。「仕組み」でどうにかしようというのは、日本ではあまりやらないですね。

びっくりするのが、法人向けのサービスだけではなく、消費者向けでもこういう説明を丁寧にする企業が結構あることです。

例えばイギリスの場合、これが得意なのは航空業界や鉄道業界、公的サービスで、路上で配っている新聞に、発生した問題の対処状況や、何をしたということを広告にして説明したりしています。(しかもシリーズ広告)そんな説明する前にちゃんと仕事しろといいたくもなりますが、間違いを認め、きちんと説明し、前向きに取り組む、という姿勢は、サービスを受ける側からすると、何がどうなったのかわかるので、なんとなくその企業に対する信頼感と親しみがわきます。

三番目に、これ意外なんですが、北米、北欧州の職場では、エラーとかミスをしたらガンガン怒られそうなイメージがありますが、間違えた人がわりと正直に「俺がやりました」というのが珍しくないことです。最初から悪意があったことや、ルール違反のことだと別の話なんですが、単純な操作エラーとか、ルールを知らなかった、というようなことだと、わりと簡単に謝ってしまう人が少なくないです。

周囲がそれを責めるかというと、そんなことはありません。ルールを犯したり、犯罪に手を染めたわけではないので、「ああしょうがないね。俺も間違えるし。誰も死んでないし」で終わりです。

部下がそんな間違えをしてしまった場合、怒りまくる上長というのも、相当ブラックな会社をのぞいて見当たりません。

「よし、そんなことがあったのか。教えてくれてありがとう。つまり、このシステムは、今のインタフェースだと、ボタンをうち間違えやすいということだね。みんな、いい勉強になったな。もう一回システムの使い方のトレーニングをやろう。あとインタフェースのデザインを変えような。そのためのプロジェクトの予算を取ってくるから」

なんてことをいいながら、間違えた人をティータイムに読んだり、パブで飲んだりする上長が結構います。

間違えた人を叱責するとパワハラで訴えられるというのもあるんですが、日本の組織に比べると、人に対する言い方や、その人の気持ちを考えて、傷つけないように、しかし、チームや部署の士気を高めつつ、別のエラーが出ないようにする「仕組み」を作るという管理職が結構います。強いラグビーチームやサッカーチームの監督やキャプテンのような感じです。ミスを責めるのではなく、どうしたらそれはなくなるか、どうしたら全体が良くなるかを考えている。モノの言い方、チームの士気を鼓舞する雰囲気作り、「仕組み」作りの設計の点では、北米や北欧州にはそういう管理者がいます。日本はあまりいないです。叱責したり、お茶を飲んでスポーツ新聞読むのが仕事だと思っている。

四番目。日本の企業であまりないのが、クレームを入れた顧客に対する賠償です。

顧客がどんなクレームを入れたら、どんな賠償を提供する、というルールやプロセスがはっきりしていないのか、日本の企業だと、延々と謝罪されるべきで「何もくれない」というのが珍しくありません。しかし一見ケチそうなイギリスの会社や北米の会社は、わりと簡単に賠償をくれたりするので驚きます。

例えば、私が実際体験したのは、あるファーストフードの店のお寿司のご飯があまりにも硬く、本来の寿司とはかけ離れた食べものだったので、ご意見窓口に「ご飯が固すぎるので本来の寿司とは違う」というメールを出したら、すぐに返事が来た上に、お店で使える食券を送ってきてくれたこと。

社長直々のメールだったので本当に驚いたのですが、単なる感想もある意味クレームとして処理して対応するプロセスがあるのだなあ、と感心したのです。

そのほかにスーパーで停電があったので金券をくれる、カフェで料理が来るのが遅かったからコーヒー無料になってしまう、バスの料金支払機が壊れていたので料金無料、通勤電車が30分遅れたのでチケット料金全額払い戻し等々。法人向けサービスでも例が多数あります。

ケチなのか、適当なのか、訴訟が怖いのか、それとも単なる顧客サービスなのかよくわかりませんが、とりあえず、「ごめんなさい」を繰り返すだけではなく、代わりや賠償をくれるというのには、最初はずいぶん驚きました。なんだか大さっぱだなあと。

しかしよく考えたら、商売というのは、「お金とモノやサービス」の交換に過ぎないので、「ください」といわれたものをあげられなかったら、別のものを提供する、というのは、商取引きとしてはごくごく当たり前のことなのですけどね。現場の人の裁量権が大きかったりするのも驚きます。日本だと上に聞かないとわかりません、を繰り返す人が多いので。おわりよければ全て良しというか、お客も働く方もハッピーなら細かいことはいいや、という感じなのかなと思います。

エラーを限りなくゼロにする代わりに大問題が発生しても対処しないのか、それとも、普段間違えてばかりだけどいざという時にはっとする対応をするのか。どちらが良い顧客サービスなんでしょうか。

少なくとも、後者に慣れている人は、何か大問題が起きた際に前者のやり方をされたら激怒します。つまり日本式がどこでも通用するわけではないということです。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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