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ドローンの飛行制御通信のセキュリティ強化技術、NICTなど開発

2015.09.29

Updated by Asako Itagaki on September 29, 2015, 10:20 am JST

情報通信研究機構(NICT)は、株式会社プロドローン、株式会社サンエストレーディングと共同で、ドローンの飛行制御通信の安全性を強化する技術を開発した。ドローンと地上局の間で共通鍵を用いて、演算が単純で処理能力が低くても遅延が発生しない処理が可能な方式で制御通信をパケットごとに暗号化を行い、共通鍵の地上局での受け渡しには量子鍵配送ネットワークを利用することで、複数の地上局間で安全に飛行制御を引き継ぎながら、ドローンを広域で飛行誘導するセキュア制御通信技術を開発し、その実証実験に成功した。

ドローン技術の急速な進歩に伴い、さまざまな分野での利用が広がっており、安全性対策が喫緊の課題となっている。特に遠隔制御に使われる無線通信については、現状は標準的な暗号化対策も行われていないケースがあり、乗っ取りや情報漏えいが懸念されている。また、目視圏外での飛行制御のためには複数の地上局のと通信を前提とした安全な制御通信技術の確立が求められる。特に、警備や国家安全保障関連分野では、ドローンと地上局間の制御通信の安全性とデータ通信の秘匿性を抜本的に高め、かつ、広域にわたって安全に飛行制御する技術が必須とされている。

今回開発された技術では、ドローンの制御には、シリアル通信の制御信号をパケットごとに異なる真性乱数を一度きり使用の暗号鍵として用いて暗号化する(ワンタイムパッド方式)。暗号化は真性乱数と制御信号パケットの単なる足し算なので複雑な関数や膨大な計算が不要で、低速処理の安価なデバイスでも処理遅延のない安全な制御通信が可能になる。

▼暗号鍵の供給とワンタイムパッド暗号化による飛行制御。ドローンの飛行時間が短ければ十分な数の真性乱数をUSBメモリーに格納できる。
20150929-drone-nict0a

ワンタイムパッド方式なのでドローンは複数の暗号鍵を搭載する必要があり、ドローンの飛行区域が複数の地上局の管轄にまたがる場合は、複数の地上局間での暗号鍵の受け渡しが必要になる。その方法としては信頼できる配送サービスによる人の手渡しによる配送(第一世代)と、量子鍵配送ネットワークによる自動配送(第二世代)がある。NICTでは、2つの飛行制御エリアA、B間で安全に制御通信を引き継ぐ第一世代システムの実証実験に成功した。さらに、NICTが管理運営する量子鍵配送(QKD)ネットワーク「東京QKDネットワーク」で配送された暗号鍵を2つの地上局に供給し、飛行制御を引き継ぐ第二世代の実証実験にも成功した。

▼ドローン広域セキュア制御通信システム。
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▼異なる制御通信エリア間の暗号鍵引き継ぎのイメージ。
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第二世代の量子鍵配送ネットワークを活用する方式では、複数の地上局とドローンで構成されるネットワークシステム上で、乗っ取りや情報漏えいを防ぎながら動的に飛行エリアや経路選択と制御を行うシステムが簡易な方式で実現できることになる。実験はドローンの制御範囲をNICT構内に限定しているが、将来の広域セキュア制御通信技術に必要な原理が実証された。

今後開発チームは地上の暗号鍵配送に信頼できる宅配サービス等を利用する第一世代システムを2年以内に商品化する予定。また、第二世代システムの研究開発を引き続き続ける。さらに、従来の電波による方式のほか、レーザー光を使った大容量かつ安全なデータ通信ネットワークを実現するための研究開発にも積極的に取り組む。

【報道発表資料】
ドローンの通信の安全性を強化する技術を開発 ~量子鍵配送ネットワークからドローンに暗号鍵を供給し、安全な飛行制御通信を実現~

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。