capture image: ドローンによる高精度な3次元測量(コマツレンタル Komatsu Rental)
コマツ 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家 千佳史氏(後編):IoTの力で建設業を輸出産業に
日本のIoTを変える99人【File.009】
2016.01.22
Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on January 22, 2016, 08:00 am JST
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コマツのスマートコンストラクション(SMARTCONSTRUCTION)により、「全てをつなぐ」ことによる現場の見える化と施工結果のデータ化が可能になる。だがメリットを最大限に活かすためには、まだまだ課題は多いという。前編に続き、同社執行役員の四家千佳史氏に話をうかがう。
(前編はこちら)
建設現場とITはこれまで少し離れていたかもしれません。建設業というのは工程ごとの分業制で、さらに元請け、下請けという複層構造になっています。設計やICT建機など、一部のIT化は進んでいるのですが、それぞれの工程ごとに関与する人も違うので、つなぐことなど考えもしなかったということではないでしょうか。スマートコンストラクションで「全てをつなぐ」という発想は、建設業界にとってはパラダイム・シフトになるかもしれません。
課題となるのは通信で、屋内ではないので配線でつなぐことはできませんので無線となります。無線の通信コストが下がってきたというのも、スマートコンストラクションが実現できるようになった理由の一つです。KOMTRAXのサービスを開始した当初は、建機は通信衛星を使って9600bpsで接続されていました。車載コンピューターにはさまざまなデータが貯まっていましたが、通信費も高いですから、サーバーに送るデータは厳選していました。今は高速モデムを積んでいて、ICT建機のデータは3G接続で、施工管理システムは画像を送りますのでLTE接続を使用しています。3G接続は位置情報の補正情報の伝送にも使用します。施工管理のための位置データは、衛星測位だけでは誤差が大きいので、補正情報によってプラスマイナス3cmの精度を実現しています。
いずれにせよ、システム上を流れるデータは、基本は座標データなので、それほど複雑なものではありませんが、データが改ざんされないようなセキュリティ対策が重要となります。
施工検査のために、施工業者は、工事の節目で写真を取り、測量データを取り、大量のドキュメントを提出します。それはしっかりと要求品質通り作ったという証で必要なものですが、大変な労力がかかる作業でもあります。違う形で施主に信頼されるようなデータがあれば、楽になりますよね。スマートコンストラクションでは、建機が動いたところ、他社が掘ったところが逐次3Dデータ化されていますから、こういうデータを納品物として認めてもらえれば大きく効率が上がります。
改ざん対策はセキュリティ以外の面でも重要です。2015年にはマンションの杭打ち工事のデータ偽装が大きな社会問題になりました。あれは建築の話ですから、土木とは直接関係ありません。でも、我々建機メーカーとして、発注者の方に信頼されるデータづくりをしっかりとしなくてはいけないし、建機メーカーとして、データが改ざんされて施主に渡されるようなことがないような対策は必要だと改めて感じました。
データによる施工検査報告を普及していくためには、国土交通省に工事の管理基準を、ICT化された新しい施工に対応するように整備していただく必要があります。もちろん自治体ごとにも独自基準がありますが、おおむね国土交通省のものに準拠しています。
今までの管理基準と新たな管理基準の大きな違いは、従来は「点」の管理だったのに対して、「面」の管理が可能になったということです。工事現場全体の状況を見るには「点」よりも「面」で管理するのが良いというのは誰でも分かることですが、これまでは技術がなかったので仕方なく「点」で管理していたのです。考え方を根本的に変えることになるので、難しいことではありますが、技術に合わせて「面」の管理に変え、基準も変えていけば検査する方も楽になりますし、効果的にできます。
▼施工範囲を見える化。内容は現場のスマートフォンやタブレットからいつでも確認できる。(図版提供:コマツ)
測量も同じで、現在、ドローンによる測量は認められていないのですが、これを国土交通省に認めてもらえれば、土量把握のための測量が大幅に効率化されますし、安全性も高まります。
ここまで技術が変わるタイミングはそうそうありません。スマートコンストラクションによって施主も、施工業者も、我々のような関連業界も、みんながハッピーになる話です。20年前であれば建設労働者の雇用が失われることが問題だったかもしれませんが、今は逆に人不足が問題になっています。国としても建設業の生産性の向上や、非常に厳しい職場環境という課題が解決できるので、皆にとって良い話ではないでしょうか。
▼ドローンによる三次元測量
そういう話をしても、あまりにも変わりすぎるのですぐにはピンと来ないという方も多いのですが、弊社のお客様で本質を理解された方の中には誰一人「必要ない」という方はいらっしゃいません。いつからできるんだ、全部できるのか、という前向きな期待を感じます。皆が困っていたけれど、漠然と困っていてどうしていいか分からなかったんでしょうね。
工場でいえば、ドイツのIndustrie4.0などに比べると日本は「つなぐ」という点で遅れをとっていると言われますが、建設工事の現場をつなごうという発想は私の知る限りドイツにもアメリカにもありません。日本国の競争力を上げるためにも、建設業が変わるということには夢を感じます。
スマートコンストラクションの海外展開ですが、コマツはグローバルに商売を展開していますから、もちろん計画はあります。ただ、今はとにかく日本でノウハウをためていくことを優先しているという状況です。日本の土木工事のうち、スマートコンストラクションでやっているのはまだ1%にも達していないと思います。国の情報化施工の政策としては2020年までに30%まで拡大としていますから、相当な急拡大をしなくては目標達成できません。
拡大のための阻害要因があるとは考えていません。お客様に理解いただき、使っていただくことだけだと思っています。生産性が完全に上がらないような工事もあるかもしれませんが、そういうものについてはノウハウを蓄積して生産を上げていくことが課題です。
この先、高度成長時代に整備された日本中の社会インフラが更新時期を迎えます。その時にはスクラップアンドビルドで工事が必要になります。オリンピック需要が終わっても、建設投資が大きく増えることはないでしょうが、減ることもないでしょう。しかし労働人口は減ってしまいます。その時にはスマートコンストラクションが役立つはずです。
今後の課題は「より広く、より正確に、より早く現場を見える化する」ことです。日本の現場は狭いので、車載カメラでも撮影できますが、もっと広い現場になると撮り続けることは難しくなります。ドローンによる測量が必要になりますが、今のドローンは長時間飛ばして撮影し続けられるような安定性はまだありません。広大な現場を常時監視できるような技術に取り組まなくてはいけません。
また、測量によって計画を立てても、土質や地下の埋設物などが工事全体に対して大きな変動要因となります。こういったものを簡易に判別できる技術を探しています。
スマートコンストラクションで業界全体の構造が変わるかというと、労働人口が減る中で構造変化を起こす引き金にはなるかもしれません。でも、どうなるかは正直なところ、分かりません。
それは「IoTで世界が変わるか」といってもよく分からないのと同じことで、いろいろなものがつながるというのはもはや必然です。IoTというのはインフラで、その上で仕事のやり方が変わったり、新たなものが生まれたり、実現できなかったことができるということが重要です。まずつないでみて、進めることで生まれるものがあるはずなのに、「何ができるか」を提案しないと普及していけないことは残念です。
KOMTRAXの開発を決めた坂根(坂根正弘相談役、元代表取締役社長)は、「ATM破壊に盗難建機が利用されたことを痛ましいと思い、盗難防止のために作った」と言っていますが、当時は今の機械稼働管理システムまでは考えていなかったのだと思います。最初の発想は、「売った建機がつながることはすごい、そこから何かが生まれてくるんじゃないか」というところから始まり、そこから、盗難防止や、稼働状況の管理といったアプリケーションが生まれてきたのでしょう。
IoTってそれでいいと思うんです。最初はIoTが目的化して始まっても、整備されたらそれを手段として何かをすればいい。コマツはもともとKOMTRAXで基盤があったので、スマートコンストラクションでIoTを手段として使っています。つなぐことにマイナスは無いはずで、変わらないか、大きく変わるか、それだけの違いです。
将来は、建設業を日本の産業の中でも皆が「仕事に就きたい」と思う産業の一つにしていきたいと思います。なおかつ、つないで生産性を上げることで、少子化が進む日本の課題解決に寄与して欲しいです。いち早く国をあげて取り組むことで、国際的な競争力もつきます。日本の建設業は、技術はすでに世界一なのですから、あとは効率の問題です。安倍政権の「新・3本の矢」の一つとしても、建設業に国際競争力がついて輸出産業になるのは夢がありますね。
カメラで撮影して見える化することで可能性が広がる産業としては、農業や林業も可能性があります。コマツは林業機械も作っているし、農業土木もやりますから、そういう意味でも企業として取り組んでいくことができます。これらの産業は、危険、若い人がなかなか入ってこない、生産性の向上という共通の課題を抱えています。こうしたところを変えていけるのは、企業としても意義があると思います。
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