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SEとは「何もできない人」のこと

SE is a one who cannot do anything

2016.01.28

Updated by Mayumi Tanimoto on January 28, 2016, 08:00 am JST

大原ケイ様

新年もとっくにあけ、クリスマスも終わってしまい、鬱なのでガルパンを見ながらマグナムを舐め舐めしております。この食の不毛の大地イギリスにて、唯一素晴らしいと思えるのはマグナムです。マグナムとはちなみに巨砲ではなくて、アイスです。

IT業界もさして事情は変わりません

さて前回の書簡は、結構衝撃的な内容でした。

ゼネラリストばかりで「プロ」がいない出版界

厳しい編集方針で知らられる雑誌New Yorkerが日本のある作家さんへの作品掲載を持ちかけたのにも関わらず、「多忙だから」と編集者が依頼を断った、というトンデモなお話です。New Yorkerに掲載されればグローバルマーケットにリーチしたようなもので、その作家さんにとって世界的な飛躍となることは間違いありません。

日本の出版業界は分業が進んでおらず、編集者にあれもこれもやらせるそうです。そのため自己研鑽する時間はない上に、専門技能を身につける暇も体力もない。結果、コンテンツを作る人と会社の他の部署の間を往復する伝書鳩の仕事しかできない「何もできないジェネラリスト」としての編集者ができあがっていくというわけです。

このバカ編集者も、実はそもそも編集者でも何でもなく、他の部署から定期移動で回されてきただけの人かもしれないし、そもそも、編集という仕事には興味がないのかもしれません。だから海外市場のことも何もわかっておらず、ビジネスチャンスを逃してしまう。

私が思うに、このバカ編集はIT業界と通信業界における「SE」に該当します。

SEとは何かというと、大手だと要件定義書の枠にゴニョゴニョとなにか書いて、会議に出て「これやっといて」と下請けに投げる人。要するに「何もできない人」です。

中小だと開発からテストからお客様の悩み相談から会計から人事からプロマネから全部やる「何でも屋」。ただしこの場合も「何もできない人」です。なぜなら担当業務が多すぎる上、どの業務も専門ではないので、仕事のレベルは低いからです。

英語圏だと「何もできない人」のコスト計算はうまくできませんし、業務管理が面倒なので、徹底的に分業します。足りない「機能」は他のところから買ってくる。だから「機能」の入れ替えは簡単です。

働く方は「機能」ですので、どこの組織で働こうが、やることは同じですし、報酬も大体同じです。なにせ車の部品のようなものなので、空いている所があればそこにはめるだけ。

「機能」なので、コスト計算も労力の計算も簡単です。管理する方も楽、お客も料金は明瞭で楽、働く方も楽。全員ハッピーな仕組みです。

ですから、そもそも「SE」という職業がありません。

インドにも中国にもロシアにもブルガリアにもイタリアにもボリビアにもルーマニアにもナイジェリアにもそんな職業はありません。モルドバでさえ「機能」方式で仕事しているのです。つまり「機能」方式は今やグローバルに近いということです。何も英語圏や欧州先進国だけの話ではありません。

日本の働く仕組みが「何もできない人」を生み出している

この事情を知らず「英語圏の方が仕事が楽だ」と聞いた日本のIT業界の人々から、「海外転職したいから履歴書を見てくれませんか」と頼まれることがあります。差し出される履歴書には、英語圏だと一秒で「何もできない人」と思われてしまう経歴が、ブロークンな英語で並んでいます。(結局すべて書き直しになるわけですが)

どこの有名大学を出ていようが、どんな有名企業に努めていようが関係ありません。そんな仕事はないのだから「何もできない人」と言われておしまいなのです。

日本のIT業界が微妙なのは、この「何もできない人」が大勢いるからです。各自の能力ややる気は優れていても、働く仕組みが「何もできない人」を生み出すようになっている。本人がどう思っていても、「何もできない人」になってしまう。

こんな仕組みのところには、外国から優秀な人間はやって来ません。付加価値のある技能を磨けるわけでもないし、長年いたら何もできない人になってしまうからです。

健康保険や医療自己負担が上がり、年金が減額され、給料が下がり、付加価値税が北欧並になり、物価も上がる、となった場合、職を求めて外に出ようとしても、雇ってくれるところはありません。

これはゆっくりとした自殺です。

ところで、大原さんからの書簡で気になったのは、「編集者が、作家への依頼を勝手に断ってしまった」という点です。英語圏では作家だけではなく、歌手や画家など、コンテンツを作る人々は、自ら交渉人や宣伝屋を雇って商売をやりまます。あくまでコンテンツを作る人の力のほうが強く、周辺にいる人々は寄生虫の様な存在に過ぎません。しかし日本では寄生虫の方が力が強いことが往々にしてあります。

日本だとなぜこうなってしまうのか、長年疑問なのでありますが、英語圏のコンテンツ業界に長年身をおく大原さんはどう思われますでしょうか?

少なくとも、私は、SMAPの会見を見て、日本では作る人間というのはアリンコ以下の存在であり、寄生虫の怒りを買うと海にコンクリで沈められる存在なのだと自覚した次第です。

ところでSMAPは南米には逃げないのでしょうか。

 

 

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連載企画「往復書簡・クールジャパンを超えて」は、マガジン航[kɔː]とWirelessWire Newsの共同企画です。マガジン航側では大原ケイさんが、WirelessWire News側では谷本真由美さんが執筆し、月に数回のペースで往復書簡を交わします。[編集部より]

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。