original image: © Ruslan Ivantsov - Fotolia.com
自動運転車のAIが「ドライバー」であるとした米国運輸省の回答の意味(前編)「NHTSAの発表は無人運転車に関するFMVSSの解釈を示しただけ」とは
2016.03.17
Updated by ロボット法研究会 on March 17, 2016, 11:11 am JST
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2016.03.17
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米国運輸省の国家道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration; NHTSA)が、今年の2月4日、グーグルに対し、自動運転システム(Self-Driving-System; SDS)、すなわち人工知能(AI)がドライバーとみなすことができると公式に回答したとして、話題になった。このNHTSAの回答の意義について、前後編に分けて考察する。
FMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standards; 米国連邦自動車安全規則)には、自動車にハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル等を設置すべきこと、そしてそれらを基本的に「運転者の座席位置(driver’s seating position)」の付近に設置すべきことなどが定められている。
グーグルは、昨年11月12日、NHTSAに対し、グーグルの完全自動運転車においては、何がこれらのFMVSS上の「運転者(driver)」や「運転者の座席位置(driver’s seating position)」に該当するのかについて、個別の条項ごとに多数の質問をした(なお、今年の1月11日に、補足の情報を追加で提出しているようである。)。
グーグルは、レターの中で、いくつかのあり得る解釈を示していたという。
例えば、「運転者(driver)」については、
1) グーグルの完全自動運転車のような運転者が存在しない車においては、「運転者(driver)」という概念は意味がなく、「運転者(driver)」に関する規定は一切適用されない。あるいは、
2) SDSすなわちAIが「運転者(driver)」である。
との解釈を、また、「運転者の座席位置(driver’s seating position)」については、
搭乗者が車を操作するか否かにかかわらず、車の左側かつ前部座席位置を指す
といった解釈を、NHTSAに対して求めていた。このような解釈により、グーグルの完全自動運転車もFMVSSをクリアし、正々堂々と公道を走行することを狙うものだ。
NHTSAの回答は、非常にクリアである。まず、グーグルの現在の完全自動運転車の仕様やデザインを変更することなく、現行法令に基づいて公道を走行させるというグーグルの目的との関係で最も重要なこと、つまり結論が、「はじめに(Introduction)」に明記されている。
NHTSAの回答として、重要なことは、SDSすなわちAIを「運転者」だと解釈したとしても、グーグルの質問は完結しないし、(グ―グルの完全自動運転車を公道で走行させることができるか否かという)最終的な結論を決するものではない。
特定の基準やテストとの関係でSDSが「運転者」だとみなされたとしても、SDSが有人自動車のために作成された基準に合致するか否かを、グーグルがどのようにして認証するかが次の問題となる(筆者注:これは、現状のルールのままでは認証できないということであり、すなわち公道走行を容認できないという意味である)。
これと関連して、NHTSAとしては、現行の基準を、完全無人運転車の法令適合性を認めるものとして解釈するためには、まず何より適合性の審査基準または他の審査方法がなければならない。
(中略)
グーグルの解釈の多くは、法解釈の範ちゅうを超えた、政策論であるため、(解釈以外の)他の手法やアプローチによる対応が必要だということを明確にしておきたい。
一言で言うと、NHTSAは、グーグルの解釈を取ったとしても、現行の規則のもとでは、グーグルの現在の完全自動運転車を公道で走行させることはできない、という結論を明確にしている。
NHTSAは、本論の中においても、SDSすなわちAIを「運転者」だと解釈したとしても、必ずしも規制上遵守すべき条件を変更することにはならないし、グーグルが対処したいと考える問題を十分には解決しない、と述べている。
ただし、
個別の条項の解釈の前提として、NHTSAは、グーグルの完全自動運転車のデザインに関しては、「運転者」に、搭乗者ではなくSDSが含まれると解釈する。
(中略)
もし搭乗者が自動車を運転できないのであれば、現実に運転をしている「何か」を「運転者」とみることには合理性がある。このケースでは、現実に運転をするのは自動車の機器の1つであるSDSである。
として、一般論としてSDSが運転者に該当することの合理性にも言及している。
少しだけ具体例を見てみよう。
まずはブレーキである。FMVSSによれば、自動車のブレーキは、足により作動されなければならず、サイドブレーキは、手または足によって操作できなければならない(FMVSS No.135)。グーグルは、この規制はグーグルの完全自動運転車には適用されないと主張していた。
しかし、NHTSAは、FMVSS No.135との関係ではSDSが「運転者」とみなされることは認めつつ、「足により作動される」「手または足によって操作される」との明瞭な文言からは、グーグルの完全自動運転車はFMVSSに適合しないと述べている。SDSすなわちAIは、手や足を持たないためだ。「運転者」の法解釈のみによっては、実質的な法規制の枠組みまたは明確な条文の文言を変更することはできないというわけである。
FMVSSによれば、自動車は、方向指示器の操作ユニットを装備していなければならない。そして、方向指示器の操作ユニットは、「操作者(operator)」により操作できるものと定義されている(FMVSS No. 108)。
グーグルは、グーグルの完全自動運転車においては、SDSが方向指示器を操作する(人間が操作するための方向指示器の操作ユニットがない)こと、そして、搭乗者が方向指示器を操作することは、SDSによる自動操作に比べて、安全面で劣ることを主張していた(グーグルは、ハンドル操作についても、人間に操作させる方が危険となり得るとの主張をしていたようである。)。
この点に関し、NHTSAは、SDSが、方向指示器の操作ユニットの「操作者」にあたると解釈すると回答した。
このほか、方向指示器に関しては、FMVSSにおいて、ハンドルの回転により、作動している方向指示器が自動的にキャンセルされる(右左折後にハンドルが戻る際に自動的にウィンカーがキャンセルされる)こと及び手動でキャンセルできることも求められている(FMVSS No.108)。グーグルは、NHTSAに対し、グーグルの完全自動運転車にはハンドル(Steering Wheel)はないが、SDSにより制御されるステアリングラック(Steering Rack)の位置に基づいて、方向指示器がキャンセルされる構造になっているため、FMVSS No.108に適合していると主張していたようだ。
これに対し、NHTSAは、グーグルの完全自動運転車の方向指示器のキャンセルの仕組みが、FMVSS No.108の策定当時にハンドルのない自動車があったとすれば、NHTSAの意図に合致したであろうと述べつつ(筆者にはこれが大いなるリップサービスに読める)、仮にそうだとしても、「手動でキャンセルできること(cancellation by a manually operated control)」との明瞭な文言を乗り越えることはできないと回答した。
なお、興味深いことに、NHTSAは、この点に関して、FMVSS上、ハンドルは明示的に要求されていないことも認めている。
このほか、NHTSAは、複数のFMVSSの規定に関して、それぞれSDSが「運転者」または「操作者」に該当することを認めている。「AIをドライバーと認める」との報道は、NHTSAの回答のこれらの部分に関するものである。
ただし、これらは、あくまで、FMVSSという安全基準の特定の条項に適合するか否かの判断をするという目的との関係において、SDSを「運転者」または「操作者」に該当すると解釈できると述べたものに過ぎないし、上に述べたとおりグーグルの完全自動運転車を公道で走行させることを認めたものではない。グーグルの目的の実現のためには、例えば、ブレーキに関し、「足により作動される」「手または足によって操作される」という文言の変更をしなければならないなど、FMVSSの改訂が必要であり、そのためには多くの時間と議論を要する。
日本の国土交通省自動車局国際業務室室長が、2月18日に、「NHTSAの発表は無人運転車に関するFMVSSの解釈を示しただけで、現段階で運転者がいない無人運転を容認したのではない」と釘を刺したのは、このような趣旨だったと考えられる。
(後編に続く)
文:波多江 崇(弁護士)
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