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ショーンK事件から考えるエンジニアに必要な英語

The substance is more important than style

2016.03.21

Updated by Mayumi Tanimoto on March 21, 2016, 09:32 am JST

報道ステーションのコメンテーターだったショーンK氏ことオッペケペー川上氏の経歴詐称疑惑が話題です。

テレビで時々お見かけして「素敵だわ」と思っていたりしたのですが、シークレットブーツを履いていたということを知り、胸の高鳴りを感じています。

あの声で「シークレットブーツを下さい」といったのか、履いていた靴下はやはりスケスケのビジネスソックスだったのか、など想像しています。

ところでハーフでもなく留学経験もないのに英語でラジオDJをやっていた同氏の英語力に驚いている人も少なくありませんが、通信やIT業界の人々が同氏の英語を参考にすべきどうかはよく考える必要があります。

まずは同氏の英語を、ロンドンの大学で経営学を教えている我が家の家人に聞いてもらいました。

家人はイギリス北部の炭鉱町出身で、大学の同僚や上司、学生は世界各国出身なので、様々な英語に触れています。

 「ショーンK氏の英語は米国のラジオDJを聞きながら自己流で身につけたのではないかな。日本語と英語はかけ離れた言語なので、日本人が英語を身につけるのは本当に大変だから、彼は本当に努力したんでしょう。努力したこと自体と、留学や英語圏の在住経験がないのにここまで話せるようになったのは評価されてもいいと思う」

「しかし残念ながら、本当のアメリカ英語とは違う『米国風訛り』に日本語訛りもあるので、英語としては聞きにくいし、ビジネス向きではなくあくまでラジオDJ向きの話し方だと思う。語彙や表現などはフォーマルな教育を英語圏で受けたことがないことがわかる。MBAや経営学を履修した日本人の英語ではないことはすぐにわかる。文章や単語がはっきりしない。ネイティブの英語とは全く言えない」

私はショーンK氏の氏の英語を聞いて、英語で実務をやったことがない人が「うまい」と思いがちな英語の典型だと思いました。Twitterを見ていたら日本の企業幹部や海外ビジネスのコンサルティングをやっている人達が、次々に「完璧な英語!」と絶賛していましたが、この人達は外国とのビジネス経験があまりないのだな、と感じました。(その割には国際ビジネスとか海外のことを語っているのですが何者なんでしょうか)

しかし私もかつてはそういうDJ風英語が「良い英語」だと思っていました。

私はアメリカに学部の交換留学と大学院学位取得のために留学しています。しかし大学では同級生や先生方はむしろ「ゆっくり」「はっきり」とした英語を話すことを知って驚きました。

インターン中に見学に行ったワシントンDCのシンクタンクや世界銀行、国際的な会議、大企業のカンファレンスでもDJ風の英語を話す人が全然いないのです。

凄まじい巻き舌のエジプト式英語、カタカタした感じのペルー式英語、古式ゆかしい表現の交じるスリランカ式英語、鼻声な感じのフランス式英語など様々な訛りの英語が飛び交っていました。

在米歴の長い人も、世銀やIFMの高官も、学者もお国訛り丸出しで、全然流暢な感じがしませんでした。

大学の先生の場合は訛りがひどすぎて一体いつが宿題の提出日がわかりません。でも先生に「貴様のエジプト英語は意味不明」とはいえません。

イタリア人やボリビア人の場合は「俺の素晴らしいイングリッシュが理解できないあいつらが単にバカ」と逆ギレします。

実務に入ると「はっきり」「ゆっくり」の英語の重要性をさらに実感することになりました。

それには理由があります。実務や研究ではいくら英語の発音が流暢でも、話す内容がおかしければ同僚も上司もお客様も相手にしてくれません。多少訛りがあっても重要なのは話す内容と意志を伝えること。

DJ風の英語でも、プロジェクトの参加者に納期やシステム構成が伝わらなければ仕事は進みません。訛りのある英語でも顧客や部下を説得できれば問題はありません。

例えば以下はロンドンの現場での実際の会話です。

ありす:へい、ぺどろ。でぃぢゅーふぃっくすざいんしでんと?あいはふつーらいとあれぽーと。とーくつーのっく(NOC)がいず?おけ?

ぺどろ:いえーす、おけー。のーぷろぶれむ。あっぷあんどらんにんぐ。めっとざたーげっと。まいくういるびはぴー。

ありす:ぐっど。さんくす。らぶりい。しーゆーれたー。ちゃお。

アリスさんもペドロさんもどちらもネイティブではなく、アリスさんは広東語訛り、ペドロさんはスペイン語訛りの英語を話し、DJ風の英語とは程遠い、なんとなく、「カタカタ」した感じの英語です(表現がちょっと難しいのですが、そんな感じです)

彼らの周囲も非ネイティブが多いので訛りは問題になりません。表現もとてもシンプルです。なにせ現場は忙しいのでシンプルな方が歓迎されるため、英語が単純化されます。

得に相手がモルドバとかトーゴ、イラクやアフガニスタンだと

「わいやすとーるん。わい?」

「さいとわずぼむど。でっど。ぴーぽー。あいしー。いえす。のっとぐっど」

「かぷっと?あげいん?うぇんとほーむ?わったいむ?ゆー、わーく、あんちるふぉー。のーぴぽー??わい?」

などと相当単純化しないと通じません。

通信やITの世界ではグローバルプロジェクトも多く、世界各国の拠点と仕事することも多いですし、仕事する相手も様々な国の人達ですから、訛りがあっても「はっきり」「ゆっくり」の英語が重要です。

国連専門機関では「はっきり」「ゆっくり」はもっと重要でした。職員は様々な国の人々です。外部からやってくる専門家や各国政府の人々の英語だって多様。仕事の多くは外部の専門家の力や下請け(民間企業、非営利双方)が行うのではやり英語のレベルはマチマチです。タジキスタンやガボン、北朝鮮など、民間企業だとお目にかからない様な国の人もいます。フランス語が公用語の国だと、フランス語はネイティブ並みでも英語は不得意という人もいます。

しかも大規模な会議の場合は通訳を挟んでの話になるので、「はっきり」「ゆっくり」がさらに重要です。通訳が入る場合は、文章の途中途中の合間を長めにとること、さらにゆっくり話すこと(通訳には時間が必要)、語尾まではっきり発音するのが重要です。(これは自分が通訳する方になるとよくわかります!)

非ネイティブが多い職場や国際会議では、賢いネイティブほど分かりやすい英語で話してくれます。情報や意思が伝わらないと仕事にならないからです。

早口や訛り丸出しで喋るネイティブもいますが大概の場合頭が悪いか、思慮にかけた人です。こういうネイティブが上司だと、部下や仕事相手の非ネイティブが「あの人の英語はわかりにくい」と苦情を出すこともあります。

イギリスだと職場が言語の専門家を雇って「非ネイティブにも伝わりやすい英語のトレーニング」をやることも珍しくありません。管理職以上は受講必須のこともあります。

学ぶ内容は、プレーンイングリッシュの書き方、伝わりやすい「言い方」、母語が英語ではない人はどうやって英語を理解するか、各言語スピーカーの癖などです。

植民地で非ネイティブを使っていたノウハウが蓄積されているのでこういうことを教えるのです。早口の英語、DJの様な話し方は推奨されません。

仕事となると話す以上に読み書きが重要です。DJっぽく話せても、技術文書やビジネス文書を「正しく」理解できなかったり、メール、プロジェクト文書、要件定義書、報告書、契約書、当局への申請書、論文、手順書などを、読者が理解できるように書くことができなければ仕事が進みません。

ドキュメントをかけない人は職場のお荷物になってしまい、Twitterで「でっど」「ごーつーへる」と書かれて最悪首になってしまいます。仕事は分業されてますし、いちいち英語を直してくれという同僚や部下がいたら自分の仕事が増えるので怒る人が多いです。みな仕事が嫌いなので一秒でも早く家に帰りたいのです。

海外とのプロジェクトに関わる可能性がある方、今後海外で働いてみたいなあと思う方はXeroxのCEOのUrsula Burnsさん、サッチャー元英首相、ソニーの盛田さん、ノーベル賞の大村教授、孫さん、大前研一さん、リー・クアンユー 元首相の英語を参考にしてみてください。皆さんDJ英語ではなく「はっきり」「ゆっくり」の英語です。若干早口の人が多いですが、DefConのようなカンファレンスの英語やUCバークレーの講義の英語も参考になります。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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