「ドローンは空のセンサー」クリス・アンダーソン氏が語るビジョン、日本に勝ち目はあるのか
2016.04.11
Updated by Asako Itagaki on April 11, 2016, 12:34 pm JST
2016.04.11
Updated by Asako Itagaki on April 11, 2016, 12:34 pm JST
4月7日、新経済サミット2016で行われたパネルディスカッション「産業用ドローン時代の幕開」で、千葉大学特別教授・株式会社自律制御システム研究所代表取締役の野波健蔵氏、千葉市の熊谷俊人市長、元Wired編集長で現在は3D Robotics CEOのクリス・アンダーソン氏が登壇した。「ドローンと産業」という視点から議論の一部を紹介する。モデレーターはアクセンチュア株式会社取締役会長の程 近智氏。
「ドローンは山間部でさまざまな実験をしているが、ビジネスに載せるためには都市部における可能性を模索する必要がある。幕張新都心のドローン実験に適した立地特性を活かして取り組みたい」(熊谷市長)幕張新都心がドローン実験に適している理由として、以下の点を挙げる。
ベイタウンに25,000人居住していることに加え、今後若葉住宅地区にも10,000人規模の住宅開発予定がある。
物流・EC関連企業の倉庫が立地する東京湾岸エリアからの水平移動と、高層マンションの住戸への垂直方向の移動の両方で可能性がある。また、今後46階建ての超高層マンション3棟の建設計画もあり、設計段階で実証実験の知見を活かし、「ドローン宅配しやすい住宅」を実現できるかもしれない。
ドローン活用にあたってはプライバシーや安全など法制度や規制についてもこれから整備する段階である。そのためには住民の協力が不可欠だが、ベイタウンは科学技術に関心を持ち好意的な人が多く住む街であり、話し合いの協力が得られやすい。「国家申請特区申請にあたってもベイタウン自治会とは話し合っている。合理的な判断と議論ができる皆様だし、関心も持たれているので、技術的研究と並行して住民の皆様の見解についてもまとめていきたい」(熊谷市長)とする。
国と自治体が実証実験に取り組むことについて、アンダーソン氏は、「海上で制限的に飛ばすのは賢明」と評価。3年前には存在しなかったような会社が作る製品がメインストリームとなるような市場では、有識者委員会で検討して協議するような従来の規制当局のやり方は通用しない。「門戸を開くためには、現実世界で実証実験を行うしかないので、行政が主体的に取り組むのは大変心強い」(アンダーソン氏)と述べた。
これに対して、熊谷市長も「行政はリスクを取りにくいが、特定地域からでもデータを積み重ねていかなくては水掛け論になる。特区でデータを取りながら現実的な議論を進めていくことで、千葉市としての利益も享受したい。ドローンはいろいろなものが出てくるので行政としてはディフェンシブになりやすいが、千葉市という行政体が風穴をあけてデータを積み重ねるお手伝いをしたい」と答えた。
4月11日、千葉市では5月からの取り組みについて発表するとともに、幕張新都心でベイタウン内の住宅に垂直に荷物を運ぶデモンストレーションを行う予定だ。
「私が関心を持っているのはデータであり、ドローンに取り組むのは空にセンサーを置くためには必要だから」なぜドローンに取り組むのか、と問われたアンダーソン氏の回答だ。
「過去20年間は、インターネットでデジタルな生活を測定してきた。だが世界は主にアナログで物理的なものであり、我々はそれを測るものを開拓していなかった」(アンダーソン氏)ドローンで得られたデータを用いて演算することで、地球を分析し、農業や建築などの物理領域でインターネットのポテンシャルを活かすことができるとする。
3D RoboticsのSoloはコンシューマー向けだが、30余りのセンサーとLINUXプロセッサーと高速なネットワークを搭載しており、ソフトウェアを入れ替えることで産業用ドローンとして機能する。
「ドローンこそがIoTでありクラウドにもつながる。ドローンのセンサーをインターネットにつなぎ、インターネットのインテリジェンスをドローンにつなぐ。一部はAIかもしれない」(アンダーソン氏)この組み合わせで今まで以上にスマートなドローンが誕生する。
また、ドローンは「衛星と自動車の中間の解像度」で地上を観測できることも利点だとする。ドローンを使えば、畑の作物のどこに薬品が必要かをクリックひとつで測定できる。建築現場もウェブを管理するように精度高く管理できる。自律型ドローンであれば観測に人間がかかわる必要がなくコストも安くなり、従来は測れなかったものまで測れるようになる。「今までは衛星が地球を観測していたが、ドローンが主流を占めるようになる。ドローンの目で見ることで、センサーデータを賢く使いながら地球を守れる」(アンダーソン氏)
「なぜデータ収集に関心があるのか?」との質問に対してアンダーソン氏は「自身が物理学者として教育を受けた」ことが背景にあると答えた。「物理学者は世界を測定し、理解を深める。すなわち、世界を理解するにもっともよい方法は『測ること』」(アンダーソン氏)1990年代に構築されたインターネットの今の姿はCERN、すなわち物理学が作り上げたものであり、インターネットによりビッグデータとウェブが誕生した。これを活用して世界を理解するために必要なデータ収集を行えるのがドローンであるとした。
産業化ドローンの時代、日本が強みを発揮するのはどの分野か。野波氏は「世界中のドローンで日本製の部品が使われている」ことを指摘する。
「産業用ドローンに求められる信頼性、耐久性、安全性はホビー用とは比べ物にならない。これに対応できるものづくりができるのは日本の強み」(野波氏)激烈なグローバル競争の中、半年後には勢力が変わるスピード感ある市場であっても、各社の製品には日本の部品が入っている。
またアンダーソン氏は、カメラとセンサー分野の技術がドローンにも活かせること、また日本の自動車メーカーがキープレイヤーになるという考えを示した。「自律型ドローンは自動運転と同じ課題を抱えており、レーザーやレーダーなどさまざまなセンサー技術はドローンでも活用できる。業界横断の連携もシリコンバレーで確認されはじめている」(アンダーソン氏)
「ものづくりが強い日本とIT・ソフトウェアが強いアメリカで、連携して世界市場のトップを取れるのではないか、とクリスとは話した」(野波氏)今や中国に席巻されているドローン市場だが、産業用ドローンではまだまだ巻き返しのチャンスがあるという考えを示した。
「スマートフォン、インターネット、PC時代から、プラットフォームの戦争は三つ巴にはならず、『オープン』か『クローズ』かの戦いで、エコシステムを制した方が勝つ」(アンダーソン氏)スマートフォンの世界でのAndroid陣営対Appleのように、ドローンの世界でもDJI以外の主要メーカーがオープン志向のDronecode Projectに参加しているのに対し、世界最大のシェアを持つDJIは単独でプラットフォーマーを志向している。「ドローンの世界はあまりにも複雑で、1社で勝てるほど簡単ではない。適切に管理されたオープンエコシステムが勝つと信じている」(アンダーソン氏)
とはいえ、野波氏は全てがオープンになるわけではないと指摘する。「ドローン自身の姿勢制御にかかわるクリティカルな部分はクローズドだが、フライトコントローラーや飛行中の自己診断システムなどは標準化されるだろう」(野波氏)社会インフラとして活用するためには、ドローンが数珠つなぎで飛べるようにならなくては意味が無い。「そのためには、まずは日本独自のエアトラフィックコントロールを作りながらある時点で世界標準にすればいい。国単位でガラバゴスにならないよう、世界を見ながらものづくりすることが重要」(野波氏)とした。
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登録はこちらWirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。