サービス残業で誰もが不幸になる仕組み
Unpaid over time makes everybody unhappy
2016.05.26
Updated by Mayumi Tanimoto on May 26, 2016, 08:44 am JST
Unpaid over time makes everybody unhappy
2016.05.26
Updated by Mayumi Tanimoto on May 26, 2016, 08:44 am JST
日本では当たり前になっているけれど、欧州や北米のテック業界で見られないものの一つにサービス残業があります。
こちらの感覚ではサービス残業=ペイのないオーバータイムワーク=無償労働という感覚で、とりあえず「あり得ない」というのが普通の感覚です。
スタートアップや超零細経営の組織だとオーバータイムの報酬がちゃんと出ないということもあります。
ただしスタートアップの場合は、長時間働く代わりに、将来高い報酬が得られるストックオプションがもらえる(もしくは既にもらっている)、幹部待遇の給料をもらっている、自身が従業員ではなく経営者だったりするという状況だったりするので、オーバータイムが無償でもいいよ、というトレードオフがありますが、ある程度の規模の会社雇われている人だとまずありません。
しかし欧州や北米の職場でも、日本人とか、ちょっと人が良い感じのポーランド人やロシア人、タイ人や台湾人が、サービス残業してしまうことがあります。
彼らとしては、単に手助けしたいとか、まあちょっとやれば今日中に終わるからいいよ、という感覚で、親切心でやっているのですが、これが周囲と凄まじい軋轢を産み出す原因になります。
周囲のイギリス人やドイツ人からすると、誰かが無償で働いてしまうと、幹部や上長は「それが当たり前」という感覚になってしまう、ということを、ものすごく気にします。
当たり前になってしまうと、サービス残業を率先してやる人だけではなく、周囲も合わせなければならない。でもボーナスや基本給が上がるわけじゃありません。
つまり、これって労働のダンピングです。
日給いくら、時給いくらで働いている契約社員からすると、これは死活問題です。ただでやってくれというのは、報酬の割引と同じです。
この人達は日給8万円から25万円という高額の報酬を取りますが、それは他人には直せないシステムを直せたり、長年働いた結果得たスキルの値段なので、割引するわけにはいきません。職場によってはこういう契約社員がスタッフの8割ぐらいになる場合もあります。
無償労働をやる人が増えてしまうと、その会社だけではなく、業界全体で働く人の報酬が下がってしまいます。単価が下がるとそれ以前の報酬を得るには長時間働いたり、休暇を削る他なくなるので、仕事の質が下がります。
それは業界的には大問題なので、技術者やプロジェクトマネージャなどの報酬相場というのが、業界団体やフリーランサー向けのサイト、ヘッドハンターなどにより公開されています。働く人同士での報酬情報の交換も盛んです。
公開されている情報が多いので、あえて自分の価値をダンピングする人は、よほど自信がないか、他で雇ってもらえない人だけです。転職が当たり前の社会なので、スキルさえあれば他社への移動が簡単です。ですから、デキる人ほどダンピングする必要がありません。
こういう状況なので、サービス残業する人は、感謝されるどころか、周囲の同僚や契約コンサルタントから、批判の嵐です。
気の荒い人が多い職場だと「そういことやめてくんない?お前がただ働きすると、俺達超迷惑なんだよね。お前会社辞めろよ。お前の仕事は価値がないんだろ?」なんてことをいわれます。
また私が目撃した実例では、チーム内にサービス残業してしまう日本人がいたために、その行動を理解できないナイジェリア人、イギリス人、オランダ人、インド人、中国人、ドイツ人、クウェート人、トルコ人、フランス人で構成されたチームメンバと、その日本人が対立してしまい、チームワークがメチャクチャになったことがありました。
特に日給いくらで雇用されている契約コンサルタントからすると、その日本人が色々やってしまうと、自分の仕事の一部を取られてしまうことになります。しかし、その日本人のパフォーマンスがものすごく高いわけでもないですし、長時間労働で無理してやった作業で問題が起こることだってあります。他のメンバがやり直しするようでは意味がありません。
それに、他人の仕事もやってしまう、という風になると、責任分解点があいまいになるので、何か起きた場合のルートコーズ(根本原因)の解明が難しくなります。それではタスク管理の意味がありません。
作業のスケジュールが変わってしまうので、プロジェクトの管理だけではなく、そのひとつ上のプログラム管理、さらには、予算や人員の管理もメチャクチャになってしまいます。
上司(日本人ではない)も困ってしまいます。サービス残業をお願いしていたわけではないのですが、その人が勝手にやってしまうため、工数の調整ができずにメンバーから文句をいわれるわ、「お前が命令したのか?」と疑われるわ。
さらに「あの人の退出時間だけおかしいが、一体どういうことか?あなたは労務管理をやっているのか?」と人事に突っ込まれ、幹部に報告されてしまいます。所定の時間外に働かれると、安全労働管理違反になる可能性があるので、何か事故が起きた場合、労災や保障のことで揉める可能性が高くなります。それは会社にとってのリスクです。
自分のマネージメントスキルやボーナスの査定に響くので、こうなってしまうと大問題です。
良かれと思ってやったことが、同僚も上司も怒らせてしまいました。結果的にその人は居づらくなって辞めてしまうのですが、サービス残業当たり前、の日本的感覚からすると、ちょっと不思議な感じです。しかし日本の外先進国だと実はこっちの方が当たり前です。
つまり、サービス残業というのは、日本的精神の発動、というような情緒の話ではなく、プロジェクトやオペレーションが制御できていないだけの話だということです。
製造業の場合、最も恐れることの一つは、作業員が疲弊して不良品率が上がることや、ラインで事故が発生して労災が発生することなので、マトモな会社であれば作業員には無理をさせません。
製造業はそういうノウハウが豊富ですが、ITや通信、サービス業、コンテンツ業界、メディア、教育業界ではそれが生かされていません。そういうノウハウを活かすことこそがクールジャパンだと思うのですが、なぜかそうならない様です。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。