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ポケモンGOのビジネスモデル:収益と競争力はどこから?

2016.08.22

Updated by Satoshi Watanabe on August 22, 2016, 14:00 pm JST

AR/VR市場の伸びが期待されるとの話題が増えてきた。テクノロジー関連業界は、特定のテクニカルキーワードが投資と産業開発を引っ張るという動き方を一年から数年のサイクルで繰り返すのが業界の基本的な仕組みとなっているが、2016年度から2017年度にかけてのテーマとして盛り上がりが期待されている。

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例えば、流行りのキーワードとして、最近テレビのニュースや特集番組でもしばしば取り上げられるものとしてフィンテックや人工知能といったものが良い事例となる。VR/ARはやや業界内部のキーワードに留まっているところがあり、専門誌では良く見る、全国紙ではたまに見るものの一般ニュースではまだまだ見かけないとの段階にある。

という、プロ向けの議論がまだ主軸なところで、ごく普通の人が「ARを取り入れた生活の便利さ楽しさ」を直観的に実感できたのがポケモンGOであるというのは前回触れたとおりである。

ゲームビジネスとしても位置情報ゲーム、いわゆる位置ゲーはニッチビジネスであるとされ、積極的な参入は行われてこなかった。少し話はズレるが、「これから位置情報だ」との議論はこの5年10年行われ来たものの、カーナビなど一部の成功例を除くと、コンシューマーサービス分野への応用やメディア利用は、当初の期待ほど華々しくは進んでいるようには見えない。

そんなところで、降って湧いたように唐突に出てきたポケモンGOの大成功ということから、改めて水面下で参入を検討している事業者は増えているだろうことは予想に難くない。米国、欧州市場でも大きな成功を収めつつあることから、日本のゲーム会社に限らず、世界中で企画書が飛び交っているだろうことは想像に難くない。

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さて、では実際のところポケモンGOはどのように利益を上げているのか。二匹目のドジョウ争奪戦として、水面下で飛び交っている企画書が芽吹いて、半年もすれば大位置ゲー時代がやってくるのだろうか?

◇ ポケモンGOのビジネスモデル(収益モデル)

ポケモンGOの収益は、ゲーム内のアイテム課金とスポンサー収益(広義の広告ビジネス)の二つに分かれる。

両者を繋げるのが、モバイルゲームでは標準的に採用されているいわゆるFreeToPlayと呼ばれる仕組みである。従来のゲームはパッケージ購入やライセンス購入などの形でゲームプレイできることそのものを課金ポイントとしてきたが、ブラウザゲームやモバイルゲームでは、まずは気軽にプレイしてもらい面白さを体感してもらう機会を作った方がビジネスとしては良いとの考えからゲームプレイそのものは無料とし、ゲームのプレイ時間の延長や戦いを有利に運べるサポートアイテム、強力なキャラクターなどの獲得を課金ポイントとしている。

このFreeToPlayのモデルは、従来のモバイルゲームだとユーザー獲得維持コストを低く抑えるか(加えると獲得したユーザーの課金率をどうやって上げるか)の目線で評価されるが、ポケモンGOの場合は、スポンサーのビジネスにメリットがあるのであれば、アイテム課金のみに頼らずとも収益機会が開ける。ユーザーのすそ野が増えることはメディアとしてはプラスになる。広告ビジネスの目線で考えるのであれば、初期費用がタダなのはむしろ当然であるとも言える。

ゲームをメディアコンテンツとして捉え、広告ビジネスに繋げられないか、との試みはゲーム内広告として試みられてきたが、いまひとつ花開いてない商売であった。むしろ、コロプラや駅メモなどの位置ゲームの方が、事業規模は小さいなりに送客サービスとして成立していたところから、ポケモンGOの成功により大きな商売になる可能性があるのでは、と改めて注目されている。

スポンサー収益モデルのバリエーションとしては、、ポケモンGOの前身となる「Ingress」では、広告主のスポンサードアイテム(プロダクトプレイスメントの一種)が採用されていた。ゲーム世界観とのフィットしている必要があるため、ポケモンGOでも採用されるのかは現時点では不明であるが、今後も類似のシステムで位置情報ゲームが広がっていくとなると、チェックポイント(ポケモンGOの場合はポケストップ)のスポンサードと並んで有力な商材になると考えられる。

ポケモンGOにおいても、具体的なアイテムそのもののネーミングやデザインでの連携はできずとも、現実世界のドラッグストアに寄れば回復アイテムが得られ、飲食店の寄ればフードアイテムが得られる、といった設計は可能である。例えば、マクドナルドに行けば通常よりも効果の高いズリの実(モンスターを捕まえやすくする支援アイテム)が手に入るなどとなれば、来店数の底上げになるのは間違いない。年が変わった一月、あるいは年度変わった4月くらいからこの手の検討状況が具体的に漏れてくる状況になるのでは、と予想している。

◇ ナイアンティック社のビジネスモデル(2016年版)

ポケモンGOリリース数日後、ゲームの作りが比較的シンプルなことを受け、ゲームビジネスに近い筋からは「こんな簡単に作れるのだったらウチでも?」といった気配をほんのりと各所に感じられた。

このような声が出てくるのはアプリケーション単体のみを見るとそれなりに同意できる。しかし、では実際に世界中にゲームフィールドを広げられるか、と問われると難しい課題が出てくる。チェックポイント情報と地図情報である。

Google出自の企業であることを踏まえ、ナイアンティックの主な事業資産を整理すると以下のような図となる。
pokemongo_1
チェックポイント情報は、ナイアンティック社が前身となる「Ingress」でユーザーの協力を得て数年かけて整備してきたデータが元となっている。細かいガイドラインはここでは触れないが、史跡名所やモニュメントなど、町のランドマークとなるものの写真と位置情報をコツコツと蓄積整備した結果出来上がったリストである。このあたりの手間と面倒の多さについてはこちらこちらの資料に良くまとまっている。Ingressを長年触っていたプレイヤーであれば体感している、そうそうあったあった、との経緯のまとめであるが、読んでみると3カ月特急で位置ゲーを立ち上げるぞ、と簡単に言えなさそうなのがお分かり頂けるかと。

加えて、ポケモンGOリリース後1,2週間の各地の寺社仏閣でのトラブルや議論のように、単なるランドマークリストでは駄目で、実際にゲームに用いて良いかの検証テストが行われる必要がある。これもIngressでの知見を活かしてポケモンGOはスタートした訳であるが、ユーザー規模の違いなどからそれでもごたごたとしつつ始まったのはみなさまの記憶の通りである。

地図情報について、ナイアンティック社の場合は、創設者のジョン・ハンケ氏が諸々Google Earth、ストリートビューの責任者であり(根っこを辿ると、Googleに買収されたKeyhole社の創業者)地図と位置情報の取り扱いはむしろ得意分野である。Ingressが早い段階から世界展開できたのも、GoogleMAP、Google Earthのいわば上物アプリとして作られたとの経緯があるためである。

競合が後追いするとなると、自分たちで世界中の地図情報を集めきるのは相当体力がないと難しい。ある程度のサービスレベルを維持することを目標とすると、現実味があるのが日本だとゼンリンのような各国の地図情報のデータサービスを提供している企業から調達してくる方法であろう。

これを機に位置情報、地図情報のサービスやゲームが増えてくると市場は活性化して面白くなりそうではあるものの、現実には上記にまとめたように少々ハードルが高い。アプリのぱっと見の作りから得られる「なんだ、これなら簡単じゃないか」との印象とは裏腹に、かなりの力技感溢れるゲームがポケモンGOである。

以上より、位置情報ゲームが面白いビジネスであるとの世の中に(再)認識されはしたものの、同じアプローチを目指す限りにおいては早々に群雄割拠の状態に入るとは考えにくい。位置情報をメインにはしない、上手いことサブ要素として取り込む成功事例が出てきて徐々に広がっていくとのシナリオがこの先はメインではないかと予想している。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。