セントケア・ホールディング株式会社 執行役員 岡本茂雄氏(後編)経験を知恵や体系にしてサービスのあり方を変える
ヒトとモノを巡る冒険 #002
2016.09.09
Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on September 9, 2016, 07:00 am JST Sponsored by ユニアデックス株式会社
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システムを知るパートナーと現場を知る自社が組むことで介護、ヘルスケアの課題を解決するイノベーションを起こす。引き続き総合的なヘルスケアサービス事業で先進的な取り組みをされているセントケア・ホールディング株式会社 執行役員/医療企画本部本部長の岡本茂雄氏に、お話をうかがいます。(構成:WirelessWire News編集部)
(前編はこちら)
山平:重要と捉えておられる分野の二つ目である「人工知能」ではどのような取り組みをされているのですか。
岡本:最初にコンピューターベースで作ったのは、訪問看護のアセスメント手法を用いて訪問看護計画の作成や一元管理などを行う訪問看護アセスメント・業務支援システム「看護のアイちゃん」です。ナレッジシステムというより、電子ナースを自分のポケットに入れておく感覚です。
しかし、プログラムされたコンピューターと人工知能というのは全然違うわけです。人工知能を導入することで、介護現場で蓄積してきた「経験」を、知恵や体系に変えていって、サービスの在り方を作り直そうとしています。
岡本:医療・ヘルスケア分野における最新のテクノロジー先進事例を紹介する「Health 2.0」という国際カンファレンスが、2007年にアメリカでスタートしました。去年の11月に日本で開催されたこのカンファレンスで、私は「The Future is Now 〜未来のテクノロジー〜」というセッションのモデレーターをやりました。
アメリカのスタートアップ企業「sense.ly」が、人工知能のナースアプリを作っています。去年の5月にアメリカに見に行って、これはすごいなと話をしていました。11月に日本に来た時には、その人工知能は、日本語を喋っていました。進化がとても早い。IQ100〜110程度の人類と、IQ3000とか4000ある人工知能では学習能力で大いなる差がある。その可能性について、いろんなところが検討しています。
訪問看護というのは、看護師がお客様のご自宅に一人で伺います。そこで、人工知能をつけた電子ナース、ナレッジシステムを応用する事が出来れば、サービスの質も看護の経過観察も向上するのではないかと考えています。一人で行かなければならないサービスにとって、この人工知能というのは、非常に可能性があります。
山平:私たちユニアデックスにおいてサービスを提供する基盤としては、日本国内にフィールドサポートのための拠点が180カ所以上あります。お客様のところに実際に故障の対応に行くのはエンジニア一人というケースもありますから、そのような取り組みは大変興味深いです。
岡本:多分いずれ、ロボットが自律的に判断できるようになっていくでしょう。そこまで難しいことでなくても、アセスメントとか観察というのが重要となってくるんです。そこで人工知能というのは非常に有用でしょう。またどういう形で人工知能を成長させるかというのは、大きな課題です。
山平:いま挙げられたような「ロボット」や「人工知能」のような先端技術に対する、介護などの現場における受け入れられ方というのは、どのような状況なのでしょうか。
岡本:よく介護現場はITリテラシーが低くて大変だというようなことを言われますが、そんなことはありません。携帯電話やスマートフォンを使いこなせる人たちです。ですから、そのような人達相手に、ベンダーさんがユーザーインターフェイス(以下、UI)についてもっと考えて頂ければと思っています。開発費の4割はUIにかけるべきというのが、私の持論です。
山平:おっしゃることはまったく同感ですね。私は「一般社団法人iOSコンソーシアム」というiPhone やiPad の法人利用を促進するコンソーシアムで理事としていろんな活動を手伝っていますが、この活動の中では、今までPCを使ってなかったところの方がiPhone/iPadを上手く使っている、はまってるというケースをよく伺います。
岡本:以前そちら(「iOSコンソーシアム」の医療WG)で講演を頼まれたことがあり、そのときには好き勝手喋らせて頂きました(笑)。
一方で、アメリカのシリコンバレーによく行きますけれども、ヘルスケア分野での創業者は、医者の方が多いように感じますね。UIをどうするか、現場で使われるにはどうするか、というところから、そもそものニーズから商品を開発していく。日本で開発者が研究所にこもって研究をしながら時々現場に出てくるのと正反対です。
高齢社会に対しての総合的な研究、そしてソリューション開発をやっていこうということで、東京大学が高齢社会総合研究機構を設立しまして、我々も参加しています。そこでも、現場のニーズをきちんと捉えながら技術革新で突破していきましょうというテーマは出てきます。
山平:研究は、研究所でやるのではなくて、現場の中で研究しましょうということですね。
岡本:もちろんモノによりますし、それが一番良い方法だとは思っていませんが、ヘルスケア分野だとか生活分野での開発・発明というのは、そういう方法でやりましょうというのも一つの発想ですよね。そういうことをもっと真剣に考えるべきでないかと思います。
岡本:3つめのポイントが、医学の進歩です。ヘルスケアは、お客様も人間、サービスを提供する側も人間です。ですから、人間を理解し、その行動科学をサービス開発に反映させることをやっています。
視覚を例に取ると、老化する、加齢が進むということは、波長の認識能力の幅が狭まることでもあります。つまり、若い人が綺麗にはっきりと見えているものと、年をとって波長の感度が落ちている人が綺麗に見えているものとは違うわけです。色をどう変えれば分かりやすくなるのか、画面をどう構成するべきなのか、それを真面目に研究するべきではないかと思います。
聴覚に関しても、同様です。人類は基本的に周波数帯の高い振動数から聞こえなくなっていきます。鼓膜が高速の振動を捉えられなくなっていく。つまり、高齢化しても低い声は聞こえるわけです。
いま大きな問題になってきているのは、認知症です。認知症という言葉は「症状」を表す言葉です。大学施設では「症状」の研究はしません。アルツハイマーの原因として脳神経の研究はしますが、認知症を対象にした研究は実はほとんどされてなかったんです。
日本の介護分野で認知症をまっとうに捉えて、最初に認知症のケアを取り組んだ病院があります。その病院には、表情をよく観察して、その症状を三期に分類するということを、提唱された先生がいらっしゃいます。その分類の仕方を会得して、認知症ケアの仕方を根本的に見直すプロジェクトを発足しました。認知症の人の表情や言動により認知症の周辺症状を「混乱期」「依存期」「昼夢期」の3つに分類し、それぞれに適切な対応を行うことで、症状の改善、緩和を図るものです。グループホームなど施設にサービスを提供している部隊と総動員で取り組みました。研究のために、プロジェクトメンバーであった介護現場で働く看護師やスタッフには、3ヶ月間病院に行ってもらいました。
山平:分類するだけでなく、実際そうやって現場で実践してみないと、身についていかないですね。
岡本:3ヶ月間病院にいったスタッフは、その病院で学んだことで、並の医者より正確に「レビー」や「ピック」という、アルツハイマーの区別がつくようになりました。今は、そのスタッフがリーダーとなって、グループホームなどの施設で認知症ケアの推進に取り組んでいます。更にそれを進化させようと、行動科学を取り込んだ開発も始めています。
記憶とは、「感情」と「物事」が、セットで記憶されています。ですから、「薬で物事だけを回復させる」とか、「記憶をここだけ戻そう」というやり方では、効果が出にくいですが、「感情」と「物事」をセットでケアを行うと、効果が出やすくなるわけです。これは薬の問題ではなく、認知症に対するケアのあり方です。このようなことを、今、大学と検討しています。
山平:これから先の見通しということで、2020年を目安とした数年にわたってどのような課題があると捉えていらっしゃいますか?
岡本:最初に申し上げた通り、「高齢者の方が自立をしていくこと」が重要で、「お世話することが良いことだ」という概念から日本全体が価値観を変えなければなりません。
「自立を応援する」ことは、必ずしも楽をさせることではありません。車椅子に乗ったら、私だって楽です。でもたぶん、今普通に歩くことが出来る私でも、1ヶ月車椅子に乗ったら、歩けなくなる。自立することは、楽ではないですよ。
まず、「大変であっても自立をするのが素晴らしいことだ」という価値観に変え、それを実現するためにさまざまなイノベーションを起こしていかなければならないと考えています。
山平:今取り組んでいらっしゃる御社のイノベーションは日本だけに留まるのか、それとも今後輸出産業として、グローバルなビジネスも視野に入れられているのでしょうか。
岡本:グローバルな世界で通用する為には、さまざまなケアサービスや製品の国際標準化が必要で、それは東京大学高齢社会総合研究機構の重要なテーマの一つです。我々の役割としては、現場の人間の経験をどう標準化に結びつけていくか、というところです。
山平:しかし現状では標準化に関わっているような医師達と、介護現場で働いるスタッフさんが関わることはなかなか無いということですね。
岡本:医師と介護現場のスタッフとが同じテーブルでディスカッションをする機会があまりないように感じています。でも、それを見直さないといけない。どっちかが、どっちかへ入り込むことが必要だと考えています。
山平:なるほど、ここでも現場で実践することが重要ということですね。本日は有り難うございました。
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