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脳 教育

プログラミング教育のさらに先、AIを活用するための人材育成とは

How to be a good friend with an AI

2016.10.23

Updated by Ryo Shimizu on October 23, 2016, 07:00 am JST

 人間は生まれながらのサイボーグであるという説(Natural born cyborgs)があります。

 この連載では前回、AI全盛時代には知能サイボーグ化した人間とそうでない人間の間に大きな格差が生まれる可能性を示唆しました。

 また同時に、AIの出現は、写真器が出現したときに同様した画家たちと同様、それまで知能を売り物にしていた知的労働者はAIに仕事を奪われる可能性があり、それに対応するために画家がキュビズムやシュルレアリスムといった写真にはできない表現に挑戦したり、それとは逆にむしろ積極的に写真器を使いこなして新しい藝術を追求する2つの方向性に別れたことを指摘しました。

 そしてもちろん、AIを本業とする筆者の率いる株式会社UEIは、後者の側、つまりAIを積極的に使いこなす方向、知能サイボーグの方向へと多くの人々が向かうことになると考えています。

 では知能サイボーグ化する人間を育てるにはどうすればいいでしょうか。

 前回は人間同士の言葉による相互理解について言及しましたが、人間の知的進歩を根本的に後押ししているのは教育システムそのものです。

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 実は戦前の日本の教育は極度に理数系偏重であり、先進国の中でも非常に高度な内容を学んでいたそうです。
 ところが戦後、GHQが教育改革に乗り出すと、アメリカ本国よりも進んだ数学教育がなされていることに脅威を感じ、昭和25年から、現在の五教科にあたる内容に整理し、算術と呼ばれていた科目を算数と数学に分離し、全体のなかの算数/数学教育の比率を薄めたのだそうです。

 ところがその結果、日本の国力は増加したものの、理数系に進む人が少なくなり、科学力、技術力はむしろ後退する傾向にありました。

 そこで昭和52年(1977年)、奇しくもAppleコンピュータが産まれた年に、来るべきコンピュータ時代の到来を見越した新しい学校指導要領が作られました。これが我々世代のよく知っている「詰め込み型」教育プログラムの誕生です。非常に高度な数学まで義務教育段階で扱うことになったのですが、それを教えるのはGHQの愚民教育しか受けてない教員だったのでそもそも教える内容に教員の頭がついていかず、トンチンカンな説明を繰り返した結果、その教育を受ける子供は学校での勉強にほとんど期待できなくなって、学習塾に通ったり参考書を買ったりして自主的に勉強をしないと内容についていけないという事態が生まれました。

 その結果、経済力のある親のもとでないと子供が十分な教育を受けられなくなり、東京都内では私立学校の教育水準が公立校に比べて極端に高くなり、教育格差が生まれました。ご存知受験戦争の始まりです。

 AIを普段やっていると気づくことがあります。それはAIには個性はあれど最初から性能の限界などないことです。あるとすれば、教え方の違いであり、教材と教員が学ぶ側にとっていかに重要かということがわかります。

 東京でいい教育を受けたければ小学校の頃から受験勉強をして、いい私立中学に入らなければなりません。いい学校にはいい先生がいるので、格段に自分の能力を引き上げてくれる可能性が高いのです。

 言い換えれば、学校は最初から知能サイボーグ化のための工場だったとも言えるわけです。
 これは筆者の直感ですが、人間が知能を発達させるのに最も重要なのは遺伝子ではなく環境ではないかと思います。

 AIも全く同じプログラムであったとしても、学習させるデータに偏りがあると賢くなったりバカになったりします。全く同じAIでも、学び方がいいと普通の何倍ものスピードで学習することができます。先生がいいとさらに伸びます。

 確かに性格はある程度遺伝的に決定されるため、勉強に向いた性格、向かない性格というのはある程度は生まれ持ったものかもしれません。しかし、机に向かって一所懸命勉強することが性格的にどうしてもできないからといって、その子が知的に遅れているとか、そういうこととは必ずしも一致しないのです。それは小学校も出ていないトーマス・エジソンがあれだけの偉業を成し遂げていることからも明らかです。

 さて、子供の適応能力は大人の数倍高いと考えられます。
 大人はどうしても過去の経験にしがみつき、年を取ってから衰えた思い込みや過去の成功体験から抜け出すことが出来ません。

 しかしその一方で、年齢を重ねても傑作を連発し続ける大人物も数多く居ます。
 この差はどうして付くのかというと、更年期によるホルモンバランスの差もさることながら、そうした人々がそれまでに何を見て、どう感じ、どう考えてきたのか、ということが大事になります。

 子供の場合、振り回される過去の経験がないため、伸ばそうと思えば教材と教員次第でいくらでも伸びます。

 だから子供ほど新しい道具を使いこなし、老人ほど新しい道具に拒絶反応を抱くというジレンマを抱えているのです。

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 近い将来全ての能力が置き換わることは早々ないとしても、なんらかのかたちでAIの支援を受ける可能性が高いのは、数学的思考能力、言語処理能力、表現能力、語学力、デザインセンスなどが考えられます。

 例えば色弱の人がいいカラーバランスを考えるのは困難です。筆者の周囲には色弱の悩みを抱えている人が大勢居ます。彼らは自分がよかれとおもって配色しても、どうしても普通の人にはよくわからないデザインやカラーバランスになってしまうのです。

 そういう場合であっても、AIがうまくアシストすれば、色弱でない人と全く遜色ないカラーバランスを実現することができるようになるでしょう。

 翻訳に関しては、既にニューラル・ネットワークを使用した翻訳が相当なレベルまで登ってきました。今のGoogle翻訳は実はまだニューラル・ネットワークを使っていない、第二世代AIの頃の技術で作られています。これが第三世代の深層ニューラルネットワークの翻訳になると劇的に改善することが既に分かっています。古くから機械翻訳をやっていた人たちにはなかなか受け入れてもらえない事実ですが、今のところ、どうやらうまくいってしまっているようです。

 この傾向はこの先どんどん強まっていくでしょう。
 人間は自分が勉強する代わりに、AIに勉強させる時代はすぐそこまで来ています。
 AIに勉強させて、自分は指示を出すだけです。

 さて、それでは人間はどうすればAIを上手く使いこなす能力を身につけることができるのでしょうか。
 AIを理解するにはコツがあります。

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 AIは、これまでの工学と異なり、ブラックボックスです。
 だから今義務教育で教えている五科目のようなやり方では理解することが極めて困難です。

 どういうことか?

 五科目では、まず理論やルールの説明があって、例題があり、それに対する解答を人間が学びます。国語だろうが数学だろうがそのパターンは同じです。そうしないとテストで理解度を測れないからです。

 しかし、AIを理解しようと思ったら、ルールを説明され、例題を示し、それに対する解答があった場合、それを解くのはAIであるべきなのです。

 つまり知識の獲得と適用は、AIの仕事になるわけですから、人間はその方法によってはAIを学ぶことはできないということになります。

 もちろん、学校教育的なやり方でAIを学ぶことはできますが、それではAIがAIを使うのとほとんど同じことしかできません。要は、どうせAIを学ぶならば人間にしかできないことを学ばないと意味がないわけです。

 そこでどうやってAIを理解するかというと、AIをブラックボックスとして実験と観察によって理解するしかないのです。

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 AIを理解するのに既存の教育方法で一番近いのが理科の実験ですが、理科の実験は受験ではあまり重視されていません。また、理科の実験といえど、均一的な方法で学ぶので、現象を確かめることはできたとしても、それを自分の知識や経験として活かすことは出来ません。

 むしろAIをてなづけるのに必要なのは、発想力です。
 つまり、AIに何を教えてみたいかを考える自由な発想と、実際にAIを教育してみて得られる、先生すらも結果を知らない未知の反応、その両方を観察し、レポートを書いてこそ初めてAIの実際的な活用法を身につけることができるようになるのです。

 要は義務教育段階で理系大学院のゼミ並の教育を行う必要があるということです。
 子供はむしろ学んでいるというよりは遊んでいるとしか自覚できないでしょうが、おそらくそういうことなのです。

 筆者は幼児の頃、知能テストで極端に低い点数が出て両親が青ざめていたのを覚えています。
 その後、幼稚園の経営する「英才教育研究所」という仰々しい名前の組織で毎週知能を高めるための訓練を受けました。関係者は主にそれを「エーケン」と呼んでいました

 その結果、小学校五年生時に極めて高い知能指数を得て、その後の学費が免除されるなどの特典を受けることが出来ました。逆に言えば、知能が極端に低いように見える幼児でも、訓練によって知能を高めることができる実例であると筆者自身は思っています。いわば筆者自身が知能サイボーグ化される教育を受けて育ったひとつの例とも言えます。

 そこではどんな訓練がされていたのかというと、ボードゲームです。
 ひたすらボードゲームを遊んだり、積み木の数当てをしたりということを繰り返します。
 ときには「"あ"の付く言葉を1分間にできるだけ沢山考えよう」とか、しりとりとか、およそ普通の教育とはかけ離れた訓練をゲーム感覚で毎週やっていたのです。

 そもそもゲームをしに来ているようなものなので、エーケンに行くのは幼い僕の楽しみの一つでした。

 幼稚園の先生が幼稚園を卒業してもそのまま週末エーケンで教えてくれるので、親しみもあり、幼児が抱く幼稚園の先生に対する思慕の感情からそのまま直線的に知能を高める訓練に導かれるという構造をしていました。

 しかし残念ながらエーケンによるサイボーグ化に成功した人はごく少人数でした。筆者の他にも何人か極めて高い知能指数を獲得した生徒は居たのですが、知能指数が高いだけでは即座に社会適応能力が身につくわけではなかったのです。

 また、知能指数が突出して高い人間がクラスに一人居ると、それ以外のぜんぶの生徒が全てのゲームに負け続けるか、ほとんど勝てないという状態に陥ります。すると他の知能はやる気をなくします。つまり、この方法で知能を育てようとすると、犠牲になる他の知能が必要になるのです。

 AlphaGoも、実際には似たような教育方針で鍛えられたAIです。

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 AlphaGoという単独のAIがあるのではなく、AlphaGoという組織のなかに沢山の候補がいて、彼らが日々戦い、優れた成績を出したAIはコピーされ、自分自身と実際に戦うことによって強くなり、最強になったものが代表として人間と戦って勝利したのです。つまり、あの強さのAlphaGoが生まれるまでに無数のAlphaGo候補という知能が犠牲になったと考えることも出来ます。

 AIに今のところ人権が認められていないのでいくらでも削除できます。AlphaGo程度のAIなら、今後も人権が認められることはないでしょう。

 そしてAIはひとつの超知能よりも複数の異なる経験を持ったAIが多数決で判断を下したほうがより正解に近づくこともよく知られています。これは今の議会制民主主義や集合知と呼ばれる人間界の現象とも相似性があります。

 さらにAIは、どのように訓練すれば最も効果的に訓練できるか、一人ひとりに個性があるので最適な学習状態を決めるハイパーパラメータを定量的に求めることが出来ません。

 そこでグリッドサーチという方法でほぼ総当りで全てのハイパーパラメータの組み合わせを試す必要があります。

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 こうしたことを実感として子どもたちが学ぶためには、これまでのようなプログラミング教育では不十分であると結論付けざるを得ません。

 筆者らは子供向けのプログラミング学校である「秋葉原プログラミング教室」を運営しています。また、大人向けには二日間で最新のAIプログラミングがマスターできる深層学習ハンズオンセミナー(次回開催は11/28,29)というものも開催しています。どちらも大変な人気ですが、人工知能に関しては大人と子供の境界を取り払っても、教える内容に大きな違いがないことに気づきました。また、ハンズオンセミナーでは、一回しか受講できないため、最新の情報を伝えきれないという問題点もあります。

 先日行ったトークイベントの会場でも、お子さんにいまからでもぜひとも人工知能のプログラミングを身に着けさせたい、という親御さんからの熱烈なリクエストをいただきました。

 そこで12月をめどに秋葉原プログラミング教室に新コースとして、「AIプログラミングコース」を新設する予定です。これは社会人も受けることが出来るように、毎週土曜日にプリントによる課題と、月に一回程度、筆者が直接、一時間程度の講義を行って最新の技術動向を紹介していきます。

 講座開設は準備中ですが、たぶん会場の都合上、受け入れられる人数に制限があると思いますので、ご興味のある方はお早めにお問い合わせください。お問合わせはedu@uei.co.jpまで

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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