画像はイメージです original image: © MNStudio - Fotolia.com
「AI信号機」導入で交通渋滞を大幅緩和 - 米ピッツバーグの実験
2016.10.27
Updated by Hayashi Sakawa on October 27, 2016, 06:50 am JST
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2016.10.27
Updated by Hayashi Sakawa on October 27, 2016, 06:50 am JST
先月ウーバーが自動運転車を使ったサービスの実験を開始したり、今月半ばには米政権の主催する「Frontier Conference」が開かれたりと、ピッツバーグ(ペンシルベニア州)に関する話題がここに来てとくに目立つようになっている。ロボット工学や自動運転車関連の研究で知られるカーネギーメロン大学(CMU)が同市にあることが一因とも思われるが、今回紹介するスマート信号機の話もやはり同市とCMUに関するものである。
先ごろIEEE Spectrumに掲載されていた記事によると、CMUでロボット工学を研究するスティーブン・スミスという教授が、Frontier Conferenceで行った「AIを活用してビッツバーグの交通渋滞を緩和(AI to Relieve Pittsburgh Traffic Congestion)」と題する講演のなかで、道路の交通渋滞が原因で生じる経済損失は米国全体で年間1210億ドルにのぼり、また自動車のアイドリング時に排出される二酸化炭素の量は250億キログラムに達するなどと述べていたという。二酸化炭素の250億キログラムについては適当な比較材料が思い浮かばないが、1210億ドルのほうはアップルの年間売上(2170億ドル、2016会計年度)のざっと半分強になる計算で、1ドル=100円換算だと12.1兆円だから、いずれにせよ相当な時間が自動車の車内で浪費されていることになる。
この時間や資源の無駄を省くべく、スミス教授がサートラック(Surtrac)社という自分のベンチャー企業で開発しているのがAIを活用した信号機管理システム。ピッツバーグ市街で行っている実験では、このシステムを導入したことで自動車による移動時間が最大で25%短縮され、アイドリング時間も40%以上減少、さらに二酸化炭素排出量も推定2割ほど削減といった結果が得られたという。
同記事ではほかに、渋滞緩和のための道路拡張などにかかる費用が不必要になるといった効用もあげられているが、これに関する試算の数字などは出ていない。また、ピッツバーグ在住というこの記事の筆者が、「人口が増加中にもかかわらず、このシステムのおかげで、さほどイライラせずに自動車を運転できているのはウソではない」などと記しているのも面白い。
スミス教授が開発する信号機システムの特徴のひとつは、信号機に取り付けたセンサー類やカメラから集まるデータをAIベースのアルゴリズムで処理し、最適な信号切り替えのタイミングを決定できること。従来のシステムでは、数年に一度といった頻度で切り替えのタイミングが更新されていたともあるので、それに比べるとはるかに柔軟なトラフィックへの対応が可能ということだろう。またこのシステムが分散型で、信号を切り替えるタイミングをそれぞれの信号機が判断するという点も興味深い。
2012年に始まったこの実験、AI信号機を導入した交差点の数は当初の9箇所からいまでは50箇所まで増え、今後もさらに増加する見通し。また24箇所の交差点には、車輌とのデータ通信を目的とした無線装置も設置されており、近い将来にはこの仕組みを使って自動車のドライバーに道路の混雑状況を伝えたり、信号の変わるタイミングを事前に知らせたりすることも想定されている。さらに、ウーバーなどが開発・実験を進める自動運転車がいずれ公道を走るようになった際には、この信号機システムとそれらの車両が連動することで、効率の良い交差点が実現する可能性もすでに視野に入っているという。
なお、ピッツバーグといえば長い間製造業が主要産業で、とくに「鉄鋼の町」というイメージが強かった---「スティーラーズ」という名前のプロフットボールチームがあるのはその名残りだが、そうした第二次産業が衰退した1960年代以降、この半世紀ほどは人口の大幅な減少が続いていた。Wikipediaにある「Pittsburgh」の項目をみると、同市の人口は1960年の約60万4000人から2010年には約30万5000人までほぼ半減していたとある。同時に、産業構造の転換には成功しているものの、全体としてみると大きな人口増加にはつながっていないといった情報も見つかる。ウィリアム・ペドゥート(William Peduto)という市長がウーバーの支援に積極的などとされる背景には、自動運転車関連の雇用創出などによる町起こしという行政側の意図がかなり明解に感じられもする。
【参照情報】
Pittsburgh's AI Traffic Signals Will Make Driving Less Boring - IEEE Spectrum
Stephen F. Smith - CMU
Surtrac - intelligent traffic signals
Census shows population decline in Pittsburgh region - Pittsburgh Post-Gazette
Pittsburgh - Wikipedia
Uber CEO and Pittsburgh Mayor Discussed Reducing State Fines, Emails Reveal - Motherboard (VICE)
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登録はこちらオンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。