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Ready for the Road(Google Self-Driving Car Project)

「ユーザーは乗客」「見る人の安心が大切」 自動車と自動運転車のデザイン、違いをグーグルカーの女性デザイナーが語る

2016.11.02

Updated by Hayashi Sakawa on November 2, 2016, 06:50 am JST

グーグルカー(グーグルが独自に開発した自動運転車のプロトタイプ)のデザインを担当した女性デザイン責任者へのインタビュー記事が、少し前にThe VergeとFortuneにそれぞれ掲載されていた。どちらの記事も、レッドドット・デザイン・ミュージアムというシンガポールの美術館が主催したコンテスト(The Red Do Award)でグーグルカーが最優秀賞にあたるLuminaryに選ばれていたことにちなんだもので、ピクサー製作のアニメーションにでも出てきそうなあのデザインがどういう考えから生まれてきたかなどがわかる面白い記事だった。今回はこれらの記事のなかから目に留まった点をいくつか紹介する。

自動車開発未経験の女性デザイナー

YooJung Ahnさん(カタカナ表記だとおそらくアン・ユージュンになるか)というこの韓国人女性デザイナー、LinkedInのページをみるとLG電子、モトローラ、モトローラ・モビリティを経て、2012年からグーグルに在籍とある。モトローラ・モビリティ時代にはインダストリアルデザイン責任者(Lead Industrial Designer)としてAndroid スマートフォンなどの開発に従事とあるので、グーグルによる同社の買収を機にそのまま移籍したのかもしれない。いずれにせよ、そういう広義の家電製品のデザインに一貫して関わってきた人物を、グーグルがどうして自動運転車の開発チームに加えようと思ったのか、また後にはそのデザイン責任者に据えることにしたのかといったあたりは興味を引くところだが、生憎とそうした経緯に触れた説明は見当たらない。ただ、この人材抜擢が結果的には正解だったということが今回の受賞ではっきりしたといえそうだ。

なお、今年度のThe Red Do Awardには合わせて4698件の応募があり、グーグルカーはその中から最優秀賞に選ばれたという説明がFortune記事のなかにはある。またThe Verge記事には、BMWやフィアットクライスラー、フォードといった自動車メーカー各社でも、異業種で経験を積んだデザイナーを積極的に採用しているという一節があって面白い。

正直なデザイン

「デザイン作業の初期段階では、初めての自動運転車ということもあり、まるでSF映画にでも出てきそうな超未来的なかたちをイメージするスタッフも多かったけれど、この第1号車のデザインはそんな超未来的でどこか冷たい印象を与えるものではなく、むしろ温かみの感じられるものにしたほうがいいというのが、作業を進めていくうちにわかってきた」AhnさんはFortuneに対してそう語っている。「最高時速25マイル(約40キロメートル)しかスピードの出ない自動車なのに、時速200マイルで走りそうなデザインにするのは正直なことではない(そんなことをしたら、乗客や見る人に混乱を招くだけ)」「比較的ゆっくりとしか走らない自動車なら、そうであることが外見からも伝わるようにすべき」などともAhnさんは述べている。どの指摘も「言われてみれば至極当然」と思えるかもしれないが、強く印象に残る見識であるのは間違いない。

新しい「安心と安全」をかたちに

グーグルカーの配色が白とグレイのコンビネーションになった理由について、Ahnさんが「見る人に不安感を与えないため」などと説明しているのも面白い。「赤とかそういった他の色のほうが目立ってよかったのでは」という質問に対する答えだが、赤や緑、オレンジといった色を使うと人間は不安感を抱いてしまうものらしい。自動運転車というまだ得体の知れない代物、場合によっては凶器にもなりかねない新しいものを社会に受け入れてもらう上では、そうした部分まで十分に配慮する必要があるということだろう。

また、そもそもドライバーの存在を想定していないグーグルカーをデザインするにあたって、当事者らが「ユーザー(乗客)と歩行者を意識して」作業を進めたというAhnさんの話はさほど意外ではないが、これは自動車をデザインする人にとっては非常に大きな発想の転換なのかも知れない。

なお、Ahnさんは現在グーグルがフィアットクライスラーと共同開発を進めるミニバンベースの自動運転車開発プロジェクトで、やはりインダストリアルデザインの責任者を務めているとのこと。市販車(Chrysler Pacifica)ベースという制約があるなかで、いったいどんなデザインの製品を仕上げてくるのか。今後の動きに注目したい。

【参照情報】
Google's self-driving car design boss speaks on her strategy - The Verge
How to Design a Car When You're Not a Car Designer - Fortune
Red Dot Award: Design Concept 2016

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坂和 敏

オンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。