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「神の声」と機械学習で生活習慣改善をサポート、患者の心に寄り添う支援を実証実験

2016.11.07

Updated by Asako Itagaki on November 7, 2016, 18:26 pm JST

1か月ほど前に、友人から活動量計をもらった。歩数と睡眠を測定するだけなのだが、これがなかなかに面白い。「1日8000歩は楽に達成できても、10000歩は意識しないと到達しない」ことが数字で実感できると、日々の生活の中でも「少しここは遠回りしてみよう」と考えたりする。そうこうするうちに体重も少しずつ落ちてくると、ますます面白くなってくる。

ところで、肥満のコントロールが重要になる病気が糖尿病だ。先日開催された「Oracle Cloud Days 2016」で紹介されたあいち健康の森 健康科学総合センター(以下「あいち健康の森」)による取組が興味深かったので紹介したい。

▼あいち健康の森健康科学総合センター 主任専門員 加藤 綾子 氏

「ほんの少し」の生活改善になかなか取り組めない患者たち

毎年行われている「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、70歳以上では男性の4人に1人(22.3%)、女性の6人に1人(17.0%)が糖尿病とみられる。もっと深刻なのが、糖尿病が疑われるのに未治療だという人が大変多く、「40代女性では糖尿病と疑われる人の4割が未治療と大変高くなっている」(あいち健康の森健康科学総合センター 主任専門員 加藤 綾子 氏)ということだ。

血糖値コントロールをせずそのままにしていると、網膜症、神経症、腎症と合併症がどんどん進行することになる。進行率はヘモグロビンA1c値が7%を超えると急激に上がるという研究結果もあり、これを押さえることが本人にとっても、また医療費抑制という観点からも重要となる。そのために最も効果的なのが「肥満」のコントロールで、成人してからの肥満が原因で発症する2型糖尿病は、多くの人が肥満のコントロールによって現状を維持できるのだという。

要は減量しなさい、ということなのだが、ではいったいどのくらい減らせばよいのかというのが次の疑問だ。実はわずか3-5%の減量で、数字は大きく改善されるのだそうだ。決して無理はしなくてもいいので、ほんの少しだけ体重を減らしてそれを維持できる生活習慣が身に付けばよい。

▼体重変化率3-5%程度で、各種数値は有意に改善される。

課題となるのが治療からの脱落を予防し継続させること、そして生活習慣改善を支援することだ。とはいっても、「治療のための生活習慣改善」は何かと我慢を強いられる、暗いイメージがつきまとい、なかなか積極的に取り組んでくれない患者も多い。

「神の声」のアドバイスで反発を和らげる

「あいち健康の森」は日本オラクル、オムロンヘルスケア、アビームコンサルティング、医療機関などと共にコンソーシアム「チーム七福神」を結成し、2016年3月に行われた経済産業省「個人の健康・医療情報を活用した行動変容に向けた実証事業」の公募事業で健康管理アプリ「七福神アプリ」を開発し、アプリを使用する介入群100人と通常の診療と指導のみを行う対照群100人の計200人で実証実験を行った。

▼「健康・医療情報を活用した行動変容に向けた実証事業」の目指すもの

七福神アプリで管理するのは体重、血圧、歩数の3つの指標で、オムロンヘルスケアが提供するデバイスで測定して記録する。検査データはクラウド上に蓄積され、週2回、健康管理のアドバイスが七福神からメッセージで届く。頑張って効果が出れば褒めてくれるし、少しさぼった時も「もう少し歩けば元気になれる」と激励してくれる。

七福神をキャラクターに採用したのは「さぼっているときの叱咤激励も、神様の声なら受け入れられるだろう」(加藤氏)というアイデアからだ。実際、週2回しかメッセージが来ないと分かっていてもアプリを毎日チェックする人が多いことに驚いているという。

糖尿病の治療をする医療機関にとって一番の悩みが、「日常のデータが分からない」ことだ。もし1か月に1回診療に来たとしても、残りの29日のデータの変動が分からなくては、目隠しをしたまま診断を下しているようなもの。日記を書いてくださいといっても、患者はさぼっていることがバレて医師に怒られることを嫌がり、正確な記録をしてくれないことも多々ある。こうしたアプリで「毎日」正しく測定された数字が共有できれば、正しい治療方針が立てやすくなるし、生活指導も的確に行える。

機械学習で「脱落しやすい人」を発見

この事業では、蓄積したデータをもとにした機械学習により、「生活改善から離脱しやすい人」の予測にもチャレンジしている。

Oracle Database Cloud Service上で、Oracle Advanced AnalysisとData Minerを使用して複数のアルゴリズムを比較し、「BMI値が〇〇以上の被験者はXX日目で脱落する傾向にある」といった知見をディシジョンツリー形式で得ることができている。「実証開始後1か月程度のデータでも結果が出たことが重要。糖尿病患者+それに近い人、という精度の高いデータなので、100名のデータでも高精度に予測できる」(日本オラクル株式会社 下道高志氏)という。

▼機械学習により複数のアルゴリズムを比較し、予測精度や属性ごとの影響度などを算出する。

「機械学習はまったく未知の領域だったけれども、データを分析することで糖尿病の生活習慣支援にどの項目がどうつながっているか、またどんな人が脱落しやすいかが分かればと期待している」(加藤氏)人ごとに脱落しやすさが分かれば、適切なタイミングでアドバイスを送ったり、診察の頻度を最適化していくことも可能になる。

コンソーシアムでは、2017年2月の報告に向けデータを整理中だ。機械学習による分析が、患者の心によりそうタイミングで「神の声」を届けることで、効果的に行動変容を促すというアプローチはなかなか興味深い。

【関連情報】
個人の健康・医療情報を活用した行動変容に向けた実証事業の公募を開始します(METI/経済産業省)
IoTを活用した新たな「健康増進・管理」に係る実証研究が始まります。 -毎日の糖尿病管理を“七福神”が伴走!未受診・脱落・コントロール不良をなくせ!!-(あいち健康の森)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。