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なぜ発達障害者は日本企業で働くのが辛いのか?
Why people with ASD find it difficult to work for Japanese offices
2016.12.31
Updated by Mayumi Tanimoto on December 31, 2016, 08:26 am JST
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Why people with ASD find it difficult to work for Japanese offices
2016.12.31
Updated by Mayumi Tanimoto on December 31, 2016, 08:26 am JST
年末でありますが、ネットを巡回していましたら以下のようなまとめを発見しました。
発達障害のある人の認知と思考②~ASDのある人の職業適正を考える~
上記のまとめに掲載されているように、発達障害のある人の就労支援に携わって来た松本太一さんによれば、
ASDの人が得意な仕事とは「業務上の判断に必要な全ての情報が静的データとして提示されている仕事」と言えないか。逆に苦手なのは「判断に必要なデータが動的であり実行して初めてわかるような部分が多い仕事」であると言えないだろうか。
でありますが、私はこのまとめを読んで、英語圏の職場と、日本の職場の違いを考えていました。
英語圏と日本の職場の一番の違いは、前者は個人主義的であり、後者は集団主義的であるという点です。
個人主義的というのは、仕事の指示や品質標準というのが、ある程度は明文化されています。各人の担当する仕事は明確になっており、分業制が基本です。属人化を極力避けてあるので、その仕事に、似たような技能を持つ他の人を割り当てることも可能です。責任分界点は雇用契約書で明確化され、業務評価や業務の工数計算もやりやすくなっています。
基本的には決められたこと以外はやりません。作業や意思決定に必要な情報は極力共有化されるので、外部の人や新人でも、仕事がやりやすくなっています。
つまり上記まとめのように、静的なデータを元に作業したり意思決定することが多い環境なのです。
こういう仕組みは、英語圏が文化的に個人主義である点と強いつながりがあると考えています。個人主義ということは、各自が最初から異なる存在であるということを前提とする社会のことであり、お互いが異なるため、情報を極力言語化して伝え、意思の疎通をはかります。
言語化するということは、動的なデータを記録したり、言葉でいい換えるということですから、静的なデータに置き換える、ということです。
アメリカの職場のマニュアルや学校の教科書は驚くほど分厚く、イギリスではやたらと企業のトップや幹部が従業員向けの対話会をやります。言語で説明することが前提だからです。アメリカの場合特に人が多様ですから、日本の教科書やマニュアルだと省くことまで書いてあります。
情報は言語化され文書化されているので、チーム内の統制を高めるような儀式は、日本に比べると多くはありません。人事部がパーティーやチームビルディング活動をやることもありますが、人の移動が激しいため、その効果はそれほどありません。
一方、日本も所属する集団主義的な文化圏の場合は、チーム、会社、村、学校、地縁、血縁、学閥等、同じ組織に所属する人間なら、お互い似ているということを前提するので、全てを語りません。意思疎通には非言語的なコミュニケーションを重視します。ジェスチャーや仕草、行動、習慣などを通して意思の疎通をするので、思っていることの言語化を避けます。
組織内のルールやノウハウは明文化しません。空気を読んで作業することが前提なので、各自の責任分界点や担当範囲は曖昧です。業務の多くは属人化し、アイディアやノウハウは言語化せず、盗んで覚えろ、見て覚えろ、空気を読め、という対応が求められます。
つまり、日本の組織内では動的なデータを駆使して作業したり意思決定したりすることが多い、ということです。
外から来た人間、第三者、新人、外国人などには極めて厳しい環境であります。一方で、言語化や文書化の手間は省けるので、コミュニケーションの「コスト」は低くなります。言語化できないノウハウや知も集団の中で伝承されます。そのため組織の管理や作業の効率はよく、緻密なサービスや作業が可能になります。
集団の統一感を保つための儀式が盛んに行われます。学校であれば、それは文化祭や体育祭、遠足であり、職場なら飲み会や親睦会、朝礼、町内会ならドブさらい、廃品回収に祭りです。そうういった儀式は大変重要なため、労働時間外の私的な時間も費やすことが当たり前だと考えられています。そのため、日本の人は、学校や職場で過ごす時間が長くなります。
英語圏の職場、特にテック業界には発達障害者だろうなと思われる人が少なくありません。公言している人もいます。日本だったら即クビになってしまうようなタイプの人です。彼らは管理職にはなりませんが、技術専門家や外部コンサルタントとして結構な報酬を稼いでいます。しかも技術専門家の方が管理職よりも高報酬だったりします。
発言が単刀直入すぎるとか、空気を読まないとか、職場のクリスマスパーティーに来ないといったことは、それほど批判されません。求められるのは雇用契約書に定義された適切なアウトプットを出すことなので、それ以上のことは求められていないからです。ですから、時々変なやつだと言われることはありますけども、多少コミュニケーションに難があってもなんとかなります。
英語圏のテック業界が画期的な技術なビジネスモデルを生み出している理由の一つには、静的なデータを使用して働くことが可能だということがあるかもしれません。そういう環境は、発達障害者やその境界線にある人だけではなく、外国人や外部協力者にとっても楽な職場です。
日本の衰退というのは、組織の少なからずが、動的なデータを使用して働くことが最適化されすぎてしまったがために、サイロ化しているというところにあるかもしれません。効率が良すぎることの裏返しとして、イノベーションや多様性を犠牲にしているのです。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。