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【MWC 2017】IoTのアプリは国や社会ごとのローカルで作る――エリクソン幹部

2017.03.02

Updated by Naohisa Iwamoto on March 2, 2017, 06:39 am JST

通信インフラの技術が5Gへと着実に向かう中で、IoTは最も期待されるユースケースの1つだろう。そのIoTで今後のビジネスを成功させるために、日本は世界とどのように付き合えばいいのだろうか。グローバルでビジネスを展開するエリクソンで戦略部門の担当責任者(Global Head of Business Strategy)を務めるMikael Bäck氏に、Mobile World Congress 2017の会場でIoTの進展とビジネス展開のポイントを尋ねた。

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――まずIoTは産業や個人にどのようなメリットを与えると考えていますか

Bäck氏:産業では、特に製造業や運輸業などでIoT技術を使うことによって効率化が高まると考えています。例えば、エリクソンはトラックメーカーのスカニアと協業してトラックのコネクテッドカー化を推進していますが、現状ではトラックの貨物スペースの40%は有効に活用できていないと聞きます。IoT化することで、輸送の最適な計画が立てられるようになれば、大きな効率アップが見込めます。

一方で、一般の人の生活はどうでしょう。テレビがインターネットにつながり、クルマもコネクテッドカーへと着実に変化しています。利便性や安全性がIoT化によって手に入るようになってきています。変化はそれだけではありません。米国ではAT&Tやベライゾンといった通信事業者が、スマートホームの一種としてホームセキュリティのアプリケーションを提供し始めています。これは、通信事業者がセキュリティ企業のコンペティターになる可能性を示唆しています。このようにIoT化により、サービスを提供する企業が変化して、新しい価値を提供するようになるかもしれません。

――グローバルでこうした動きは共通のものですか

Bäck氏:ここが1つの着目点だと思います。IoTの進展はグローバルで共通のことですが、実際の利用の仕方、ユースケースは国や社会によってそれぞれ違うというのが、私の見解です。日本とアメリカとヨーロッパと中国では、それぞれ社会が異なり、求められるユースケースも違うのです。

注意したいのは、IoTや5Gを「技術」だと考えてしまうことです。実際には、IoTや5Gは技術そのものではなく、産業や人々の暮らしにどのようなメリットをもたらすかというユースケースの提供だからです。それは市場ごとに異なります。あるユースケースは日本で先に起こり、欧米が追随することもあるでしょう。一方であるユースケースは欧米では広まっても、日本では使われないこともあるでしょう。ですから、他の国のユースケースを別の国に持ち込んでも、効果が得られない可能性が高いことを認識しておく必要があるのです。

――どこが共通で、どこが異なるのでしょう

Bäck氏:技術は、グローバルで共通であることが理想です。グローバルでエコシステムが作られ、規模の経済が有効に活用できるからです。その一方でアプリケーションは、ローカルなものが有効だと考えています。

エリクソンではコンシューマーラボという組織で、世界の主要国の人々の技術に対する意向などの統計を取っています。世界各国で共通するのは、「低料金で情報にアクセスしたい」といった点です。しかし、プライバシーに関する考え方などは国によって大きく違います。プライベートな情報をWebサービスなどにシェアすることに問題を感じない国がある一方で、非常にプライバシーに敏感な国もあります。そうした国と国では、利用できるアプリケーションも大きく異なるのです。

産業でも実は同様のことが考えられます。自動車産業では、例えばドイツのBMWと、日本のトヨタでは、それぞれのエコシステムが異なります。同じような製品の議論をしていたとしても、基盤となるエコシステムが異なるのですから、IoT化を推進するとしてもアプリケーションの作り方がまったく違う可能性もあるのです。

――2020年に向けて、日本にメッセージをください

Bäck氏:移動通信技術を見ると、2GやPHSのころから日本ではM2Mなどで、現在のIoTの先駆けとなるようなアプリケーションを多く実用化してきました。そのころは日本独自のシステムが利用されていましたが、3G、LTEと世代が進むに連れて国際標準への準拠が進んできました。今後の5Gでも国際標準の利用を推進していくことは間違いないでしょう。

その上で、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。5Gのショーケースとしては最適なタイミングでしょう。IoTやコネクテッドカー、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの進展が考えられます。そこで、日本発のアプリケーションがどのようなユースケースでメリットをもたらすかを考えれば良いのです。

エリクソンとしては、オリンピックや世界選手権などの大きなスポーツイベントにおける通信事業者の運用について、多くの経験を持っていることが強みだと考えています。日本が2020年に体験するスペシャルなイベントで、最高のパフォーマンスを提供できるように支援していきたいと考えています。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。